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Second memory(Sarosu)Last

 そして、ピスティはその好きなやつについて話し出した。最初は、頭ん中でそいつを思い浮かべていたが、途中で止めた。
 
 なんか、こう、胸がもやもやしたからだ。

 だから、ピスティの話も半分ぐらい上の空で聞いてしまう……聞かなければ良かったかも知れない。

 何故か、胸が苦しくなるような、気がした。

「……んで、そいつに告白? とかしねぇの? お前なら、気づいた瞬間(とき)には行動に移して―――」
 
 自分から聞いたくせに、これ以上聞いていられなくなって思わず口を挟む。

「……もう……いないから……」
「えっ!?」
「……もう、いないんだ……そいつ。消えちゃったから……勝手に……」

 なんで……笑ってんだよ……俺が嫌いな顔……すんじゃねぇよ。

 平気だよって、本心を抑え込んだ、作り笑顔……。

「……悪い。知らなかったとはいえ……無神経すぎた……」
「……ふーん、サロスも反省なんてするんだ」
「ばっ、馬鹿にすんな!! 俺だってなーー!!」
「ごめん、ごめん。でも、サロスも似たような経験、してるんだもんね……だからかな?……あいつとたまに重ねちゃうの」
「……もしかして、諦めちまってるのか?」
「……もう、消えて何年もずっとそのままだから……きっと―――」
「諦めんなよ!!」
 
 俺は……何言ってんだろ? でも、口から出た言葉を止めることはできそうになかった。

「えっ?」
「勝手に諦めんなよ! お前の好きなそいつだって、多分お前のこと好き、なんだろ? だったら、必ずお前んとこに帰ってくるって! だから、お前は信じて待っててやれ! じゃなきゃ、お前ら二人とも幸せになれねぇじゃねぇか!!!」
 
 本当……馬鹿だよな。俺……。

「それに、さ」
「?」
「ピスティもその方が笑ってられるだろ?……好きなやつの泣き顔なんて誰も見たくなんかないと思うぜ」
 
 人のことは言えない……俺もそんな言葉を言いながら作り笑顔を浮かべていた……こんなの初めてだ。
 
 俺が嫌いな表情を俺がしてる……そして、初めて知ったんだ……。

 そうか……この顔って向けられるのも辛いけど、自分がこんな表情をするのって、こんな、キツかったんだな……。

「…………うん、そう、だね……あたし、信じて、これからも待ってみる!」
「おう、そうしてやれ」
 
 ピスティにエールを送る……今の俺が出来る精一杯の……してやれることだ……。

「さぁ、じゃ次は、サロスの番よ。で、どうなの? 好きなの?」
「……あぁ、好きだよ。俺はヤチヨのことが好きだ」
 
 こうなりゃ、すべて言っちまえ。

 その方が、俺もすっきり出来るかもしれない。
 
 開き直った口から出てくる言葉を止めることはできず、自分でも驚くくらいに、素直な気持ちが溢れだした。

「……ふーん」
「なんだよ! その、顔」
「別にー」
「あー!! だから、言いたくなかったんだよ」
 
 こいつは……本当に嫌なやつだ。

 でも、だからこそピスティ……今は、ヤヨだったか?

 ヤヨであってくれたから、本当のことだって全部言えた。

 ヤヨが自分は、ヤチヨじゃないと言ってくれたから……言えた……気持ち。

「ねぇ、あんたは信じてるんだよね? ヤチヨが帰ってくること」
「当たり前だ! むしろ、迎えに行ってやる!! 大体、それを目標に今まで色々やってきたんじゃねぇか!!」
  
 そうだ、未来がどうなっていても……俺が、ヤチヨを助けたいって気持ちは変わらない。

「そう……だったね」
「……さっ、いよいよ明日だな。気合入れて今日は早く、寝ようぜ、ヤヨ……いや、ピスティ」
「……そうだね。明日のためにも、今は少しでも体を休めないと、ね……」
「おう」
 
 今度は、ちゃんと笑えた……嘘なんかじゃない――本物の――
 

 ――その日の夜中、不自然な時間にピスティが外へ出ていくのが見えた。
何故だか俺は無性に嫌な予感が背筋から脳みそに痺れるように走って、思わず飛び起き、その後を追っていった。

 周りは暗かった。けど、月のきれいな夜で星もそれぞれ瞬いているからか思っていたよりもずっと視界は明るく、見える景色が網膜に焼き付く。

 その景色は、まるで、初めて星の降る丘に来た

 ……あの日……

 みたいだった……

 ……根拠なんかない。

 でも、きっとピスティが向かったのは、あの場所なんじゃないかという確信があった。
 
 全速力で森の中を駆け、星の降る丘へたどり着くと、ピスティの姿を思ったより簡単に見つけることが出来た。

 けれど直視した光景に身体が震え出していた。
 
 

 母ちゃんが消えた日あの日と同じような感覚が身体の中を駆け巡っていく。

 ピスティは淡くぼんやりとした光を纏っており、姿が消えかかっていた。

 俺は、ありったけの声で叫んだ……もう、後悔だけはしたくなかったから。

 もうわかってた。俺はそりゃバカかもしれない。けど、昔、約束した大切な人を、昔からずっと一緒にいたあの女の子を、、、あいつの事と俺が間違えるはずなんかない。絶対にないんだ。

 なんでこんなことになっているなんて俺には分からねえ。けど、いま、今伝えないといけないことだけは分かる。心に浮かんだ。

――だから――

――だから、俺は――

――何を迷うことがある?――

――何を躊躇うことがある?――

――何を怖がることがある?――

――――アイツが居なくなること以上に怖い事なんかねぇんだ


「ヤチヨ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 
 俺の声にピスティが勢いよく振り返る。
 そんな彼女に俺は、大きく息を吸い込んで、そして再び叫ぶ。魂の底から声が枯れるほど強く、大きく、ありったけの思いを込めて

「俺が、お前を迎えにいくから! 絶対絶対!! 必ず、迎えに……行くから!!!!!!!」
 
 俺の声が辺りに響いた後、静かに風の凪ぐ音と草木の揺れる音だけがしたかと思うと、音はあっという間に意識の外に消えた。
 

 目の前の風景に溶けるように、ゆっくり、ゆっくり、静かに消えてゆくピスティの表情は、泣いているようにも見えた。

 静かにピスティの姿が消えていく。最初からまるで、存在なんかしていなかったかのように


 ピスティが消えたこの場所には……この世界には……もう、俺しかいない。

 そんな錯覚を起こすほど静かな場所、星の降る丘の空は絶え間なく、きらめき続ける。

「は、はは、やっぱ、ひとりぼっちってのは、つれぇなぁ……なっ、ヤチヨ」

 ふと、横をみても、そこに居ない姿を探し呟く。

 思いだすのは、ヤチヨの笑顔だった。

『大丈夫。どこにも、いかないよ』



「っ、うううっ、く、ぅあっ、、、あぁぁぁぁあああああ!!!!!!」
 

 ことばが……こえが……が、よみがえる……


 おれは、ほしのみえるおかのまんなかでたったひとり……ひとりぼっちで


 おさなかったこどものころのように、おおごえをあげてないた。




サロス編
Fin



作:小泉太良
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