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KOEL×ヨコク研究所トークセッション「リサーチとデザインのあいだ」後編

前編に引き続き、リ・パブリックさん、ヨコク研究所さん、KOELによる「リサーチとデザインのあいだ」トークセッションの後編をお届けします。後編は会場からの質問に答えるQ&Aセッションです。

デザインは「政治的な行為」

Q.それぞれのスピーカーに聞いてみたいことはありますか?
田中:
ヨコク研究所は出版をされていますが、事業との関係はあるのでしょうか?
山下さん:
ヨコク研の活動は事業に直結させることを目的にはしていません。「あるべき未来」を既存の事業からリニアに考えること自体に無理があるという所がスタートポイントなので。それよりも新しい未来に興味関心がある人を顕在化させ関係を築くところからはじめています。出版に力を入れているのはそのためです。外側のうねりを作って、社内に「こんなこと起きてるよ」と働きかけながら結果的に変わればいいと思っています。
田中:
外に味方をつけていきたいということですね。新しい未来に興味関心がある人と関係を築きたいという気持ちには、強く共感します。
先ほどの市川さんの「デザインリサーチの変化」の話にも通じる部分ではありますが、昔は商品などものに対してそれをどう使うのか、まずオブジェクトがあって、その周りにリサーチがありました。今は社会というフレームが広くなり、それゆえ事業としてビシッと的が絞れないといったことが起きています。だからこそ、人との関係性の中から社会の輪郭をつかむ、そのためにファンを作ろう。そういう話につながるんだなと思いました。
市川:
投げ込んでみないとわからないことって多いですよね。
山下:
ヨコク研究所を始めて最近とても痛感するのは、デザインって「政治的な行為」だなと。
あるべき社会や今やるべきことを考えると、どうしてもリニアにはつながっていないことも多く、例えば、既存の部署に対して「これはおかしい」と伝えるなど周囲に対して働きかける必要が出てきます。そういうことを避けてるオシャレな世界だと思ってましたが、ずいぶんデザインって泥臭いなと。

市川:
鋭いご指摘で、だからこそみなさん政治と地続きの「カルチャー」にある種関わっている印象があります。KOELさんもデザイン人材育成といった形で、当初から組織の人材とか組織づくりをやろうとされていましたよね。
田中:
先ほどお話した「みらいのしごと」は比較的先進的なリサーチで、すぐに社内の全員に理解いただける類のものではないと思っています。まずは社内に「デザインというものがあってね」というところから仲間を増やしたくて、組織作りの方にも取り組んでいます。

Q. アジアから見えてくる未来とか、蛸みこしとか説明に困るような活動もされているが、戸惑いはあるか?
江藤:
私自身の中では一貫性があることなので、戸惑いはないです。「自律協働のエクササイズ」の1プロジェクトとして実施した「蛸みこし(※1)」に参加されたメンバーは小規模でしたが、そういったプロトタイプも自律協働社会や「be Uniqe.」に繋がっています。ただ、それらすべてを時系列として伝えきることはできていなかいですし、私たちも完全な正解を提示しているわけではないと思っています。
※1 蛸みこし
「蛸の脚にはその一本一本に独立した知性がある」という話から着想した、竹を素材としたふにゃふにゃした装置。蛸みこしを用いたワークショップが豊岡演劇祭2022などで開催されている。

江藤:
KOKUYO内でも2022年の秋口からディスカッションの場を作って、何十人との対話から自分たちの作ったものを理解するような結構草の根活動もしていますね。

Q. 市川:社内に対するエンパワーメントも含め、周りの人も巻き込んでいきながら外に出していく、そういったプロセスは最初からあったんですか?
山下:
最初からイメージはありました。ヨコク研究所をはじめる前にオウンドメディアを作ったりリサーチの活動をしていく中で、直接社内に働きかける時の無力さったらないといつも思っていたので。社員は同じ立場である社内の人から説得されるのが嫌なんですよねですので、「面白いですねKOKUYOさんは」と外圧から変わっていくと思って活動しています。
あと根本的に5人しかいないので、はじめから自前でやっていても仕方ないというところもあります。

市川:
蛸みこしについて、どのような意図でやられているか含めてもう少しお話を聞いてもいいですか?
山下:
タコって一つ一つの足が別の知性を持っていると言われているんですけど、蛸みこしも一人だけ頑張ってもダメで、全員が周りを見ながら協働することが調和につながる。自律的でありながら協働している状態というのを体験してみたかったんですよね。自律協働社会の縮図ではないかと。
市川:
実際に自分も蛸みこしを体験してみるといろんな人を巻き込むことはある種の「投げかけ」だし、それをどう社会に反映していくかが重要になってくると思いますね。

固定観念を壊すために地域に入る

Q. デザインの活動として地方の地域に入り込んでいくことをどう考えていますか?
田中:
KOELとして『みらいのしごとafter50』をやった時は人口減少高齢化がテーマで、これからどんな世の中になるのかに興味がありました。
17年イギリスで過ごした後、日本に戻って暮らしてみると、日常生活の中で「高齢化とはこういうことか」と思わされる場面がたくさんありました。
アジアでリサーチする意味ですが、世界的に見ても高齢化は日本が先駆けていますよね。先進国がこの後に続いてくる。人口減少高齢化の中での幸せな生き方を考えるというのは、世界に先駆けて、今日本でやる意義が強いことだと考えています。
例えば、東京ってすごく特異なところです。すごく過密な都市だし、日本の中でも人口が減少していない地域ですよね。
一方で『みらいのしごとafter50』で訪れた山口県の阿藤地区は、過疎のベテランで。そういう場所に行ってみると「過疎が続くとこういう問題が現実に出てくるんだ」と理解できる。
これからの人口減少と高齢化の中にある社会像を理解したり、その中で楽しく暮らせるポイントを学びたくて阿藤地区に行きました。

市川:
阿藤地区ではスーパーが閉店していましたね。けれどもそこから誰かがその場所で仮のスーパーを作る。みんなでお弁当を作って、トラックを使って地域を巡回する。ジョークを言いながらお弁当を作っていらっしゃいましたね。
田中:
課題を見るために訪れたわけですが、課題の先にある希望とか、サービスのあり方も見えたリサーチでした。
江藤:
私たちは都市生活者だし、例えばサラリーマンであるといったバックグラウンドは拭えないわけです。どれだけ多様性といっても、会社単位で見るとどうしても何かしら偏った価値観の中で生きている。
地域にいくと個人事業主の方もいるし、4つとか5つくらい仕事を持っているのは当たり前だったりして。そういうことを場所含めて理解しながら、自分の固定観念や認知の器みたいなものを壊すのが大事で、意味があることだと思っています。
ヨコク研のメンバーで、2022年は鹿児島に行きましたが、そこで起きていることは鹿児島特有の話なのか、実は粒度を変えてみたら都市でも起きていることなのか、具体と抽象を行き来するのは自分としても有意義でした。具体の行動として地域に入っている感覚はあります。

Q.地域からどんな未来が見えてきましたか?
山下:
活動のなかに批判性を持ち込めるのが都市部とは違うなと。東京は大量の仕事だったり情報が猛スピードで流れている。こうした慣性がはたらいてる中で、いくら批判をしても流されちゃう。
逆に地方は公共サービスの限界など、自然と生活のなかに断絶が起きてある種の批判性を帯びます。「今までがまずかった、どうすればいいんだ?」が良くも悪くもそれが自然と起きるんですよね。それがオルタナティブな未来を考えるチャンスで、我々が学ばせていただけるところだと思っています。
市川:
「自律協働」のテーマを借りてお話すると、一回何かが断絶したりうまくいかなかった向こう側には、個人のパワーという観点で、都会とは比べ物にならない圧倒的なものを感じますよね。
その場のリソースや価値や人脈をうまく束ねて、我々では想像できない軽さとスピードで新しいものを作っていっている現場でもあります。

江藤:
地方には人材が少ないので、いる人や入ってきた人が全部やっていましたね。東京はあらゆる選択肢の中で「安く売れるもの」を作るが、鹿児島は今ある選択肢の中でどうする?を考える。考え方の起点が違います。
田中:
人と人との距離感も東京の方が遠かったりしますよね、密度は高いんだけれども。サービスの網が荒いのが地方。その荒さを人との繋がりでなんとかしようとするのが人口減少のリアルだなと思います。
山下:
それから、地方だと自分たちが起こした行動のフィードバックのループが目に見えてまわっていくみたいなことも良いですよね。東京は自分が何かをやっても自身の生活が良くなる実感がありません。
市川:
ある程度場所というか、自分が関わって影響を及ぼす範囲が決まってくると、自分がどう動くことによってどう変化するのかがわかる。実業で学ぶべきマインドセットがそこにはあると思います。

伝統的企業の中でデザインを考える意義

Q. リサーチしてそれで終わりではなくて、投げ込んだ後に回収しないといけない。そこのことついてどのように考えていますか?
江藤:
最近思ったのが、結局リサーチの後の活動も学びであり、自分たちの認知を更新するためにアウトプットしていくことに繋がるなと。なかなかその一歩を踏み出すのが難しいので、「意外とできるよ!」とか「楽しいよ!」とか、そういうことを見せることも考えて活動しています。
市川:
もしかすると逆に一人だとできないこともあって、御社だからできることを再発見することもあると思いますがいかがですか。
江藤:
やっぱり創業118年のリソースはすごいです。今日この場がることを含めてそうだし、やろうと思ったらECとかの販売もできるし。僕にはできないことがあるからコクヨにいるんです。
山下:
私はいままで性格的に後ろの方からずっと観察しているタイプの人間だったから、「あなたは何をやるんですか」と迫られるとウッと言葉に詰まってしまいます。正直なところ何が出来るのか、この一年間ずっと自問自答しています。

市川:
リサーチしたことを元にこれから実業を作っていくところに難しさはありそうですね。プロトタイプするのが大事なのではなく、フィードインしてどうリデザインして、どうあったらいいのかを回収していく、といった。
デザインは政治的だというお話もありましたが、愚かな自分を曝け出しつつ、その場で色々学びながら新しい価値を作るのにつなげていければいいと個人的には思っています。
NTTのルーツを考えると、いかにして人口の少ない離島にまでインフラを行き渡らせるのか、全体を考えるみたいなところがあると思うので、そういう投げかけ、そこをKOELができるといいですよね。
田中:
私たちNTTコミュニケーションズのような、インフラを作っている会社にとって地方を見るのはとても大事です。"全国" ってこういう意味なんだって思います。
テーマが大きくて事業にすぐ直結できないのがもどかしいところですが、今って世の中の変化がまさに起こっている時、いままでのやり方いろんなことが手詰まりだと感じている時だと思う。
その先のことはちょっと考えたくらいではわからないので、引き続きデザインリサーチの活動から、実感を伴う未来像を描いてみたいと思います。

市川:
そういうことを一緒にやれるといいですよね。みなさん同時にひとつの社会を見ているはずなので「私はファニチャー」「私は通信」と分かれずに、結果としてそれがファニチャーになるかもしれないし、何になるかわからない。プロセスも一緒に作り込んでオープンソース化して、2社だけではなくて探索的にこれからできるといいなと思っています。

Q. 今後の活動の方向性はありますか?
山下:
今メンバーの特性的にリサーチ寄りの活動が中心になっているので、具体的なアクションを取っていくチームにしたいと思っています。おかげさまでヨコク研究所のファンが増えつつあるので、一緒に何ができるのかを考えていきたいですね。
市川:
投げかけた結果、賛同してくださった方を支援していきたいということですよね。
先日たまたまお話を伺ったデンマークデザインセンターのクリスチャンベイソンさんは、デザインアワードにテコ入れをされると聞きました「これからは完成度の高いものに賞をあげて終わりではなく、ポテンシャルの高い人にお金を渡してエンパワーすることに重きを置きたい。」と言っていて。
一過性のものにせず支援して新しい価値を一緒に見出していく。それがデザインの今なのかなと思います。
山下:
まさにデザインのプラットフォームを作っていくということですよね。わたしたちも一緒にそういった実際に何かを生み出す場をどうしたら作れるのか考えていきたいと思います。
田中:
日本の未来に目を向けると、高齢化と人口減少は本当に確実にやってきます。いざ「大変!」となった時に頼れるものがあるといいなと思います。何が足りなくなるかわからない中で、どうにかできるツール、知恵、コミュニティなどを形作っていきたいです。

必要とされるのは「相手の立場に立って考える力」

Q.(聴講者から) 山下さんのおっしゃる、デザインが政治的な営みに接近していく中で、デザイナーに求められるスキルは?
山下:
例えばストーリーテリングでしょうか。絶対的な正しさがない時代においては、共感からいかに一緒に活動する人を集められるかが重要だと思っています。
ただ人へストーリーでもって影響力を与えようとする営みはほとんど陰謀論と裏表の関係で、怪しいと思われてしまう側面もあるので真摯な態度がもとめられますね。
市川:
怪しいか怪しくないかって、伝えようとしているストーリーが自分と異質なものに対してどう働きかけるかにもよる気がします。江藤さんはどうですか?
江藤:
自分が恵まれているのは、人の懐に入り込めるところだと思っていて。
鹿児島でのリサーチの一環としてとある商店で業務することになり、作業着を着ていたんですけど、そしたら地元の郵便局の人に「新入りまた入ったんだね!」と間違えられたり。人との距離感、この人は敵ではないなと思われるのは恵まれてますよね。
山下さんと私は方向性が違っていて、社外に呼びかけようとしている山下さんと、社内の有志に呼びかけようとしている私といったところですね。

市川:
近づきにくさ?と近づきやすさ両方必要、だからこそのチームなのかもしれないですね。
田中:
江藤さんに近いのかもしれないんですけど、私は相手の言葉で喋りかける力が大事だと思います。デザインリサーチは抽象的な話が多いので、様々な説明の仕方が選択できるんですよね。そういう中で「相手の文脈に乗れる力」があると、仲間が増やしやすいなと。

Q. (参加者):デザインリサーチをした後と前でどんな効果や成果が出て、どのように評価するのでしょうか?
市川:
そもそもインパクトを評価する指標そのものを作らないといけなかったり、効果や成果を評価する時間軸の話もある。未来のスパンが長いテーマに投げかけているので、すぐに変化が出るわけではない。プロセスを可視化する必要もありますね。
田中:
そこは社会の変化とか大きな題材を取り上げたときの難しさだと思う。題材が大きいからこそ、少し先の未来だからこそ、今言わなくてはいけない、何かが起こってからでは遅い。その時に一周、先に考えておけたかどうかが最終的な成果の違いになると思います。
山下:
絶対的な評価指標を持つことは難しいので、アウトカムから逆算したロジックモデルを組んで経営サイドと合意しています。途中でダメだったらまたロジックモデルを組みなおす。
市川:
直接的にすぐ出る結果だけで判断する価値観からどう脱却するのかが大事だと思う。プロセスの中で変化が起こっている、現場の変化を生で感じられる場所に身を置いてもらうのもいいのでは。

…というところで、お時間が来てしまいました。デザインやリサーチについてこれからたくさんの人が関与していくプロセスになっていくと思いますし、インパクトを生み出しつつあることも感じています。
本日のような場を含めて、探索の機会を増やしていきながら議論を深めていき、協業の機会なんかも作れたらいいなと思っています。本日はありがとうございました!


いかがでしたでしょうか?デザインリサーチの実践者の視点から、デザインリサーチがデザインそのものになっていること、視野を広げたデザインが必要であることなどが明らかになりました。これからのデザインのヒントとしていただけたら幸いです。
KOELではデザインリサーチの営みを引き続き行っており、今後もnoteで共有していく予定です。お読みいただきありがとうございました。

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