見出し画像

「データ×デザイン」で挑む、データ利活用のためのi.school共創プログラム

こんにちは、KOEL 田中友美子です。

去年の今頃から、KOELでは漠然とお題に上がっていた「データ×デザイン」で何かやりたいという気持ちが強まっていました。私自身も過去にこの領域に何度か向き合っているものの、デザインの知見だけでは「データで何ができるのか」の部分にいまひとつ踏み込めなかったり、お題を見つけて実際にデータを活用しようとしたら目的のデータ自体が取得できていない、質が低くて分析に至らないなど、いろんな現実にぶち当たってきました。

なんとかしてデータ分析の強みとデザインの強みを活かしたアイデアの創出ができないものかと再度チャレンジしてみたいなと思ったのは、NTTコミュニケーションズという優秀なエンジニアに囲まれた環境があったからです。
事実に基づく分析が強みのデータサイエイティストと、異種の情報の結びつけや発想の発散が得意なデザイナーは、お互いに長所短所を補える関係性になれるはずです。そこで、社内の探究心溢れるエンジニアの方々に声がけし、部門を超えたコラボレーションをやってみることにしました。デザイン部門KOELからは、私、田中と、高見さん。5G&IoTサービス部の増田さん、テクノロジー部門から切通さん、丹野さんという、専門家の集合チームを作り、データとデザインの融合の可能性を模索しました。


そもそもなぜデータ利活用に新しいアプローチが必要なのか?
共創ビジネスにおけるデータ利活用に対する現場の課題感

データ分析や機械学習は、2000年代後半からのビッグデータブーム、さらに第三次AIブームを経た現在、社会実装が進み、2020年代に入ると、基盤モデルの隆盛、そしてChatGPTをはじめとした生成AIブームと、新たなブレークスルーや活用方法が一般のニュースに上がるほどに盛り上がりを見せています。それらは企業活動の競争力の源泉ともなり、社会課題の解決や公共サービスの向上にも貢献しています。

一方、データ利活用の現場では、「データ利活用や共創ビジネスは上手くいかない、難しい」という声も多いと聞きます。データ分析の技術である「How」が先行しそれに固執してしまうこと、解くべき課題・導入後のビジネスのあり方などの「Why」の議論が薄くなってしまうことなどが、よくある障壁となっているようです。

また、デザインで支援することが多い共創の現場では、解くべき課題やビジネスのあり方や未来像などの「Why」を捉えたものの、その実現プランや活用すべき技術の解像度が低いまま話が進んでしまうようなこともあります。

これらの課題に対して、この「How」と「Why」を掛け合わせ、課題やあるべき姿から具体的な実施プランまでを一気通貫で考える、これまでとは違った、横断的で体系立ったアプローチが必要なのではないかと私たちは考えました。

組織横断で挑む新しい「データ×デザイン」のプログラムの開発

できることを模索する中で、「長期視点での社会変化」「データ利活用のパターン化」「データ利活用アイデアの実現性」という3つのキーワードを軸に、デザインの思考とデータの活用を組み合わせたワークショップを創ることにしました。新しい挑戦であり、難易度の高いワークショップを実施するために、東京大学発のイノベーションプログラムであるi.schoolと協力してデータ活用パターンによる未来シナリオ構想」というプログラムを作成しました。

東京大学の名誉教授である堀井先生のアドバイスもいただきながら、i.schoolのアイデア創出ワークショップのプロセス標準モデルにある、「目的に関する情報入力」と「手段に関する情報入力」を参考にして、前半をデザインの手法を用いて未来の課題とニーズを解決するためにやりたいこと(目的)策定、後半をデータの知見を用い課題解決のプロセスのアイデアに結びつけるという2段構成に設定してみました。

全体の構成が決まったところで、具体的なワーク内容を詰めていきました。
前半はデザイン部門 KOELが中心となり、データ利活用における「Why=目的」を言語化していく未来構想へ、後半はテクノロジー部門と5G&IoTが中心となり、「How=手段」の解像度を高めていくプロセスへと落とし込むことにしました。
前半のデザインのパートでは、まず未来のことを考えてもらいます。レクチャーとして、KOELで実施したビジョンデザインのプロジェクト『みらいのしごと after 50』についてお話し、その後に「今はないけど未来にありそうな仕事」を考えてもらうことで、発想を飛躍させてみました。また、「仕事」という軸で未来を考えてみることで、「人の暮らし」との接点を失わず、具体性をもった発想ができるように設計してみました。

実際に参加者から、「土壌士」や「ウェルビーイングプランナー」「エンパシートレーナー」など未来の兆しや価値観から見えてくる面白いアイデアもたくさん生まれたことに加え、「仕事」というフレームを持つことで、常に人起点に立ち返った議論が行われたことは、設計がうまく機能したポイントではなかったかと思います。

未来の仕事のイメージがついたところで、今度はデータの活用を意識するワークを作成しました。新しい価値観の世界に生まれる新しい職業では、どんな仕事があるのか。そこでは何を人が行い、何を機械に任せるのか。そこではどんなデータが使われるのか。こういった、仕事とデータの繋がりを具体的に考えられるようなワークシートを作成しました。

後半、データのパートでは普段データに関わることの少ない人にも理解を深めてもらえるよう、AIの歴史を概観したり、AIを導入するデータサイエンティストの立場から、AIによる課題解決の難しさや注意ポイントを、実際に体験したエピソードを用いて説明するレクチャーを用意しました。
実現したい世界観に向けて活用するデータの入力、活用手法やアルゴリズム、出力などを考えてみたり、そうしたデータ活用で実現できることや、成功の指標を構想できるようなツールを用意しただけでなく、実現のハードルを考察するワークも準備しました。実プロジェクトの経験から得られた「あるある」なアンチパターンを準備し、未経験の学生でも、実行の道筋をふわっとしたイメージだけで終わらせない仕組みを盛り込んでいます。

今回は、デザイナーとデータサイエンティストの専門性を活かした濃い内容のワークショップを作ることができましたが、途中の作業では、お互いが専門組織であるが故に、認識の共有が難しかったり、共通言語が見つからず苦労することもありました。それでも、お互いの専門性を尊敬しあっていたからこその関係性と、メンバー全員が主体的に提案しあって多角的な議論ができたことと、同じ会社の仲間であるからこそ言える「よくわかりません!」をすり合わせることができたことで、結果として専門性を超えたわかりやすい内容に繋がったと思います。

例えば、データのパートは、私のようなデザイナーには難しい部分も多く、発想そのものが始められないようなこともありました。そこで、「そもそも、データ分析にどんなパターンが存在して、どんな感じのことができるのかわからない」などと難しいポイントを言語化して共有することで、データ活用には大まかなカテゴリーがあることや、扱えるデータの種類をある程度知っておく必要性が見えました。この議論からワークショップ中にも使用した「データ活用パターンカード」の作成に至りました。

「データ活用パターンカード」は、データ活用の計画を立てるために使えるWhat-Howのパターンライブラリで、6つのカテゴリー、26のカードで作ることにしました。オープンソースで提供されている、人工知能学会が出しているAIマップβ 2.0を元に、今回のようなデータ活用アイデア発想に使えそうなものを選んで簡略化したり、目的に合わせて情報の優先順位を定め、記載情報をカスタマイズすることで、データの専門家でない人にも扱いやすくしました。こうした情報の整理も、専門家同士のコラボレーションならではの成果だと思います。

実現度から逃げないワークショップ

ワークショップの実施に向けての準備は想定以上に大変でした。準備が佳境に入った2023年8月には、デザイン部門から棈木さんが参加して、ワークショップの素材を爆速で作ってくれました。社内のメンバーでテストも行い、タスクの難易度や、時間配分などを確認し、9月半ばから2023年度第5回レギュラー・ワークショップ「データ活用パターンによる未来シナリオ構想」を実施しました。

実際のワークショップでも、多様なバックグラウンドを持つ熱意ある学生さんが知恵を出し合い、議論を重ねて、たくさんの面白いアイデアが生まれました。デザインの発想と、データ分析の現実感の両方を取り入れ、面白いだけじゃない。フィージビリティ(実現度)から逃げないアイデア発想のワークショップを作ることができました。参加者のアンケート結果では「デザインアプローチとデータアプローチの両方の視点を取り入れた今回のプログラムを親しい友人に勧めたいか、次年度のプログラムとして継続してほしいか」という質問に対して、すべての参加者が10段階中8以上と高い満足度を示してくれました。

ワークショップのファシリテーションをする中でも、「データ利活用アイデアシート」を活用することで、みらいのしごとから着想した未来の世界観から外れずにチーム内の議論を進めることができました。また、「ペイオフマトリックス」というフレームワークを取り入れたことで、解像度が低かったアイデアの実現度が増したり、なんとなくできると思っていたアイデアの実現性が低いことを参加者自身で気づくことができた場面がみられました。アイデア発想の場の途中途中で、現実性をもった評価が行えることは、思っていた以上に効果があるように感じました。

堀井東大名誉教授が見た、イノベーションにおける「データ×デザイン」プログラムの可能性

ワークショップ4日間の締めくくりとして、堀井東大名誉教授から本プログラム全体にわたる総括のコメントを頂きました。

冒頭、堀井先生は、i.schoolとしても今回のプログラムは非常にチャレンジングでよい機会であったと述べました。その理由としてまず、i.schoolの10年以上にわたる歴史の中で、創業当初から連携している企業によるファシリテーションではなく、NTTコミュニケーションズのようなi.schoolの参加企業からの申し出により協力してプログラムを共同開発することが初めてだったことを挙げました。

また、一般的にデザイン部署やデータ部署が単独でアイデア発想や課題解決に取り組みがちですが、今回の連携プログラムでは両部門の視点を巧みに横断しつつ、破綻させない形でアイデアを発想させることができたと述べ、2つの部門の共創の意義についてコメントしました。さらに、参加者の最終発表の内容を見て、今回のプログラムはデータとデザインの両視点がうまく統合され、その思考プロセスが体系的にワークショップとして設計されていたと高く評価いただけました。

来年度もi.schoolでワークショップを実施します

初回の経験を活かし、良いところは残しつつ、気になるところは改善し、パワーアップした内容で、来年度もまた「データ活用パターンによる未来シナリオ構想」のワークショップを実施できればと思っています。
ご興味のある方は、ぜひ来年度のi.school通年プログラムをチェックしてみてください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?