Fourth memory 02
「誰かしら? はーい」
ヒナタが軽く身支度を整え、玄関へと向かっていく。
あたしもそれに続くように、ヒナタを追って玄関へと向かった。
「おはようございます」
やっぱり、思った通り。
白い、騎士のような鎧をまとい、見た目は女性のような顔立ちの男性があたしたちに笑顔を向ける。
「あら、おはよう。ソフィ、いつもありがとうね」
「いえ。ボクにできることはこんなことぐらいですから」
そう言ってソフィが謙遜しつつ、ヒナタに大きな袋を渡した。
袋の中身は、生活に必要な食料や水、そして日用品などだ。
ソフィは、フィリアの部下だった青年であたしたちを心配して、時折こうして訪ねてきてくれる。
とても良い人で、彼には数えきれないほど感謝している。
彼がいなければ、あたしとヒナタは今のような生活はきっとできなかったと思う。
「ナイスタイミングよ! ソフィ! そろそろ食卓が寂しいなって思ってたんだ~でも、良いの? こんなところで油売ってて」
「お二人のところだから油を売りに来るんですよ」
と、いいつつ、ソフィの表情が一瞬暗くなる。
何かを察したヒナタとあたしは短くアイコンタクトで会話をし、この後の予定を決めた。
ソフィを労ってあげよう!
「昨日も仕事、大変だったみたいね。ソフィ、立ち話もなんだし、良かったら上がって、コーヒーぐらい入れるから」
「えっ、でも!!」
「女二人、やることもなくて退屈してたのよ~。あがってあがって!!」
「しかしーー」
「はーい決まりね。ヤチヨ、キッチンに荷物持っていって、ソフィは座って待っていいからね」
「はーい!!」
「えっ! あの、ちょっと!!!」
半ば、強引にあたしたちは二人でソフィを家の中へと招き入れた。
あたしは袋からそのまま食べられるソーセージを取り出し、齧りながらソフィの待つリビングへと向かう。
「で、何かあったの? ソフィ」
「聞いてくれますか?」
「もちろん」
あたしは、笑顔で答える。
「実は昨日、緊急の作戦会議があったんです。でも、そのうち行き詰って……ツヴァイさんが気分転換にお酒を飲みながらやろうという流れになったんですが……会議自体はまぁ、ほとんど終わったようなものだったので僕も良いかな? なんてと思いながら楽しく飲んでいたんですが……それが大きな間違いだったんです……」
ソフィは、そう言って大きなため息をついた。
「大きな間違いって? 何があったの?」
「……ドライさんは酔いつぶれるし、ツヴァイさんは男泣きするし、アインさんは目を離すとすぐにふらっとどこかに消えてしまうし……」
それは……想像するだけで地獄絵図だなぁ……。
「あらあら、それは大変だったわね」
労いの言葉とコーヒーをソフィの傍に置くと、ヒナタも自分の席に着いた。
「ありがとうございます。いただきます」
ソフィは礼を言うと、コーヒーを一口飲んだ。
「どうかしら? 疲労回復と二日酔いに聞く豆を使ってみたんだけど」
「とってもおいしいです。なんだか、あの三人の行動をフォローしてたフィリアさんは凄かったんだなぁって……あっ! すいません。僕、また無神経に……」
「ソフィ、気にしないで。フィリアったら、私に心配かけないように仕事のこと一切話してくれなかったから……彼の仕事の話を聞けるの、嬉しいの」
ヒナタは気遣いではなく、本当に嬉しそうな表情をしていた。
確かに、フィリアなら心配させるようなことは誰かに話したりしないだろなと思いながら、あたしは、自分のコーヒーを少し飲んだ。
「そう、だったんですか?」
「えぇ、そうよ。どんなにヘロヘロでも私の前じゃ弱音一つ吐いてくれなかった。そんなフィリアに甘えて無茶を言ったことも少なくないわ」
「へぇぇ~♪ どんな無茶言ったの? ヒナタ」
「ヤチヨ! もうっ!」
ここは、あたしもからかいついでに会話に参加しておこう! そっちの方がなんか面白そうだし。
「でもね、フィリアはいつだって優しかった。私のわがままをいつも一生懸命聞いてくれた。私は、フィリアの望むことを何一つしてあげられなかったのに……」
「そんなことありません!!!」
静かに目線を落とし俯いてしまったヒナタとは対照的に、少し感情的になったソフィが勢い余って突然立ち上がり言葉を続ける。
「フィリアさん言ってました。僕が頑張れるのはヒナタがいるからだって、ヒナタが僕の全てを受け止めてくれるから、僕は前に進むことができたんだって」
なーんだ、そんな熱いことサロス以外にも言ってたんだフィリアのやつ。
ソフィが男の子だからかな……なーんか、ちょっと嫉妬しちゃうなぁ。
「……フィリアがそんなことを」
「僕も、一度しか聞いたことはありませんが、確かに言っていました。ヒナタに支えられているって」
「フィリア」
ヒナタはソフィの言葉を聞いて、ぐっと両手を握って、涙をこらえていた。
「あーあ。いいなぁ~そんな惚気話があってー」
そんなしんみりとした空気に耐え切れず、あたしはわざと大きな声でぼやいた。
「あっ、ごめんね。ヤチヨ」
「すいません。ヤチヨさん」
二人が同時に謝ってきて、なんだかあたしの方が気まずくなる。
本当に二人とも真面目なんだなぁ……この場には茶化す人も、怒ってくれる人も……もう、いない……。
続く
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