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55 独自の発展

 西部学園都市ディナカメオスも東部学園都市コスモシュトリカと時を同じくしてオースリーが開催される時期が来た。
 ただ、東部と違うのは西部では独自に過去の生徒達がオースリーの一対一のシステムを利用して新しい形を生み出している。
 既定の戦いが終わった後もまだ戦いが続くようにイベントが引き続き行われる。トーナメント戦が組まれるという点が特徴になっていた。

 とにかく個人最強という称号に憧れる者が多い西部の生徒達は目の前の相手を負かして上を目指すことにただならぬ情熱を注いで日々を過ごしている者が過去に多かった。
 集まる人物たちの気質が影響し、東部よりもこの時期は学園内が熱気に包まれる。
 勿論、全員が同じような気持ちで臨んでいるわけではないが戦いそのものを求める生徒が多い西部では単騎模擬戦闘訓練(オースリー)によって、自分の今の力はどのくらい他の生徒に露王するのか把握する絶好の機会となっていた。

 近年になり、決闘という形のシステムが日頃から利用されるようになってしまい、西部で一対一の戦闘はごくごく日常的に行われるようになって自らの能力も把握しやすくなっている。普通に行ったのでは生徒達の単騎模擬戦闘(オースリー)モチベーションは上がらなくなってきていた。

 そこでオースリーで各生徒に国から発表された組み合わせで戦いに勝利した生徒は自己申告制で更に生徒会側が主催するトーナメントへと申し込めるような仕組みを過去の生徒会が提案。

 単騎模擬戦闘訓練(オースリー)の国からの指定の組み合わせに勝利した者はトーナメント戦の参加権を得る。
 参加を申請するとグループが振り分けられてグループ最強を決める戦いへと移行していく。このトーナメント形式の登場で再び西部は大きな盛り上がりを見せる事となる。

 最終的には各グループごとの最強達が集い、学園内の闘技場区画で最も大きなシンボルとなっているセンターコロシアムでの決勝が行われるという流れだ。

西部学園内の個人ランキングは毎年この単騎模擬戦闘訓練(オースリー)で大きく書き換わる。
 個人ランキングというのはいわば成績順位表のようなもので、特に戦闘能力に依存して付けられており、単騎模擬戦闘訓練(オースリー)そのものよりも後に行われるトーナメントが、その順位に大きく強く影響するのが奇妙な点と言えるだろう。 

 学園内における順位などの表示は一定以上の順位になると、それぞれの金銭などの管理と同じように生徒達の手帳内に記載されていく。基本的には他の生徒が知る事はない。
 だが、ごく一部の更に飛びぬけて上位となる生徒達は学園内にその名が掲示されていき、ランカーと呼ばれるようになる。

 そして、ランカー内でも最上位の生徒9名には国の最高峰である九騎士の称号(シュバルトナイン)にあやかって、期待を込め、【ナインズ】と呼称され、他の生徒達からの羨望を集めている。

 目に見える形で自分の位置が数字に出るというのは東部でも気にする生徒は中にはいるが西部ほどその順位に固執している生徒は多くはない。西部では生徒達の気質とシステムが噛み合い独自の形を生み出している。

 結果として、東部のように生徒会を取り合う派閥などが存在せず、西部生徒会は組み上げられ方も東部とは大きく異なる。

 学年なども関係なく西部の生徒会は純粋に強い者、つまりこの学園内ランキング上位者でないと入れない。
 そうした成り立ちから、同じメンバーで生徒会が続くことが珍しく、常にその生徒会の在り方、方針は変わり続ける。

 とはいえ生徒会へ入る事は任意になる為、必ずしもランカーとなる生徒やナインズと呼ばれる最上位の生徒が生徒会に入らなければいけないという決まりも存在してはいない。


 話をトーナメントへと戻すが普段の決闘は両者同意の元の一戦のみなのに対して、トーナメントでは連日、勝ち抜いていけば常に戦いを続ける必要がある。
 その間には手傷を負う事も当然あり、そうした継続戦闘能力も含めて、本当の意味で勝ち抜いた者だけが最強という名を手に入れられる。それがこの西部学園都市のトーナメント戦での優勝なのである。

その名誉は騎士を目指す者達にとって重要なステータスとなる。
 毎年、このオースリーで頂点を得た者は九騎士の称号(シュバルトナイン)と呼ばれる騎士の直轄する隊に配属される確率が卒業後に格段に高くなる。
 九騎士の称号(シュバルトナイン)を目指す者達にとっては最も近道となるのがオースリーでの優勝ということもあり、一部の生徒達の士気は異常に高くなる。

 反面、本物の騎士を目指す者達の数自体は年々減っていることが大きな問題となっていて、それはつまり単騎模擬戦闘訓練(オースリー)で本気で戦う者たちが減るという事でもあり、切磋琢磨して強くなっていくという西部学園の最も強みとなっていた事の意義が薄れている事にも繋がっていた。

 そんな中、今年のオースリーはこれまでとは違い、ある指令がマキシマムを含めた教師たち一同へと届いていた。
 生徒達へは仲間となるグループメンバーと対戦相手の通達。

 そして、教師たちへは……

【__今回の模擬戦闘、教師達には一切の干渉を禁じる事を最初に通達するものとする。『何が起きたとしても』教師がその戦いに手を出すことの一切を禁じる。そして、西部で生徒独自に行っているトーナメント戦は今回は開催を認めない。ただし、代わりに今回の西部の単騎模擬戦闘訓練(オースリー)は国が定めた五人一組での学年不問の班編成によるグループ戦を行う事も合わせて通達する。今回の単騎模擬戦闘訓練(オースリー)の全体の監督は長年学園に貢献してきた教師、プーラートンに一任することとする。プーラ―トンの判断、指示があった場合、現場の教師たちの判断の優先権はプーラ―トンの考えに準じる。最後に今回の模擬戦闘の勝利条件を通達しておく____】

「どういうことだ、これは!?……」

「……どういう事でしょうね?」

マキシマムの隣にいる若い男性教師も不可解に首を傾げた。

「これまでの単騎模擬戦闘訓練(オースリー)でこのような通達があったことは? 私が学園に居た時代にもこのような特殊な通達は教師達にあったのですか?」

「いや。ワシもここに居て長いがこのような事は初めてだ。組み合わせの通知以外で国が干渉してくることなど今までなかった……いままで……はな」

マキシマムは引っかかりを感じ、顎に手を当てて思考にふける。

『確かに西部の個への固執をどうにか解ければ、力を合わせる戦い方というのをワシも授業で尽力してきたのは確かだが……わからん。なぜ今回のオースリーで突然に国が干渉してくるのだ? まったくわからん。東部へ連絡を取ろうにも開催時期には最早、間に合わん……うーむ。どうにもきな臭い感じがしてならんな』

「……マキシマム先生、この勝利条件の通知ですが……」

 隣にいた若い教師がマキシマムに声を掛ける。途中までしかまだ読んでなかったマキシマムの視線が書面の下までを視界に入れた。額から静かに一滴、汗が流れ落ちる。

「五人のメンバーのうち三人が戦闘不能となる事が勝利条件となる」

マキシマムが小さく呟き、再び頭を抱えた。勝利条件自体は過半数のメンバーの脱落であることからそこには問題はない。

「教師が介入できない状況での戦闘不能となると、加減を知らぬ生徒がやりすぎても止められんという事だな」

 マキシマムが気付いた点に隣の教師も気づいていたらしく、頷いた。

「……国は死人を出したいのでしょうか?」

「わからんな。何もかも情報が不足していて判断できん」

 その時、教師たちがいる部屋のドアが大きくガラガラ、バァンと音を立て、開け放たれた。

「プーラ―トン・エニュラウス」

 マキシマムが眉間に皺を寄せる。

 プーラートンというのはマキシマムと共に学園で最も長く教師として在籍している人物の一人だ。
 マキシマムが過程を大事にしている指導とは対照的に非常に成果主義な性格で、どんな手段でも目的に対して結果を出せばそれでよいという考え方の老婆である。
 このような老いぼれた姿ではあるものの、元々はテラフォール流とは異なる剣の流派、スライズ流の中で非常に優れている女騎士だった人物だ。

 荒舞(こうぶ)と呼ばれる独特の荒々しい足運びがあるのがスライズ流の基本なのだが、その中で全く基本とは異なる鏡面(きょうめん)という独自の動作法を編み出し、派生派閥となるエニュラウス流を興した開祖で、かつては剣舞の天才という呼ばれたこともある。

 晩年では足腰の老化に伴って前線は退くことになったが、それでもあの頃の眼光鋭い眼差しは少しも衰えていない。

 マキシマムとは昔から犬猿の仲である。正面きっての正々堂々の勝負を身上とするマキシマムに対して、どんな手を使ってでも勝つというプーラ―トンの身上がそもそも噛み合わない。
 

 その主義、主張の違いにしばしばマキシマムとも生徒の育成方針においても火花を散らすことがある教師だ。
 
 プーラートンは激しく扉を開けた後、のろのろと歩いて、教師達を見渡せる位置に陣取って皺くちゃになった口を開いた。


続く


作 新野創
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