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6 学園で過ごす者達

 日が落ちる前くらいにシュレイドは自分の部屋である場所へとたどり着いた。入学した生徒達は2人で一つの部屋に住むようになっている。
大きな部屋の中にそれぞれ各個室が2つあるような間取りだ。共有のスペースのソファーに座っていた一人の男子が部屋に入ってきたシュレイドをみて口をあんぐりと開けて驚いている。

「ありゃ!? 入学早々に先生に呼び出し食らった奴じゃん!? 嘘だろ、冗談きついぜ!! まじかよ。お前がおんなじ部屋なの?? ここなの?」
「なにか問題があるのか?」
「いや、問題児と同じ部屋ってのはちょっと、いや、かなり不安だなって思ってよぉ。」
「俺はなにもしてない。」
「それでなんでいきなり呼び出されるわけ? あり得ないっしょ?」
「……それは」

 言葉に詰まるシュレイド。祖父の事を初対面の人間に話すような気持にはとてもなれず複雑な表情を浮かべた。相手も少なからず表面的な部分だけかもしれないがシュレイドの様子を察したのかすぐさま話題を変えてくれた。

「はぁ、ま、いっか。…そんでお前、名前は?」
「…シュレイドだ。」
「…そか。俺はフェレーロってんだ。よろしくな。」
「ああ、よろしく。フェレーロ。」

 挨拶も早々にシュレイドは自室へと向かおうとした。その背中に向けてフェレーロが話しかけた。

「そんでさ。お前、専攻のスタイルはなんなの?」
「専攻のスタイル?」
「何が得意なの? ってこと。」
「この学園じゃよぉ、つるむ奴も将来とかを考えて関わっておかないといけないらしいって話だからさぁ。なるべく有力者と知り合いになっときたいじゃん?」
「そういうものなのか?」
「ああ、んで、とりあえずは同室のお前が何ができるのかは知っておきたいかなぁと。」
「……俺には、剣しか、ないよ。」
「だけ?……他にはな~んもできねぇの? 戦術とか支援とかの知識もかじってない?」
「んー。どうかな。教えてもらったことはあるけど、頭を使うのは苦手かも。」
「ほーん。今時、剣での戦闘オンリーって珍しくね?……騎士を目指す生徒達の今熱いトレンド能力は指揮だからなぁ。」
「指揮?」
「ああ、この学園の現生徒会長、エナリア・ミルキーノ会長がまさにその典型、王道だぜ。尖ったあらゆる能力のある騎士たちを適材適所! 最大限に力が生かせるように各戦場に配置して指揮!! 大勢を動かして大局を勝利に導く! はぁああ、超クール!!」
「で、剣はダメなのか?」
「ダメってことはないけど、今は実際は戦闘よりも交渉とか話し合いで争いが解決することも増えてるって聞くし。一対一で戦うような場面でなら剣も生かせるだろうけど…武器だけ考えたとしても今は間合いも取れる安全な槍とか弓が人気かもな。なお、俺も槍が得意だ! そう、なぜなら!! エナリア会長も槍だからだ! その槍術は美しさもさることながら…」
「お前、めちゃくちゃ喋るんだな。」
「え、人と喋るの嫌い?」
「そういうわけじゃないけど、よくまぁそんなにペラペラ話せるもんだなと感心してる。」
「俺、割と広く浅く生きてるからな。意味のない会話が得意だぜ。…戦うのはちょっと苦手だけど。あ、そう考えればお前とは相性いいのかもしれないよな。俺が死にそうなときは同室のよしみで助けてくれよな!」
「…自分で何とかしろよ。」
「あ、つめてー! ほんとに困ったやっばい時だけでいいからさぁ!!」
「はぁ。んじゃ、そんな状況下でお前が俺の手の届くところにいたなら考えるだけはする。」
「おう、それでいいぜ!! サンキュ!! ここでは使えるもんは何でも使わねぇとな!」
「思惑とかそういうのはっきり言っていいのか。諜報活動とかの授業も確かあった気がするけど? フェレーロは大丈夫なのか?」
「ははは、何とかなるだろ! 昔から嘘つくのも隠し事も苦手でよ~! まぁこんな性格だから許してくれよ。んじゃな、早いけどおやすみー!」

 そう言うなりフェレーロは布団に潜り込んで寝息を立て始めた。そんな彼の切り替えの早さに驚きつつもシュレイドは部屋からバルコニーへと出て外の景色を眺めて静かに呼吸を整えた。

 ゆっくりと沈んでいく夕陽と闇が混在する風景はいつもと変わらず同じ景色を描いている。瞳に映る空を仰ぐ彼の胸中は誰にも見通せない。


「はっ! ふっ!! たぁああっ!!」

 ふと、バルコニーから見える宿舎の中庭で剣を奮う人影があった。シュレイドは遠目ながら、その誰かに視線を向けて呟いた。その方の原型に見覚えがあったからだ。

「あれは、俺と同じ、じいちゃんのテラフォール流剣術??…いや、基本の構えと型は似てるけどまるで違う、ということは…独学ってことなのか?…でも、それにしては凄く洗練されてる綺麗な動きだ。流れる水みたいに無駄がない」

 彼の表情は真剣そのものだった。その気迫は空気を伝ってシュレイドの身体を僅かながら緊張させる。

「あの人、強いな……ここは、本気で騎士になろうとしている者達が集まる学園……か。俺は、騎士なんか目指していない俺はこんな場所で、一体何をすればいいっていうんだよ……」

 中庭から視線を外し、再び空へと視線を移したシュレイドは自身の思考の海へとずぶずぶと沈んでいく

 夕日が大地に飲まれ夜になると共に、彼の心にも深く混沌とした暗闇の時間が訪れるのだった。


続く

作:新野創
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