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30 魔女信奉者

【最後に今回の模擬戦闘の勝利条件を通達しておく____条件は、相手の四肢のいずれか三か所以上の怪我、欠損による戦闘不能状態、もしくは絶命のみとする。戦闘が続行可能な状態にある以上は最後まで戦い抜くこと。それここそがシュバルトメイオンが求める真なる騎士の姿である】

「ねぇ、これは冗談か何かなの?」
「そ、そうだよねぇええええ、ぼぼぼ、僕も冗談だったらいいなぁ~なんてぇ~アハハ」

 カレッツの顔色はすこぶる悪い色をしている。だが、表情だけならこの場にいる全員も同じような表情を浮かべていた。

 その中でメルティナが生徒会のメンバー達におずおずと問う。

「あの、私の相手の方、皆さんは知っていらっしゃいますか?」

「おう、なんてやつなんだ?」

 ガレオンが尋ねる

「グリムさんって名前でした」

 その名を聞いた瞬間に生徒会のメンバーの空気がまたも一変し、また違う種類の緊張感が室内を包み込んでいく。

「な、グ、グリムだとぉ!? っっおいおい!!!! 会長!!!!」
「ガレオン静かに。落ち着きなさい」
「けどよぉ!!!」

 ガレオンの様子にメルティナは概ねどのような相手なのかを察した。だが、そもそも知らない相手なので彼女自身は怯えようがなかった。

 ただ、そうだとしても自分自身が異様に落ち着き払っているということを認識し、メルティナはそれがどうしてか分からず不思議な感覚に陥っていた。
 情報を集めれば何か自分の中にも相手の人物像が生まれ見えてくるのではないかと質問を続ける。

「えと、今ので何となくわかったんですけど、その人、危ない人、なんですか?」

 生徒会のメンバー達は顔を見合わせて視線を交わし合った。エルが頷き、言葉を選ぼうと僅かに考えた直後、こう答えた。

「そうね~。うーん。隠してもしょうがないと思うし言うけど、危ないなんてものじゃないわぁ。貴方が生徒会に入るきっかけとなったウォーストラテジーゲームの際にわたしが言った『魔女信奉』という言葉を覚えてるかしらぁ?」

「はい」

 魔女信奉という言葉から想像できる範囲として、なにか宗教的な側面があるのではないかとメルティナは推測する。そもそも魔女自体が近年まで実際には存在していたこともあり、ある意味で信奉者といってもただの憧憬の形なのではないか? とも取れる。

 魔女の危険性などの話は聞いたことがあるが、自分の目で見たことがあるわけでもなく、実感が湧かないメルティナにとってはどうにも生徒会のメンバー達とは受け取り方に相違があり想像しずらいところが多々あった。

「ソイツは自分がその『魔女信奉』であることを大々的にオープンに吹聴して過ごしてるような奴サ。この学園内に在籍しているような事がなけりゃとっくの昔に国に捕まってる首が飛んでるようなヤツなんだけどナ」

 アイギスがエルに次いで横から説明する。

「アイギスの言うように思想としてはシュバルトメイオンの国内において第一級の犯罪者レベルの思想を持っているという事。これだけでもとても危険な相手だと言えるわねぇ」

「……そう、ですか」
 メルティナが歯噛みして僅かに震えだした。周りはその様子を見て目を見合わせた。どうやら怯えていると思われているようだ。
 実際にはそれらの話を聞いても相手に対して少しの恐怖も生まれてこない自分自身への恐怖からだったのだが、このタイミングではそんなことは誰にも分からない。

「ただ、あんまり自身で戦闘をしている所は見たことがねぇのも事実だ。思想自体は危険極まりないだろうが、戦いはからっきし雑魚な可能性もある」

 ガレオンが楽観視した意見を伝える。今はこれくらいの事しか言えないのだろう。彼女、グリムは考え方こそ危険な思想の持ち主だがほとんど前線で戦う事がないことらしく、そうした考えに至る事も不自然でない。戦う事が得意ではない可能性も十分にあるといえた。

「でもこれで、エナリア派閥である我々は生徒会をこれからも存続させるためには全員が勝たなければならない…という訳ですわね。誰か一人でも欠ければ他勢力とのバランスが再び崩れ、再び東部は前回の東西模擬戦闘、、、イウェストの直後のように大混乱する」

 生徒会の面々は状況の悪さにそれぞれ暗く沈み込んでいる。まだギブングやイウェストのような集団戦闘であればお互いに力を貸し、フォローをすることも出来るがオースリーは完全に個人対個人の戦いであるがゆえに一切の手出しが不可能となる。

 当然、決まりを破れば退学というペナルティが待っており、それぞれが別々に騎士になる為にここにきているという目的を考えればおいそれと助ける事も出来ない。騎士になる為のルートが今の国内では双校制度を抜けていくより他の道がないのだ。仲間に力を貸したくても貸せないという状況が生まれる。

 そして、今回通達されたオースリーの勝利条件とも相まって、その過酷さはこれまでの学園生活の中で最も苛烈なものとなるだろうと生徒会の誰もが思っていた。

 先の条件に照らすなら、確実にこのままでは対戦した相手、どちらか一方の生徒は必ず命を失う、つまり死ぬことになる。四肢のうち三か所の欠損など、その時点で生きていられる保証はない。

 絶望感がこの場の生徒達に漂う、しかし、拒否することは出来ない。これらの行事だけは国からの指示が絶対となり、学園内自治優先の効力というものはこの期間中だけではあるがその一切が失われるという状況は覆る事はない。


 エナリアは、士気の下がる生徒会の面々を見渡し、意を決して一言、こう告げた。
「全員、生きてまたここで会いましょう」

 それ以上の事は言えなかった。
 だが、今はそれで十分だった。生徒会の面々は静かに口を閉ざしたまま、ゆっくりと全員が頷いた。



続く

作 新野創
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