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First memory(Hinata)14

「あなた、フィリアのこと好きなの?」
 握っていたペン先がバキリと音を立てて壊れた。
「ちょっと、アイン! あんた、直接的すぎ!!」
「好きなの?」
 机に腰かけたアインさんを無視して、私は新しいペンを取り出し続きを書き始める。
「あなたが本気なら、私、フィリアを譲ってもいいわよ」
 その言葉を聞いた瞬間に私は、反射的にアインさんの白衣を掴み上げていた。
「おー怖い顔。恋する乙女の顔とは程遠いわね」
 握る手に更に力が加わる。余裕ぶっているアインさんの顔面目掛けて折れたペンを振り上げた。
「そこまで!!アインも、ヒナタも、少し落ち着きなよ」
 ドライさんの言葉にふと、我に返りペンを床に落とす。
 衝動的とはいえ、私は一時の感情で自分の上司に手を上げようとした。
 ドライさんがいなければ傷害沙汰にまで発展するようなことをやらかしたのだ。ようやく上り詰めたはずの自分の立場を自ら手放す行いをしたのだ。

「申し訳ありません!!! 如何なる処分も受けるつもりです……自室にて待機します。失礼します」
 頭だけを下げ、謝罪の言葉を口にした私は医務室を逃げるように出ようと出口へと向かった。
「待ちなさい」
 アインさんは机から降りると、私の方へゆっくりと歩み寄ってきた。
「なん……でしょうか?」
 背中越しに彼女の言葉を聞く。今、顔を見れば殴り飛ばしてしまいそうだったから。
「私は、まだあなたの答えを聞いてないわ。ねぇ、フィリアのこと好きなの?」
 ぎりっと強く歯を食いしばる。言わなくても……。わかってるくせに――。
「――――っ」
「答えなさいヒナタ!これは命令です!!」
 振りかえって見た、アインさんの表情は本気だった。誤魔化すことなんてできそうにない。半端な答えは許されないだろう。
 唇を、強く噛む。拳を固く握りしめる。涙をぐっと堪える。ありとあらゆる場所に力が入った。
「アイン、そんなに虐めなくても……」
「――きですよ」

 もう――どうにでもなれ――

「聞こえな——」
「好きですよ!! わかっているでしょ! あなたほどの人なら!! 私の口からわざわざ聞かなくても……私は学生時代からずっとずっとフィリアが好きです! もちろん今も変わらず私は彼のことを愛しています!!! でも、あの子にも、あなたにも私は敵わない……でも、あなた以上に彼を愛しています!……これで満足ですか? 満足でしょ!?」

 半ば、狂乱気味に私は言葉を吐き出し。溜まっていたものをぶちまけるように涙を流して叫び、想いの丈をさらけ出した。
「わかった。処分は追って伝えます……じゃ、後は自室で待機しててね♪」
 アインさんは、業務的な言い方をしたかと思うと直後には満足そうな笑みを浮かべ、それだけ言うと医務室を去っていった。

「ちょ、ちょっと待ちなよ。アイン!!」

 その背中をドライさんが慌てて追う。
 力が抜けてその場にへたり込む。
 我ながら、また馬鹿なことをしたと思う。あんな安い挑発に乗るなんて私らしくない。
 私は、こんな……こんなつまらないことで躓いて、置いて行かれちゃうのかな?


――続く――

作:小泉太良

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双校の剣、戦禍の盾、神託の命。」もどうぞご覧ください。
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