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Third memory 14(Yachiyo)

「あー悪い悪い。ちょっと勢いで、な」

 サロスはフィリアに向かって大きな声で返答する。

「勢いって……ヤチヨ、君は、大丈夫?」
「うん、平気。ただ、足痛めちゃったから、一人じゃ登れないと思う」
「えっ!? 大丈夫なのかい!!」
「うん、だいじょう―――」
「すぐに医者に見せた方がいい! フィリア!」
「わかった、後の事は心配ない。任せてくれ!」
 
 あたしの言葉を遮り、サロスとフィリアが短く言葉を交わす。

「うっし! フィリア! 力、貸してくれ!」
「わかった」
「ちょっと、二人とも本当にだいじょうーーキャッ!!」
 
 言い終わる前にサロスが、あたしを背中に乗せる。

「ヤチヨ、手伸ばせるか?」
「うっ、うん……」
「フィリア! もしもの時は頼む!」
「わかった、ヤチヨ! 絶対に手を離さないでね」

 サロスがロープを掴み、上に向かって登り始める。

「しっかり捕まってろよ」
「馬鹿! 何してるの!! 無理だって!!」
「大丈夫だ。俺を信じろ」
 
 そう言ったサロスはフィリアが投げたロープをどんどん登っていく。

 最初はすごく不安だったんだけど、その不安もいつの間にか消えてなくなった。
 
 あたしの知らないうちにサロスは、こんなにも身体が大きくなっていたんだね……。

 でも、その後サロスは意識を失っちゃったり、ナールさんが助けてくれたり、あたしは泣き叫んじゃったり……とにかく、色々大変だったんだけど。


「ずいぶんとやんちゃしたわね」
「いたっ!!」
 
 手当てをしてくれた、眼鏡をかけた女医さんはそう言って笑っていた。

 優しそうな口調とは真逆に、治療は全然優しくなかったけど……。

「うちにも、あなたくらいの子がいてね。少しは、活発になってくれればとは思ってたけど……ここまでやんちゃになるのも考えもの……ねっ……っと、これで良し」
 
 そう言って、女医さんは困ったように笑っていた。

「あの、あたし!!!」
「今は、動かない方が良いわ。左足、折れてるんだから」
「えっ!? 折れてるんですか!?」
「そうね、でも、あなたはまだ良い方よ。しばらく安静にしてれば、問題は………」
 
 ちらっと彼女の視線の先には、痛い痛いと喚いているサロスの姿があった。

「サロス!?」
「彼は、相当無茶したみたいね。足だけじゃなく、肋骨にもひびがはいっていたわ」
「大丈夫なんですか!? サロス、助かるんですか!!」
「大丈夫よ。命に別状はないわ。ただ、しばらくは絶対安静。二人とも、大人しくしていること! わかったわね」
 
 そう言って、女医さんはサロスを治療している人に何か指示を出した後、その人を連れて病室を出て行った。

「バカ!! なんで、サロスのがひどい怪我してるのにーー!!」
「しらねぇよ、俺は、平気だって言ってんのにあのおばさんがーー」
「サロス!! 本当は? 本当は何したの!?」
「別に、何も……」
「サロス!!」
 
 あたしが本気で心配していることを察した、サロスは観念したのか本当のことを教えてくれた。
 
 それはもう、聞けば聞くほどあきれてしまうものだった。
 
 あの周りが見えない森の中でかすかに聞こえたあたしの声を頼りに真っ暗な森の急斜面を滑り降り、しかもそこは、整備された道でなく獣道のような場所で、体中に傷を作りながら闇の中を駆けたって。

「どうして……そんな無茶したの!!」
「……悪い、俺、フィリアからお前がいなくなったって聞いていてもたってもいられなくて……」
「サロス……」
「わかんねぇけど、母ちゃんみたいにお前までどっか行っちまうような気がして……すげー怖かったんだ」

 サロスの気持ちは痛いほど良く分かる。

 ……でもーー。

「馬鹿!」
「ばっ、馬鹿ってお前」
「だって、それでサロスに何かあったらあたし……」
「……わりぃ……」

 サロスを失う、それが今は何より一番怖かった。

 自然に、涙が一粒溢れた。

「もう、二度とこんな無茶しないで! 約束して! サロス!!」
「わーったよ。泣くなよ、ほらっ」
「えっ!?」
 
 サロスがぶっきらぼうに右手の小指をあたしに向けて差し出した。


続く

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