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Fourth memory 12

『やち、よ?』
『……天蓋の外に出てきた? じゃあ、ヤチヨの役目は……』
『サロスゥ!!!』

 あたしは、ボロボロになったサロスに駆け寄り、思いっきり抱き着く。

 そんな、あたしの頭に驚きつつもサロスが右手をのせる。

『……よぉ、ヤチヨ、久々、だな……お前、相変わらずちっちぇな』
『サロス……なんで………なんで! フィリアを!! フィリアを本気でーー』

 あたしの泣き顔を見て、サロスからフッと笑顔が消え去る。

 それは、あたしがあまり見たことのない、とても冷たい、サロスらしくない表情だった。

 あたしの知らない間に、サロスにいったい何があったというのだろう?

 それは、きっとさっきまでのフィリアと戦っていたサロスの姿に関係があるような気がしていた。
 
 サロスは、いったい、なぜここまで強くなったのだろうか……あたしには、わからないことだらけだった。

『あぁ……見てたんだな。そっか、なら、もう、これ以上俺が何か言うことはねぇ』
 
 サロスの右手が、あたしの頭からゆっくりと離れる。そのまま、あたしから離れたサロスが真っ直ぐ天蓋の方へと歩いていく。

『……サロス、何するつもり?』

 サロスの足が止まり、とても冷たい、機械のような声が背中越しに飛んできてあたしに声をかける。

『……ヤチヨ、お前はフィリアと一緒に、ヒナタのところに帰れ』
 
 そう呟くとサロスはまた天蓋の方へとどんどん歩いていく。

『えっ? サロスは? サロスは来てくれないの?』
『……俺は、お前の代わりに天蓋に入る』
『えっ!?』
 
 サロスは、天蓋の前に立つと、懐から赤く光る宝石を取り出した。その宝石は、どこか、見覚えのあるものだった。

 そう、あの時、崩れ落ちた天蓋の中で起きたあの不思議な体験をした時に巨人から渡された物。
 
 ヒナタに助けられた時には、手の中から消えていた物だとあたしは直観した。

『約束したんだ……俺は、この「さいわいをよぶもの」の力でこいつを封印する』

 でも、これは、あくまでの過去の出来事。
 あの頃のあたしが知るはずのないモノ。

 だから、あたしの意思とは関係なく、ヤチヨが口が動く。

『サロス!! わかんないよ!! さいわいをよぶものって? 封印って? ちゃんと説明してよ!!』
『時間がねぇ……じゃあな、ヤチヨ……ヒナタとフィリアに謝っておいてくれ』
『嫌だ!! 嫌だよ!!! なんでお別れみたいなこと言うの? サロス! サロスーーーーッッ!!!』
 
 サロスが赤い宝石を頭上に掲げると宝石は激しく光り輝き、一瞬にして辺りが真っ赤な景色に変わる。

『なるほど……こいつは、思ってた以上にキツイな……体が、バラバラになりそうだ』
 
 赤い光は一瞬にしてサロスの全身を包み、もう顔以外、サロスの姿は光の中にあってほとんど見えなかった。

 あたしは、怖かった。

 今、いるサロスはサロスであってサロスじゃない……天蓋の中にいた時と同じような怖さをあたしはサロスに感じていた。

 さっきまで、フィリアと戦っていたサロス……それは、別人のように見えた。

『また、一人で決めて、勝手に抱え込む気なのか!!』
『!? フィリア』
『フィリア!! どうして!!』


 さっきまで倒れていた、フィリアがいつの間にか立ち上がり、よたよたとサロスの横に立つと、サロスと一緒に赤い光の中に体の半分が飲み込まれる

『ヤチヨ、ようやく再会出来たのにゴメン。僕も、君にお別れを言わなくちゃならない……』
『えっ……』

 フィリアもあたしにお別れの言葉を口にする。
 そんなフィリアの様子にサロスは苦笑いをしつつ、でもどこか嬉しそうに見えた。

『……フィリア、俺は、お前の命を奪ったつもりだったんだが……案外、しぶといな、お前』
『致命傷を外しておいて命を奪うつもりだった……なんて、よく言うよサロス……さいわいをよぶものの制御は一人じゃ無理だ、僕が、力を貸すよ』

 先ほどから度々出てくる さいわいをよぶもの という単語。

 当時はそれどころじゃなくて会話の内容なんて気にしていられなかった。けど今のあたしにとってこれは重要な情報のような気がしていた。

『フィリア!? お前、なんで……』
『君、こそ、なんで、その力のことを知っているんだ!! ……いや、今はそんなことを言っている場合じゃないか……わざわいをよぶものが……目覚めかけている……』

 そしてもう一つの単語 わざわいをよぶもの この言葉もあたしの心に何か引っかかりを生み出していく。

『なんだと!?』
『時間がない。君の精神が、さいわいをよぶものによって砕かれないよう、僕が君の心を支える』
『フィリア……お前……』
『サロス、君は言ったよね? 一人だけじゃできないことも、僕がいれば……僕たち二人なら何でもできるって ……これが君にできる僕の最後の手助けだ』
『!!! ……フィリア、ありがとな……』
『……本当に世話がやけるよ、君は……』
 
 サロスが小さく笑い、それを見ていたフィリアもつられて小さく笑っていた。

 ただ、そんな二人を見ているしか出来なかったあたし。
 そんなあたしの胸の奥からふつふつと言いようのない嫌な不安な気持ちが沸き上がってきていた。

 あの二人がいれば、いつもなら言葉に出来ない不思議な安心感があった。

 でも、今は、とても、心配だった。不安が募る。
 ママやアカネさんがいなくなったあの時を同じ感覚をあたしは感じていた。

『二人とも!! 何するつもりなの? もう止めて、このままじゃ二人とも!!!』
 
 そんな二人を止めようと、あたしは足を動かそうとする、でも、今感じている言いようのない恐怖があたしの足を止めてしまう。
 辛うじて動いた口で、ただただ叫ぶことしかできなかった。

『……フィリア……悪い、もう少しだけ耐えてくれ』
『サロス、僕は………』
『フィリア……ありがとな。お前が、俺のダチで良かった』

 サロスが、あたしの方を振り向く。

 それはさっきまでの怖いサロスではなく……いつもの優しい笑顔をしたサロスだった。

『サロス!!!』
『ヤチヨ!! ……ごめんな。約束破っちまって』
 
 サロスが、あたしに向けて小さく笑う。

 あたしはこの笑顔を知っている。
 これは、別れを告げる時の、あたしに別れを告げる皆がしてきた顔だ。
 
 ……あたしを安心させるためだけの嘘の笑顔だ。

『サロス、やだ!! やだよ!!!』
『元気でな。幸せになれよ』
『サロスー!!!!!』

 それがあたしの記憶の中のサロスとの最後の瞬間だった。


 白んだ視界に目を強く瞑るとその白は黒へと変わり、意識がその時間から切り離されていくようなそんな気がした。

 遠く声が聞こえてくる。その声は確かに先ほどまで聞こえていた声と同じ。でもその声よりも少し幼く、柔らかい声。

「……ティ? おい、ピスティ!!」
「えっ!? サロス……」
「大丈夫か? なんか、うなされてたみてぇだけど」
 
 寝起きのあたしの顔を見て、サロスが心配そうな表情を浮かべていた。

「うっ、うん……大丈夫……ねぇサロス、あなた昨日、いざとなりゃフィリアが助けてくれる……ってそう言ったわよね」

 突然の質問にサロスは驚いた様子をみせたけどすぐに答えてくれた。

「んっ? あぁ、それがどうしたんだ?」

「……ねぇ、なんでそうだって、言い切れるの? 喧嘩別れして何年も会ってないんでしょ?」
「あー……」
 
 しばらく考えた後、サロスがニッと歯を見せて笑う。

「フィリアだからだ。どんなに離れてもどんなに喧嘩しても多分、フィリアは俺を助けてくれるし、俺もフィリアを助ける。理由はわっかんねぇけど、多分、そういうもんなんだよ! 俺たちは!!」
 
 ああ、そうか、そうだった。この二人はいつもこうだった……久々にずるいなって、羨ましいなって思った。

 今日夢に見たあの日の二人は、直前まで殺し合いをしていたのに……。

 赤い光が、サロスを完全に飲み込むその瞬間、示し合わせたわけでもないのに、二人の息は完璧に合っていた。
 手を取り合う二人の背中がなぜだかとても遠く見えた。

 お互いがお互いを信頼していて、言葉なんかなくてもお互いの動きや、考えがわかっている。

 あたしが天蓋に入った後も二人は、きっとずっとお互いを信頼し合っていたんだろう。

 そのことが嬉しいはずなのに、どうしてだか、同時にとても悲しい気持ちも心の中に生まれていた。


続く

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