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地域を「どこにでもある場所」にしないためにデザインができること——Design Dimension 2024 NIIGATAレポート

5月18日、CoCoLo新潟にて経営とデザインをテーマにしたカンファレンス「Design Dimension 2024 NIIGATA」が開催され、セッション「人口減少と地域の未来」にKOEL Design StudioからHead of Experience Designの田中 友美子が登壇しました。

今回は一緒に登壇されたTakram 佐々木 康裕さん、モデレーターを勤めたKESIKI 井上 裕太さんのお話を交え、地域の未来を作るための仕掛けや、デザインの観点から場所作りに必要なことをディスカッションしました。今回の記事ではトークセッションの模様をお伝えします。

田中 友美子
NTTコミュニケーションズ株式会社 KOEL Design Studio
Head of Experience Design
英ロイヤル・カレッジ・オブ・アート、インタラクションデザイン科修了。英米を拠点に、ノキア、ソニーで企業インハウスデザイナー、デザインファームMethodでデザイン戦略を経験後、2021年よりKOEL Design Studioにて、セミパブリック領域におけるデザイン支援や、企業内でのデザイン組織づくりに取り組む。

佐々木 康裕
Takram / フューチャーズ・リサーチャー
カルチャーや生活者の価値観の変化に耳を澄まし、企業やブランドが未来に取るべきアプローチについて考察・発信を行っている。著書に『パーパス 「意義化」する経済とその先』(NewsPicksパブリッシング)、『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略 』(同)、『いくつもの月曜日』(Lobsterr Publishing)などがある。

井上 裕太/モデレーター
KESIKI / Co-founder & Executive Director
京都在住。社会課題とデザイン、官と民、テクノロジーとクリエイティブを行き来しかけ合わせてきた経験を活かし、企業変革と組織文化醸成を中心に活動。カルチャーデザインファーム・KESIKIの共同創業者。クリエイティブスタジオのWhatever、医学×クリエイティブのOpen Medical Lab、社会変革推進財団のメンバーとしても活動している。


日本の内側と外側から未来を洞察する

井上:
今回は「人口減少と地域の未来」がテーマです。お二人は東京を拠点に、しかも海外での経験をともなって、少し外から地域を眺めたり、地域に根差した活動もされていますよね。

田中:
NTTコミュニケーションズのインハウス・デザインスタジオ KOEL Design Studioの田中と申します。私たちKOELは行政が取り込む公共事業と、企業が行うビジネスの間にある「セミパブリック」という領域の課題解決を行っています。

私自身は2021年からKOELに参加していますが、それまでは2003年から2020年までだいたいイギリス、たまにアメリカという感じで大きい会社のデザインの部門や、デザインコンサルでお仕事をしていました。

日本に帰ってからはKOELのデザインの組織づくりも含め、様々な取り組みをさせていただいています。KOELで実施している『ビジョンデザイン』というデザインリサーチのプロジェクトでは、1年に1個様々なテーマを掲げながら人口減少・高齢化の進むこれからの日本の未来を考えています。

佐々木:
佐々木です。今日はよろしくお願いいたします。Takramという会社で10年弱ほどビジネスデザイナーという仕事をしていますが、最近あまりビジネスをデザインしてないなと…。その一方で世の中にビジネスデザイナーが増えてきたんですよね。僕、天邪鬼なんで「じゃあもう僕は、いいかな」と(笑)。
先ほどのお話で田中さんにもシンパシーを感じたんですが、未来洞察的な話が好きで「SF的な未来」というより「近未来」。現在の世界から、3年後、5年後の変化を考えて、ビジュアルや文章にする活動をしています。例えば2020年に『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略』という書籍を出したり、その次の年に『パーパス 「意義化」する経済とその先』を出しました。

今は未来の視点を集めることを個人的に行っていて、毎週『Lobsterr』という活動をしています。世界中のニュースメディアからこれからのエンタメ、ビジネス、どういう価値観があるのかなどを集めて発信しています。

あと、この前SFを読んでいる知り合いと話したら「自分たちが影響を受けているSFの作品は、ほとんど白人男性が書いたものなんじゃないか」と。アメリカ系的な男性の価値観に未来の想像力が植民地化されているような課題意識を持ちました。そこで女性の作家やアフリカ、中国の作家が書いたSFの作品を紹介する『SFノグラフィー』という、ダジャレみたいなニュースレターを始めたところです。

最近よく言われることですが、未来が複線化していますよね。例えば今も、アメリカは右傾化して5年前、10年前では絶対想像できなかったことが起きているし、並行してアメリカ中の大学でガザ侵攻への反対デモが起きています。

地方の時間は都市の時間と全然違うところにあると思うので「常に並行宇宙がたくさんあるんだ」という考え方が大事だと思います。

未来の自分への仕込み、という仕事観

井上:
田中さんに伺いたいんですが、17年間海外で働かれてた後で東京に戻ってどう感じられました?

田中:
17年ぶりに東京で暮らしはじめて最初に、「あ、東京の高齢化、すごいとこまできてるな」と感じました。役所や銀行で手続きしたときにも書類の文字がすごい大きいと思ったし、窓口の方がとてもゆっくり喋られるんです。このまま高齢化がもっと進んだらどうなるんだろう、なのに「これからどうなるのか」そのイメージの共有がなされてないな、と感じたことが『ビジョンデザイン』プロジェクトにもつながっています。

『ビジョンデザイン』の1年目は「人生100年時代の50年以降の働き方」というテーマで山口情報芸術センター[YCAM]さんに選んでいただき、山口県山口市の阿東地区に行きました。高齢者率も58%を超えていて過疎化が進んでいる地域です。

そこに住む皆さんは、お仕事を自分で仕立てられていて「仕事に対する価値の付け方」が、私が思っていたものと全然違って。

井上:
「仕事に対する価値の付け方」ですか?

田中:
例えば「デザインで絵が描けるから、こういう仕事をしよう」というような自分が持っていたスキルの履き換えが起こると予想していましたが、阿東地区の方のお仕事は「未来の自分への仕込み」のようなところがあったんです。「こういうサービスがあってほしい」「こういうことが続いてほしい」というものを自分で仕込む。

井上:
未来の自分の生活、人生を作る、というような。

田中:
「未来の自分たちの生活を支える事業を作っていく」視点がすごく濃くて、リアルな感じなんですよね。

阿東地区最後のスーパーが潰れて、そこを買い取ってスーパーとコミュニティスペースをされている高田さんという方とお話しました。スーパーまで来られる人が減ったので移動販売車を始めて、「お惣菜が欲しい」って言われたら弁当を積んで…でも結局あまり商品を買われてないことに気がついて、お客さんにお話を聞いたら「おしゃべり相手が来てくれるのが嬉しいんだ」と。実は安否確認やセーフティネットの役目を果たしていたんです。それから高田さんは配達員をお二人にして、どんなときもおしゃべり相手が確保できるようなサービスにされていて。

さらに話を聞くと、高田さん自身も歳を取って自分がお店行けなくなったら「あの移動販売車が来てくれる」と思っていて。自分がこのサービスあったら生活が潤うなと思う仕事を始めている。その後のことを考えてビジネスを立てつけているのが衝撃でした。

井上:
もう全員が「セミパブリック・プレイヤー」 になっていく、みたいなことですよね。

田中:
そうですね。人がどんどん減っていく地域には国の力が届かず、近隣の大都市にインフラを頼らなければならなくなってしまう。最終的にそういったインフラの網目の隙間を埋めるのは、人なんですよね。「仕事がデザインだけど、実は大工仕事が上手いんだよね」みたいに得意技を互いに共有してることが、実は大事なセーフティーネットになっているんです。

幸せを感じるために必要な “新しい軸” と “シチズンみ”

井上:
佐々木さんは世界中のいろいろなものを見ている中で、日本の地域に感じるものはありますか?

佐々木:
僕は ”地域” という言葉から思い浮かべる2種類の風景があると思っています。

1つ目は阿東地区のお話に近いんですが、京都府丹後市の上山という地域は15年くらい前から限界集落になっていて、個別のお宅に新聞が届かないくらいなんですね。なので毎朝決まった場所に全世帯分の新聞の束が降ろされる。そうするとそこに新聞を取りに地元の方達が集まる、するとその場でおしゃべりタイムが始まって、一種の安否確認のようなコミュニケーションが起きるんです。

田中:
すごくいい仕組みですね。

佐々木:
2つ目は、僕は埼玉県狭山市出身で地元がそうなんですが、国道沿いに中古車店やファミリーレストランが並んでいるような地域です。日本には先に話された限界集落的な地域もあれば、「週末にイオンにいく」というような文化の地域もあると思うんです。

これは決して悪く捉えてほしくないんですが、週末にイオンに行く人たちを日本国民ならぬ「イオン国民」と呼んでみる、以前そんなリサーチを行ったことがあります。東京とイオン国で比較したときに、世界の都市を貫く別レイヤーのようなものがある気がしているんです。

例えば世界中のイケているカフェオーナーがInstagramで相互フォローを行った結果、世界中のカフェが同質化していく現象が起こっていて。代々木公園のFUGLENというカフェに行ったらタイ語が飛び交っていたんです。FUGLENってノルウェーにあったカフェが日本進出したお店なんですが、そこでタイのイケてる若者がお茶してる。東京、タイ、ノルウェーの人が “あるレイヤー” で繋がっているように見えますよね。

また別の例なんですが、丹後のある方に話を聞いたらロンドンから移住された日本の人で。その人のパートナーがロンドンの方らしいんですが「京都の丹後の田園都市のカルチャーがウェルビーイングでいいよね」みたいな面白い刺さり方をしていて、可能性を感じました。

田中:
イギリス人は「老後は田舎暮らしをしたい」という共通意識みたいなものがあるので、その方は丹後の風景が刺さったのかもしれませんね。

井上:
田中さんは先ほどの阿東地区のような例からどんな未来を感じますか?

田中:
“幸せの軸” を変えないと、あまり幸せになれないんじゃないかと思うことがあります。高度成長期が終わっているのに「一軒家が欲しい」みたいな物質的な幸福を求めていると、これからあまりお金が入ってこなくなる未来には、得られないフラストレーションの方が大きくなってしまうのかも。

なので自分の次のライフステージを想像できること自体が豊かな生き方なのかもしれません。先ほどのイギリス人が田舎に住みたいという根底にあるのも、自分の手の届く範囲で次のステージを考える一環なのかもしれないですね。

佐々木:
キーワードは二つ、「シチズンプライド」と「フレンドシップ」だと思っています。人口減少・高齢化で、行政側も体力がなくなり、”網” がゆるくなっていくところを人が埋めないといけないんですよね。

『D2C』という本で人のことを「消費者」と表現したんですが、『パーパス』という本ではそれをやめました。人が消費者でいる時間よりも、シチズン(市民)でいる時間が長くなっているのでは、という仮説を立てたんです。市民である、とは自分が生きている社会や地域、公共のために時間とリソースを使っていくということ。そういう意味では僕は都心に住んでいて “シチズンみ” を感じることはほとんどない。でも地方にいると “シチズンみ” を感じやすいし、地域経済や社会への貢献を感じることが増えていきます。それが新しい幸せの一種かもしれないなと思います。

もう一つ、日本や世界の大きな課題になっているのは「孤独」です。日本は2030年くらいには単身世帯が4割程度くらいになるらしいんです。特に戦後にできたニュータウンでは高齢の一人暮らしが増えていて、さらにその子どもたちである就職氷河期世代の4、50代の男性も一人暮らしが増えている。家族はイオンで楽しめるし、高齢者には行政の施設があったりします。でも特に男性は男性同士で親密な関係を築くのが苦手で、その受け皿もないですよね。何か解決する突破口がないかと感じています。

田中:
それがまさに「仕組み」ですよね。もしその男性が丹後に住んでいたら「新聞を取りに行く」っていう言い訳からコミュニケーションを始められる。

井上:
阿東地区のスーパーの話も同じで、ふとしたきっかけでフレンドシップを感じられる仕組みができてるってことですよね。

日本中に増え続ける「ノンプレイシーズ」

井上:
孤独の解消は色々考えられそうですが、一方で「狭いコミュニティの中で仲良くしなきゃいけない」となると少しハードルが高く感じますよね。どういうことに気をつけると関係構築が成り立ちうるるんでしょうか。

田中:
「ビジョンデザイン」の2年目で訪れた街では、街に関係性を作る仕掛けがあると感じました。みんなからよく見えるスポットで、すぐに行ける場所がある。そうすると中に誰かいる様子がわかって入りやすくなり、会話がしやすい。会話がうまく行くと先ほど説明した ”得意技” が共有されて何か頼まれごとをされたりする人間関係がその中で生まれていく、そういう気づきがありました。

井上:
ちなみに仕掛けがあるのはどういう場所なんですか?先ほどの新聞配達のような?

田中:
そうですね、それは先の新聞配達のような場所だったり、ガラス張りのカフェだったりします。窓際に人がいる建物が多いと、人から話しかけられやすくなる関係性が見えました。東京では外から見えないようにみんなすごく気を遣っていますが、「見える場所」が共有されることで関係性が回ることが多いんだろうと思います。

イギリスにはストリートパーティーというのがあるんです。道を封鎖して、住人がみんなで机を出して、昼ごはんを食べたりギターを弾き始めたりしてフェスティバルみたいな感じなんです。同じ日の同じ時間に皆が出てくることで、お互いのことがわかる。すると地域性とかゴミの扱いとかも自ずと変わっていくと思うんです。いつかそういう取り組みを個人的にできたら面白いのかなと夢想したりしています。

佐々木:
僕はソニーが銀座に公園を作ったのがすごい面白いと思ってるんです。人が半ば無目的に集まる公園がコミュニティの活性化をしたり孤独を排除するためにとても大事だ、みたいな話があって。地方の行政、自治体はハード(建物)にお金を使っていますが、建物をなくしてパブリックな空間を作ることがある種の仕組みの一つになるんじゃないかと思っています。

井上:
似た話として、田中元子さんが書かれた『1階革命』という本で喫茶ランドリーというお店を作った話を書いているんですが、大都市だとお店が色々あっても、ちょっと離れるとビルがあるのにその一階には人が集まれる店舗がない。そこに喫茶ランドリーを作ったら地域のプライベート公民館のような形になって、年間500件くらいイベントや読書会が行われているらしいですね。

佐々木:
同じようにヨーロッパでは街によって、大きいビルを作るときに「1階の店舗はチェーン店絶対禁止」というのがルールで決まっていたりします。そういうことを仕組み化しないと資本の論理ですべてが決まってしまいますよね。

今、世界で「ノンプレイシーズ」が増えているという話があります。世界中どこに行っても同じような風景を形作る空港、高速道路、ショッピングセンターなどの場所を、フランスの文化人類学者マルク・オジェが「非空間(non-space)」と呼びました。ノンプレイシーズ、つまり “コピペされたような場所” ということですね。空港、高速道路、コンビニ、シネコンなど街の記憶が残らない、どこでも同じような場所が増えていく。特に都会にいると朝に地下鉄に乗って、コンビニでご飯買って、オフィスビルで過ごして、同じようなマンションに帰り、Netflixを見る——そんなノンプレイシーズ・ライフスタイルができちゃいますが、僕は地方にはちゃんとその抵抗線を作って、それを侵食させちゃいけないと思っています。

「プレイス」を作るためにデザイナーに求められること

井上:
とはいえインフラとしてのコストが低いからノンプレイシーズなものが広がっているわけですよね。その一方で地域の固有性、つまり「プレイス」を残そうとすると、弱い人にとって難しいものになりやすい。地域を固有性を残しながら弱い人にとっても過ごしやすい場所に近づけるために、デザイナーは何に気をつけるべきなんでしょうか。

田中:
私はそこで大事なのは「土着愛」だと思っています。ノンプレイシーズが増えて土着愛がなくなることが一番怖いことなのかなと。社会インフラの網目が緩くなっても踏ん張れるのは「自分がこの都市に住み続けたい」という愛情があるからで、だから自分の街をよくするために行動できる。そして土着愛を出すためには、土地の歴史を紐解いたり、その土地ならではのことにスポットライトを当てたりすることが大事なんじゃないかと思います。

佐々木:
私は大きなコンテクストを掴むより、深く潜る態度がとても大事だし、常にメインストリームへの抵抗を続けないといけないと思っています。メインストリームはすごく力が強いので放っておくと絡め取られちゃう。なので自覚的に別解を示すのがデザインの役割だと思います。

井上:
最後にお二人に、地域の未来に対してこれからやっていきたいことや考えていることをお聞きしたいです。

田中:
地方自治体でワークショップをするときはいつも「外からの視点です」ということをお伝えしています。中にいる人はどうしても中の見方をしてしまうので、色々な視点を持ち寄って話し合う土台を作る。デザイナーの活動の中でもそういった叩き台を作ることに一番意味があると思っています。

佐々木:
実は僕も物質的な欲望が捨てられないので、最近一軒家を買ったんですが…(笑)。そこで実験したいと思っているのが「令和に家を建てる意味ってなんだろう」と。「佐々木家」みたいな表札はつけないで、セミパブリックな空間にしたいと思っているんです。リビングとかも解放して読書会したり、地域の人にも動物にも開いた、非人間中心的な実験的な場所にしたいと思っています。

井上:
今日はそれぞれの視点から、人口減少という難しい課題の中で焦点を見つけるディスカッションができたかと思います。本日はお二人にお話しいただきありがとうございました!




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