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38 ズレた計画
自由公園区画にある木々の小さな茂みに囲まれ外からの視界に遮られるような位置で会話が行われていた。その場に居るのは3人なのに、4人の声色が会話を行っていた。
「そう、ディアレスがハルベルトに、、、」
寡黙で小柄な少女は呟いた。
報告をしているらしき声の主の姿は変わらず見えない。だが、3人は気にすることなく話を聞いている。
これもいつもの彼らの光景で、連絡係となっている女性の姿をこの場に居る3人もまだ見たことはない。
「……あと、西部に在学している奴らからの連絡もないの。何かあちらであったのかもしれない。それについては調べておく。注意しておいて。ここまできて失敗するわけにはいかないものね……こちらからの報告は以上よ」
そう言うと女性の艶やかな声はそれきり聞こえなくなった。この場から既にいなくなったのだろうか?
いつも通り何事もなかったように、お喋りそうな少女がポニーテールを揺らしながらクスクスと笑いだした。
「にしてもウケる。案外あっさりやられちゃうんだ。死なない体を持っているとか言ってなかったっけ? 冗談だったんだアレ」
大柄な体躯の男は一つ大きなあくびをしながら話す。
「さぁなぁ? ディアレスもこの学園の生徒で人間なんだ、普通に死ぬこともあるだろ」
大柄な体躯の男があくびをした後に視線を泳がせて、この場にいない男の名を呼ぶ。
「で、そういえばフェレーロはどうした?」
お喋りそうな少女は楽しい事が起きているなという表情でしきりにニヤニヤしている。
「さぁ、もう模擬戦の準備でもしてるんじゃない? 相当に目が血走ってたもん。ま、無理もないかぁ、恋焦がれた相手との模擬戦での逢瀬なんて運命じゃんね? 超素敵なんだけどー、いいなー」
まるで恋する乙女のように顔を火照らせて想像を働かせているようだ。
「…目的を忘れなければいいが、な」
鋭い眼光でピリッとした空気が一瞬男から発せられた。
「アハハ、あの感じじゃ、忘れてそーだけど、本筋は私たちがやればいいわけだし、ほっといていいでしょ……ディアレスみたいにやられちゃったりしたら~、個人的には超楽しいけど……あ、で、そっちは上手くいったわけ?」
ポニーテールを揺らして二人を見つめた目も明るい表情とは裏腹に冷たい光を放っている。
さわさわと風が凪いで、周りの木々を揺らしている。わずかな沈黙が場に流れた後に小柄な少女は口を開く。
「…うん」
少女に続き男もまた口を開き、今回の目的が済んだことを肯定する。
「ああ、問題なく完了した。英雄の孫も人を切ったのは初めてだろう。顔面蒼白にしてやがった、もう立ち直れないと思うぜ。下手すりゃ剣も握れなくなってるかもな」
それを聞いてあからさまに残念そうにため息をついて彼女は落ち込んだ。
「はぁ~、ゼア君死んじゃったのか―、一回くらいはデートに誘っておけばよかったぁ~」
ポニーテールが分かりやすく落ち込んだように垂れ下がった気がした。
「…はぁ」
「あれれ? あ、ため息ってことはあんたも実はゼア君が気になってたとか?」
「いいえ…貴女の今の発言にため息を吐いただけ」
話を聞いているのかいないのか、視線を空中に投げて束の間考えた彼女は何かに思い至り、両手をポンと打ち鳴らした。
「あれ? ってことはさぁ、シュレイド君って今は超傷心ってコト!? うっわ、これはチャンスじゃん?」
「…はぁ」
再び同じ流れでため息を吐いた少女は頭に手をやって下を向く。が、その空気を締めるように大柄な男は目下の問題点を挙げて、二人を見下ろした。
「で、こっから俺達の管理者はどうするんだ? ディアレスがここで脱落なんて想定してなかったんだが」
3人は目を見合わせる。確かにここでディアレスを失う事は今の彼らの行動予測としてはイレギュラーで、様々な根回しをしていた男を失って立ち回りにくくなったのは確かな事だった。
「ハルベルトの力を見誤っていた私のミス…だから、引継ぎは私が行う」
小柄な少女はそう申し出る。
「そうか、俺は面倒なことはごめんだからな。異論はない」
「あたしもー!! オースリー終わったらシュレイド君とデートする時間ほしいしぃ」
どうやら特に難航せずに決まった。目的は同じとはいえ慣れ合うつもりはない様子がそのやり取りからは察せられた。結果的に目的が果たされるならばそれでいい。ということのようだ。
「…はぁ…貴女こそ目的を忘れないで、サリィ」
「ふへへ、分かってるよぉ、大丈夫」
「んじゃ、オースリー後の報告でな」
「アンヘル~、ディアレスみたいに死なないでよぉ?? アハハ」
「そんなヘマしねぇよ、あの戦いを見てたからか身体が疼いちまってたまんねぇぜ。んじゃな」
アンヘルと呼ばれた大柄な体躯の男は両の拳を打ち鳴らして、どっしどっしと歩いて行った。
「……さて、と。邪魔者も居なくなったしぃ、一つだけ聞いておきたいんだけど?」
サリィはフッと目を細めて小柄な少女を見つめる。
「…なに?」
「あんたは、私達の味方、で間違いないんだよね?」
「…どういう意味?」
「アンヘルが言ってたあんたの力ってさぁ、魔脈の鼓動を扱って生み出してる自然の力なんでしょ? それって最後の魔女ベルティーンの終わりと共に失われたはずの魔法っていうやつじゃないの~??」
「……」
「……黙ってると肯定してるようなもんじゃん?」
「……」
「……話したくない、か。ま、いいけど……でもさ、だとすると、それって使い方によっては私達の目的に対して抑止力になっちゃう力なんじゃないのかなぁ~って思ってさー」
ポニーテールをゆらゆら揺らして、サリィは彼女を射抜くように見つめる。
「…………この力はママの命を奪った騎士、ディアナに復讐するため。ママが最後に授けてくれた力。それ以上でも以下でもない」
「……ママ、ね。まぁ、それならいいんだけど…………」
ふっとサリィは張り詰めた空気と視線を解いてニヘラと笑う。
「んじゃ、私ももういくねー」
そういうと先ほどまでの事は何もなかったように歩き出した。
「…うん…また」
「うふふー早くオースリー終わらせて、傷心のシュレイド君とこに癒しをあげにいこーっと。どんな出会いを演出しようかなぁ」
一言呟いて、とてとてと下手糞なステップを踏むように(多分本人はスキップのつもり?)しながら不格好に走り去っていった。
「…ママ。待っていてね。必ず生き返らせてあげる」
小柄で寡黙な少女も、一度空を見上げて呟いた後、ゆっくりとこの場を去って行った。
続く
作 新野創
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