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Second memory(Sarosu)17

「……ある日、ヤチヨが家に帰ってきたの。ひどく、死んだような……光を失った瞳をして……。それは、今の父親と同じ瞳だった……」

 俺の母ちゃんがいなくなった後。ヤチヨは父ちゃんと一緒に帰ったのだとシスターから聞いた。
 
 あの頃の俺は、普通なら泣くか怒るか何かしらの感情があるはずなのに……。何も心に生まれてこなかった。

 あの頃、、俺の心は死んでしまっていた。自分から何も生み出せなくなっていた。

「……あたしさ、その時初めてヤチヨと思い切って話してみようって思ったんだ。嫌われていてもいい……もう孤独に耐えるのには限界が来ていたの……」

 ……強いなと思った。ずっと一人でいたはずなのに、心が死ぬことはなかった。むしろ、生きようと必死に藻掻いてた。

 それは、きっと、死ぬよりもずっと辛くて、しんどいことだ。でも、こいつはそれを止めなかった。

「最初は、無視されてた……やっぱ、嫌われてるんだなって思った。でも、違ったんだ……。いなくなる前のあたしに対しての嫌悪感すら、あの頃のヤチヨにはなかった。あたしの言葉は届いていないみたいだった。人形に話しかけている……そんな気分だった。」

 ヤチヨも俺と同じだったんだ。でも、俺やシスターに無駄な心配をかけたくなくて……。そんな姿を見られたくなくて家に帰ったのかも知れない。

「でも、少しずつ。本当に、少しずつあの子はあたしに心を開いてくれるようになった。あたしの頑張りが通じたんだって嬉しかった。」

 ヤチヨは、そういうやつだ。頑張って、頑張って、誠意を伝え続ければ必ずそれに答えてくれる。
 
 うちに最初に来たときもそうだった。母ちゃんやシスターが誠意に応えるようにヤチヨは俺たちの少しずつ家族になっていたんだ……。

「ヤチヨが話すことは、大概がこの家を出てからのことだった。特に多かったのはあんたのことについてだったよ、サロス」
「俺!?」

 それは意外な答えだった。てっきり、あの頃良く意地悪をしていた俺のことよりも。母ちゃんやシスターのことについて話しているものだと思っていたから……。
 
 ヤチヨは俺よりもあの二人と良く一緒に何かをしていたから。家にいるときは特に。
 俺と関わることなんて、外に遊びに出かける時ぐらいしか……。

「意地悪してくる男の子がいるって。でも、本当は誰よりも優しくて頼りがいのある大好きな男の子だって……ヤチヨ、言ってたわ」
「ヤチヨ……」
「そんな、あなたにあたしが助けられた。偶然とは思えないの。きっと、ヤチヨが命を懸けて巡り合わせてくれたんだろうね……」
「!!! ヤチヨは、まだ死んでねぇ!! そんな、言い方すんな!!」
「! ゴメン……そういうつもりで言ったんじゃなかったけど……。そうね、じゃあ、星がくれた奇跡ってのはどう?」
「星?」
「ヤチヨが良く言ってたの。今度のお星さまへのお願いはちゃんと叶うかなって」

 星の降る丘で、ヤチヨは何かを一心に願っていた。最初は、ヤチヨの母ちゃんと一緒にいられるように。次のお願いは。確か……。

「サロスとずっと一緒にいられますようにってあの子は願っていたみたいよ」
「ヤチヨはあの時、そんな願いを?」
「ある日、黒いローブを来た集団がうちに来たんだ。あなたの娘は、選ばれましたって。父親は相変わらず何も言わなかったけど、あたしは抵抗した……。まぁ、簡単に取り押さえられたけど……」
「それから、ヤチヨの親父は?」
「わかんない……。その日を境に、どこかへ消えちゃった。……今、生きてんのか死んでんのかすらもわかんない。」
 
 そう言った、ピスティは悲しそうな表情をしていた。

「んで、あの日、ヤチヨを助けようと一人で天蓋に行って自警団に返り討ちにあったってワケ。流石に多人数相手は分が悪かったみたい」
「そして、その逃げている最中に倒れていたあんたを俺が見つけた。そういうことか?」
「そういうこと。だから、あんたがヤチヨを救いたいっていうならあたしは全力で協力してあげる。少なくとも一対一でならあんたよりは、あたしは間違いなく強いし」
 
 そう、得意げにピスティは言い放つ。
 俺より、強いか……。その言葉が本当なのかどうか半信半疑だった。

「あっ、疑ってるわね」
「えっ、まぁ……」
「じゃあ、ちょっと外に出ましょ。動くんなら部屋の中は色々都合が悪いでしょ?」
「えっ、あぁ、そうだな。わかった……」
 
 ピスティに言われるがまま俺は部屋を出て、家の近くの開けた場所へとやってきた。



続く

作:小泉太良
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