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35 魔脈の鼓動

 2人の戦いを他の生徒達の人垣から離れた砂利や石が積み上がって出来たような小高い場所から眺める人影が見つめていた。品定めでも行うような目線で二人は互いに目を向けずに話しはじめる。

「おい、ゼアのやつ。最初の突きといい、さっきの切り上げる斬撃といい、アイツ、もしかして、既に目覚めつつあるんじゃないのか?」

 覗き見ているうちの1人の男が呟いた。寡黙で小柄な少女は一度目を瞑り、集中するように空気を張り詰めた。彼女の身体は薄い光の膜のようなものに包まれる。ゆっくりと目を開けて口を開く。

「魔脈の鼓動、確かに感じる」

「アイツもしかして自力で鼓動を打つ段階まで辿り着いたってのか? そんな事が可能なのか?」

「普通は無理。魔に通じる書物やそれに通ずる人物の手ほどきとか、きっかけが絶対に必要」

「じゃぁ、やっぱりアイツが【英雄を継ぐ者】に一番近いとみて間違いないのか?」

「まだわからない。けど、国内で魔脈の鼓動が生じている剣使いの騎士はおそらくあのゼアだけ」

 もう一人の生徒、シュレイドを見やった二人の間に僅かな沈黙が流れる。

「は、英雄の孫とやらはここで終わりかね。剣の腕は確かでも英雄としての器はおろか騎士としても不完全。それに見たところどうも戦いの中にあるある種の恐怖に飲まれちまってる。あの様子じゃ殺し合いなんてしたこともねぇ甘ちゃんなんだろうよ……」

 寡黙で小柄な少女は憐れむような、悲しげな声が小さく響く。

「今の時代じゃ別におかしなことじゃない」

「確かにそれは言えてる。脆弱に衰えきって、騎士の役割すら理解できない奴らの一人ってだけだ。それがたまたま英雄の孫でもあったと」

 大柄な体躯の男は頷くようにしながら笑みを浮かべた。

「……」

「となると、どちらかと言えばここで消すのはゼアの方が望ましいだろう。流石に真っ正直からだと、今の俺でもキツそうだが」

 そうは言いつつも身体が疼いている様子が見て取れた。力を試したいというのは誰もが成長過程において生まれる興味、欲求でもあるがこの男のそれは今にも戦いに割って入りそうな勢いであった。

「……大丈夫。英雄の孫は必ず剣を抜く。その瞬間を狙えばいい」

「どうして分かる?」

「……身体は、覚えているから。本能は分かっているから。あの剣は役目を知っているから。命が危険に晒されれば、何らかの抵抗は行うはず」

「なるほどな。その瞬間にゼアの動きを制限するわけか」

 男は懐から筒のようなものを取り出した。穴から覗きこんで状態を確認しながら筒の中に細い針のようなものを仕込んだ。

「そう。貴方はそれを使う。証拠はわたしが隠蔽する」

 少女はそういうと指先から小さく光を出して空中に弧を描いた。


続く

作 新野創
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