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Third memory Last

「おう! 男に二言はねぇ」
 
 順番は、逆になってしまったけど、でも、サロスの本音が聞けるんなら、まぁいっか。

 それに、サロスに今から話すのは『ヤヨ』が好きな人であって、目の前にいるバカみたいな顔した人とは違うのだから。

「あたしが好きな人はねぇ、最初はすーっごく意地悪な人だったの」

 そう言って遠くを見るような視線を宙に泳がせる。もうどのくらい経ったのかも忘れてしまうほど昔の事を思い出しながら。
 実際、既にものすごく昔のことなのかもしれない、その頃の色褪せない景色に思いを馳せる。

「えっ!? お前意外とそういうやつがこの―――」

 そう、こうやってすぐ直情的に割って入ってくるところ。そういうとこだよ。サロス。

「話は、最後まで聞きなさい。最初はね、本当に意地悪だった。何かにつけてちょっかい出して来るし、彼のお母さんにもよくそのことで怒られていたし」
「あーでも、なんとなくそいつの気持ち、俺、わかるかも知れねぇ」

 そういうサロスの横顔はなんだか少し寂しそうに見えた。アカネさんのこと、思いだしてるのかな。

「まっ、サロスも、ヤチヨにはけっこう、意地悪、してたものね」
「むっ、昔の話だろ!!」

 凄い顔がまっか。サロスってすぐ気恥ずかしくなったり照れるんだよね。そういう所も含めてなんだよね。きっと

「そうですねー。んで、そんな意地悪なやつだったんだけど、あたしが泣いてたらそばにきて優しい言葉をかけて慰めてくれたの」
「それ、所謂、ギャップってやつか……つか、お前意外とチョロいのな。そんな些細なことで好きになっちまったのか?」
「うっさい! ……まぁ、確かに、そうかも知れないけど……」
 
 いくつになっても子供みたいに、負けず嫌いで、わがままで意地悪で……。

 ……でも、そんなサロスのことが、たまらなく好きだ。

「んで、そいつに告白? とかしねぇの?」

 サロスの言葉に私は胸が締め付けられる。そう、あたしの知るサロスは、今のあたしが知るサロスは……

「えっ!? あぁ……もう、その人いないの」
「えっ!?」
「もう……いないの。消えちゃったから……それも、勝手に、ね……」

 あたしは作り笑顔を浮かべてそうサロスに言い放った。

 そう……気づいた時にはもう遅すぎたあたしの本当の気持ち……。

 あたしを天蓋から助けるためにみんなが犠牲になって……。

 フィリアも、ヒナタも、辛い想いすることになって……。

「……悪い。知らなかったとはいえ、無神経だった」

 しばらく無言でいたからサロスはまずい事を言ってしまったと思ったのか謝ってきた。
 
 ううん、そうじゃない。そうじゃないの。


「ふーん、あんたもちゃーんと反省するんだ」
「ばっ、馬鹿にすんな!! 俺だってなーー!!」
「サロスも……似たような経験してるんだもんね……」
「ピスティ……」

 無神経なのは、あたしのほうだよ。

「ごめん、あたしも余計なこと言った……」
「……」
「サロス?」

 サロスは口元をきゅっと引き絞り、口を開く。

「……諦めんなよ」
「えっ?」
「勝手にお前ん中で終わらせんなよ! そいつだって、いや、わかんねけど多分、きっと、おそらく! お前のこと好きだと思う。だから、必ずお前んとこに帰ってくる。だから、お前が信じて待っててやらねぇと……そいつが帰ってきたとき、お前も、そいつも、幸せになれねぇじゃねぇか!!!」
 
 本当……馬鹿だよ……サロスは……。

「それにーー」
「?」
「そう思っている方が笑っていられんだろ? そいつだってピスティの泣き顔よりも笑顔でいて欲しいって思うぜ」
 
 そう言って、サロスが笑う。

 その笑顔は、アカネさんとそっくりで……。

 太陽みたいに明るくて、強くて元気をくれる。

 あたしは溢れそうになる涙をぐっと、ぐっと堪えて。

 最後に、このサロスに最高の笑顔で答える。

「……ッ……うん! そうだよね!! あたし、信じて待つよ!! そいつのこと」
「おう! そうしてやれ」
 
 サロス、自分で言ったんだからね。

 必ず戻ってきてね。あたしがこうして笑っていられるように。

 約束だからね。

「さぁ、次はサロスの番よ。で、好きなの? どうなの?」
「あーそうだな……好きだよ。ヤチヨのこと」
「ふーん」
 
 にやけそうになるのを必死に堪えるのと同時に、また泣きそうにもなる。サロスにこうして言葉にしてはっきりと伝えてもらったのは初めてだったから。

「……なんだよ。そのにやけた顔は」
「べっつにー」
「あー!! くっそ、だから、言いたくなかったんだよぉぉ!!!」
 
 サロスは、そう言って恥ずかしそうに頭をかく。

「ねぇ……サロスは信じてるんだよね? ヤチヨが帰ってくること」
「当たり前だ! むしろ、迎えに行ってやる!! ってか、それを目標に今まで色々やってきたんだし!!!」

 そうだった。思わず一瞬だけ、今この瞬間だけ本当に忘れてた。

「そう……だったね」
「うっし! いよいよ、明日だな!! 力を蓄えるためにも、今日は早く寝ようぜ! なっ! ヤヨ!! あっ、いや、ピスティ!!」
「……ふふ、そうだね。明日のためにも今は少しでも体、休めとかない、とね」
「あぁ! そうだな!!」
 
 サロスがそう言って笑う。

 

 きっと、これがこの世界で最後に見るサロスの笑顔になる。

 

 幸せな夢は終わった。

 

 これからは、またもう一度同じ日々がきっと始まる。



 あと何度チャンスがあるか、わからない。


 もしかしたら、次で最後かもしれない。

 

 でも、だけど、サロスが思い出させてくれた。


 あの日の約束を、みんなで誓った約束を。

 

 あたしは、もう二度と諦めない。絶対に、サロスとフィリアを救ってみせる。
 
 
 
 

 深夜、誰もが寝静まる時間。

 サロスが、寝たのを見計らって、起こさないように静かに布団から出る。

 ふと、外を見て見ると、月がとってもきれいな夜だった。

 

 耳のイヤリングが光り、胸のペンダントもそれに呼応するように光りだす。
 

 

 時間だ……。


「ヤチヨ!!!!」
 
 
 背後から聞こえたその声に、思わず振り返る。

 

 なんで? ここにいるの? これ以上、あたしを迷わせないで……。


「俺が迎えに行くから! 絶対絶対!! 迎えに行くから!」
 
 
 涙がこぼれそうになって、ぐっと歯を食いしばる。

 
 ……そうだ、サロスはいつだってあたしを助けてくれた。

 
 泣くのをこらえ、笑顔を、あたしは、サロスに向けようとしたけど……ダメだった。出来なかった。

 ごめんなさい。
 
 もう泣かない。もう泣かないから、今は、今だけは

 せめて……泣き顔が見えないようにと顔を背ける。

 ふと、小さい頃のサロスの泣き顔が脳裏をよぎる。

 ああ、ごめんね……また……一人にしちゃってごめん。

 でも、次で、必ず終わらせるから
 
「うん……だから、今度は、一緒に……ね」

 フィリアを苦しませない為に……

 ヒナタに辛い泣き顔をさせない為に……

 サロスを……二度と一人にしないために。


              

 ずっとずっと一緒にいられる未来へと向かってあたしは手を伸ばす。


 そうして、あたしの身体はこの世界に別れを告げ、淡く光に消えていく。




 だから……どうか…………もう一度………………


 も……う………いち……ど……だけ……………



 意識と共に全てが白に塗り潰され


 そして、消えていった。




 
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