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「ぽろっと出た本音」にこそブランドへの想いがある──秘密計算サービス「析秘」リブランディングの裏側

昨年KOELはNTTコミュニケーションズが提供する秘密計算サービス「析秘(セキヒ)」 のリブランディングを行いました。

リブランディング後の析秘のビジョン

サービスのコンセプトから見直す、抜本的なリブランディングが行われた今回のプロジェクト。今回は、NTTコミュニケーションズ スマートヘルスケア推進室 櫻井陽一さん、KOELのUIデザイナー 小田中裕子さんに、プロジェクトの裏側と、リブランディングを経て生まれた変化についてお聞きしました。

難しい技術を、いかに「わかりやすく」伝えるか

──まず、「析秘」はどのようなサービスなのでしょうか。

櫻井:
プライバシー保護とデータ活用を両立させるサービスです。秘密計算とは、秘密化 (※1) した情報で演算処理が可能になる技術のことを指します。活用例としては、医療分野であれば希少疾患の患者の方のデータを組織間で連携して臨床研究に活用したり、金融分野であれば組織内にある顧客行動データを掛け合わせて信用スコアを構築したり、といったものがあります。

※1 秘密化…ある情報を無意味な複数の断片データにして分散保持(秘密分散)すること

──リブランディングが始まった経緯を教えてください。

櫻井:
専門的な技術なので説明が難しく、営業活動が行いにくいという課題がありました。これまでは開発者側の考え方に基づいて提案資料を作っていたんですが、営業の方から「専門性が高すぎて、自分だけでは説明ができない」と言われてしまっていたんですね。データサイエンスが大好きな技術者が作る分「暗号化した状態でも、こんな解析が可能なんです!」というアピールポイントも盛り込んでいたんですが、同じ知識を持つ一部の方にしか伝えられない、という状況が生まれていました。

様々な企業の研究開発部門や、データマーケティング部門など、サービスを届けたい領域がまだたくさんあります。そのためには、それらの事業領域を深く知るグループ会社の営業協力が欠かせません。作り手側の思いも大事にしながらも「わかりやすく伝えること」をドラスティックに1から考え直したいという思いから、コンセプトもデザインも見直すリブランディングを行いました。

ぽろっと出たような一言にこそ、ブランドへの思いが隠されている

──リブランディングは、どのようなプロセスで行われましたか。

櫻井:
初めに自社の営業や顧客へのインタビューを行い、ワークショップを経てコンセプトの見直しをしました。その後にロゴなどのデザイン営業資料や提案資料の作成、LP制作、ノベルティ制作などを行う、という流れでしたね。

小田中:
ワークショップではパーパスを考えるところからスタートしました。スマートヘルスケア推進室の開発チーム5名の皆さんを対象に「析秘のビジョンとミッションとバリューは何か?」というテーマで、コメントや意見を出していただきました。

──ワークショップでは、どのようなことを大事にしていましたか?

小田中:
たくさんの本音の意見をいただくことです。優等生的、いうならば “正解” の意見よりは、ぽろっと出たような何気ない一言こそがコンセプトに直結する大事な思いだったりするので、そういった本音を拾い上げることを大事にしました。

──「本音で話しましょう」と前提を共有したとしても、本音を出すのはなかなか難しいように思います。

小田中:
なので、そのための関係性づくりから取り組みました。ワークショップの前に行ったインタビューはKOELが主体ではありましたが、スマートヘルスケア推進室の方には全員同席いただいて、さらにはその後、一人ずつ振り返りの場を設けて、感想を聞いていったんです。ワークショップの前にも一人30分ずつ1on1でウォーミングアップする時間を設けて、析秘や開発チームの強み、入社の理由まで語っていただきました。

その後のワークショップはオンラインではなくオフィスに集まって、音楽を流してお菓子を食べながら、というように、話しやすくリラックスした雰囲気づくりを心がけました。みなさんを巻き込みながら「一緒につくる」動き方を意識していましたね。

櫻井:
KOELには本音を引き出す場を上手く作ってもらいました。進め方や場の空気にみんな引き込まれて、どんどん本音を出して考えよう、という姿勢になっていく。

小田中:
「一緒に考えましょう!」というスタンスなので、私たちとの仕事はみなさんも一緒にがんばっていただくぶん楽じゃないかもしれませんね(笑)。

KOELと取り組んで気づいた「同質化」の重要性とは

櫻井:
KOELのみなさんと話していると、新しい気づきが得られるんです。一番ハッとしたのが、同質化の要点を定義できているか、ということ。差別化については意識していたんですが、それだけでは不十分だと気づいたんです。

析秘の差別化ポイントは、スピードの早さや多岐にわたる計算ロジックにあります。一方で他社のデータ分析サービスとも共通する同質化ポイントとなるのが、データの取り込み方や加工方法、分析結果の使い方などです。「これらの同質化ポイントは当たり前にできていて、プラスアルファで差別化ポイントがある」という伝え方が大事なのだなと改めて気づきましたね。

こういったマーケティングやブランディングの考え方について、KOELは具体例を交えたレクチャーをした上でワークショップに進めていくので、僕らとしても感銘を受けるし、理解も進んだ状態で対話していけたように思います。

小田中:
「僕たちはアプリケーションを作ってるんじゃない、サービスを作っているんだ」っていう櫻井さんの言葉は嬉しかったですね。「どういう人が使うのか」「どんなふうに知ってもらうのか」というカスタマーエクスペリエンスは、開発側だけだと意識しにくいと思うので、そこから一緒に考えられたのが嬉しかったです。

──そうした対話を重ねて生まれたのが、「データを『守る』から、『守りながら活かす』へ」というコンセプトなんですね。ロゴや資料などのデザインではどのようなことを大事にしましたか?

小田中:
まず、そのコンセプトをロゴマークで表現できるように、複数のデザイン案を出した中から決めていきました。その後、ブランドカラーの規定やキービジュアルなどの制作を進めていきました。強固なブランドイメージを構築するために、資料などすべてにおいて「析秘らしさ」のある統一感を作っていきました。

櫻井:
ロゴタイプにある、アルファベットでブランド名表記「SeCIHI (Secure Computation and Information Handling Interfaceの略)」をすることも、KOELからの提案で決めました。もともとは漢字表記の「析秘」しか想定していませんでしたが、ゆくゆくは世界に通用するものにしたい、という思いを込めて、アルファベットでも表記することにしたんです。

リブランディングの過程を経て、生まれた変化

──KOELとリブランディングに取り組んだことにより、スマートヘルスケア推進室の開発メンバーのマインドに変化などありましたか?

櫻井:
見えてる世界が変わった気がしますね。というのも、KOELはデザインだけじゃなくてリサーチ能力も高いんです。コンセプトを固めていく時にも、裏で色々なリサーチやインタビューを進めて、それに基づいて対話や提案をしてくれる。そんなふうに新たな知識や知恵を共有いただいて、開発メンバーも自分なりに考えを咀嚼する、というプロセスを経たことで、視野が3次元的に広くなったように思います。自分の仕事やサービスに、さらに深い愛を持ったんじゃないですかね。

小田中:
開発チームの皆さんは、本当に析秘を愛しているんだなというのがお話ししていても伝わってきます。私が感じる析秘の魅力的なポイントは2つあります。

1つ目は困っている人のためになるサービスであること。千葉大学医学部附属病院と共同で研究している稀少疾患の患者さんのデータ分析事例などはまさしくですよね。また千葉大学医学部附属病院では析秘によってプライバシーを保護しながら分析を行う取り組みがされていますが、大切な秘密を守りながら医療機関や患者さんの力になれることが素晴らしいと思います。

2つ目は、クリエイティビティを刺激するサービスであること。どの業界の方でも活用の可能性があり、「使い方はあなた次第」な最高の技術だと思います。

──最後に、析秘の今後の展望について教えてください。

櫻井:
KOELとの取り組みは第一弾としてリブランディングを行いましたが、今後は事例や営業の方の意見も踏まえて、サービス自体のアップデートや伝え方など継続的にアップデートしていきます。より高度なディープラーニングなど技術面はもちろんのこと、UIも各ニーズに合わせたチューニングを行なっていければと考えています。

というのも、析秘はニーズによって使い方が違うはずなんです。大学の研究者であれば難しいデータ解析を行える方が良いでしょうし、臨床現場の医師であれば、簡単な条件入力だけで医学的見地検証ができるような結果が出て来る方が親切ですよね。

秘密計算は、NTTがもう10数年研究していて、世界的にもほぼトップレベルの技術と言えます。これからますます注目も集まっていくと思いますので、求められるニーズに合わせて、データを「守りながら活かす」サービスとしてより良いアップデートをしていきたいですね。

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