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Third memory 06(Yachiyo)

「青春、ね。あー、若いっていいわぁ……あたしにも、そんな頃があったわ~」
 
 言いながら、アカネさんがすごく楽しそうな顔で、あたしを見ながらコーヒーを飲んでいた。
 

 ……サロスがあたしのことを―—?

 
 嬉しくて、でも……少しだけ、胸の奥がキュってして、思わず俯く。

「どうしたの? 暗い顔して? あっ、なるほどね。ヤチヨちゃんはサロスのこと別に好きじ——」
「そんなことない!! です……でも」
 
 アカネさんの言葉を否定したくて思わず大きな声が出る。

「その、わかんない、の……サロスこと好きだけど……でも、この好きはなんだか今までとは違ってて……」

「……そっか。まぁ、その答えを焦る必要はないから。ゆっーくり、考えなさい」
 
 アカネさんは、そう言うと、別のグラスにオレンジ色の飲み物を入れる。

 あれは……ジュース? 

 じゃ、なさそうだけど、ならあれはいったい何だろう?

「ヤチヨちゃんはさ! どうしてサロスへの好きは今までとは違うって思ったの? 良かったらその理由、教えてもらえる?」

「えっ!?」

「あぁ、でも、もちろん言いたくないなら、無理には聞かないよ……ただ、一人で悩むより、誰かに話した方が、きっと楽になると思うよ?」
 
 アカネさんは本当にすごい。全部、わかっちゃうんだもん。あたしのこと……。

「その……上手く話せるかわからないけど……聞いてくれる?」

「もちろん。ゆっくりでいいからね」

「うん。あのね——」

 アカネさんに今の気持ちを打ち明けた途端、不思議なことにさっきまでの胸のもやもやは綺麗に晴れ、スッキリしていた。
 
 アカネさんは、あたしの話を時折、相槌を交えながらオレンジ色の飲み物を飲んでいた。

「そう、だったんだね」

「あの日も、あたしは逃げるように森の中に入って……もう、どうにでもなっちゃえって、どうなってもいいやって……」

「……ヤチヨちゃん、わかってるとは思うけどもう二度と、自分自身を粗末に扱うようなことはしないって……あたしとも約束して」
 
 アカネさんは、目に涙を浮かべそうになりながら、あたしの手を取る。

「アカネさん……」
「ヤチヨちゃんがいなくなって悲しむ人はたくさんいるんだからね。あたしも、シスターも、サロスだって……だから、もう二度と、そんなことしないって、約束、して」
 
 真剣なアカネさんの訴えにあたしは黙って首を縦に振る。

 それを見てアカネさんは嬉しそうに笑っていた。

「アカネさん! アカネさんも一つ約束して!!」
「何を?」
「アカネさんは、急にいなくならないでね。あたしの前からも、サロスの前からも」
「…っ!?」
 
 ママに似ているアカネさんが、あたしの知らない場所にいってしまう。

 そんな小さな不安があたしにはあった……。
 

 もう、誰かがいなくなるのは嫌だから……。


「……当たり前でしょ。約束する。あたしはどこにも行かない。ヤチヨちゃんやサロスを置いていなくなったりなんて、絶対に、するもんか」
 
 そう言って、アカネさんがあたしを強く抱きしめる。

「アカネさん」
「なーに?」
「今日は、一緒に寝てくれる?」
 
 今日は、なんだか一人で眠りたくない。この温もりを、ずっと感じていたかった。

「もちろん。あっ、でもちょっと狭いかもよ~……それでもいい?」
「うんっ!」
 
 あたしは嬉しそうに頷き、それを見たアカネさんがあたしをベッドへと招き入れる。

 そして、そのまま包み込むようにまた抱きしめてくれた。

 その瞬間、アカネさんの匂いがして、とても安心できた。

 その夜は……いつもよりぐっすりと眠れた! それから……久々にママの夢も見れた。
 
 ママの夢をみたのに初めて、あたしは泣かずに朝を迎えることができていた。


 
 あたしは、サロス、そしてフィリアの三人で遊ぶことがほとんどだった。
 
 最初は、距離のあったサロスとフィリアだったけど、いつの間にかあたしよりサロスのが仲良しになっているような気がした。

 そんな二人が、あたしはとても羨ましかった……。


 ある日、いつもの森の入り口の切り株が三つ並んでいる集合場所にフィリアが来ない日があった。

 そして、フィリアを待っていたら、いつの間にか陽は傾き。

 そろそろ夜になろうとしていた……。

 その日……あたしたちがいくら待ってもフィリアが姿を見せることはなかった。


続く

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