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恋愛小説(彩綾-1)

彩綾-1

 その日は本当にいいお天気で、雲が一つもなくて、薄青い空がどこまでもどこまでも高く伸びていた。お日様はやけにぺかぺかと光っていて、馬鹿みたいに笑いたくなるような、そんな日だった。
 体育館での退屈な集会の間、ほかの子は、みんな周りの子とくすくすとおしゃべりしていたのに、私は誰とも言葉を交わせなくて、時間が通り過ぎるのをただ黙ってじっと待っていた。
 「見て」ふいに横から声を掛けられて、目をやった先には、首をかくかくと揺らしながら、居眠りしている教頭先生の姿があった。やばいね。私達は二人でくすくすと笑い合った。彼の笑顔はまるで子犬みたいで、そのピカピカの笑顔の方がおかしくて、私は、いつまでもいつまでもくすくすと笑ってしまった。
 今でもあの時の笑顔を真っ先に思い出す。その笑顔をずっと見ていたかった、あの頃の気持ちをいつだってそっと思い出す。
 何が間違っていたのか、何が正解だったのか、今ではもう何も分からない。どんなに伝えても、どうして何も届かなったのか、何回考えても分からない。
 だから、きっと、もし最初からやり直せることができたとしても、きっと何も変わらないんだと思う。でも、本当は、今でもずっとぐるぐると考えている。どうしたら、あのままずっと二人で笑い合っていけたんだろう。
 どんな言葉を紡いで伝えたら、私の気持ちをそのまま全部受け取ってもらえたんだろう。伝えることにも、笑顔でいることにも疲れてしまって、私からそっと離れてしまった。
 あのぴかぴかの笑顔が大好きだったのに、私と一緒にいるときに、その笑顔を見せてくれることがいつの間にかなくなっていった。
 よく分からないけんかをして、疲れて、泣いて、こんなの一緒にいる意味あるのかなってずっと苦しかった。
 彼が笑顔になれない原因が私なら、もう、自由にしてあげたいと思ってしまった。私たちは、きっと、お互いのお互いじゃない。
 どんなに好きでも、うまくいく恋ばかりじゃない。私がいなくなることで、彼が前みたいに笑ってくれたら、私は、それが一番嬉しい。
 誰か、私に教えてください。彼は、今、どこかで、ちゃんと幸せに笑えていますか。


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