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『パースの哲学について本当のことを知りたい人のために』コーネリス・ドヴァ―ル著 | 勁草書房

 出版業界は連日、お通夜の情態であるが、過日は珍しく書店に足を運んで、心が明るくなった。懐かしい良書が幾冊も復刊されており、「書物復権」の帯とともに平積みされていたからである。十の出版社が読者からのリクエストを基に、共同復刊する。このような姿勢を眺めていると、まだまだ日本も棄てたものではないと感じる。私は以下の三冊を求めた。

『パンセ』 パスカル著 白水社
『虚構世界の存在論』 三浦俊彦著 勁草書房
『パースの哲学について本当のことを知りたい人のために』 コーネリス・ドヴァ―ル著 勁草書房

 最後のパースは、歴代の米国で至高の知性として評されている賢人になる。しかも二位以下と圧倒的な差があると視るひとも多い。幾年かまえに、NPO法人読書普及協会の会員から推薦図書を尋ねられた際、パースの名前を出したが、しばらくしてパースの本は今はないと残念な返事をいただいていたから、兎にも角にも復刊してくださってよかった。

 おそらく書物の生きる道があるとするなら、絶滅危惧種の読書家が唸る本に集注するしかない。

 簡単にわかりやすくし過ぎて、中身がないのに売れる本づくりへと流れたから、出したくもない自費出版の本しか出せぬ出版社が増え、書店は八千を切る破目になってしまった。ちなみに私は農福連携という、障害をお持ちの方々が農業を支えるという事業も手掛けているが、このニッチな農福連携を取り組む事業者がおそらく年度内に書店の数を越えるから、いかに書店が風前の灯火かがおわかりいただけるかとおもう。

 こうすると誰でも簡単に成功するといった幻想の時代はもうとっくに幕を閉じている。わからないがらも、ひととして歩んでいく。このような生き方へと移ろいたい方には、ぜひパースから読書へと還っていただきたい。本とは文字通り、万物のもとであるのだから。

「無限の過去における状態から出発して、無限の未来におけるそれとは異なる状態に至る」

 まずパースは宇宙をこのように視ていた。ビックバンのような絶対的な初めを設けなかったのは、根拠のない根源的な不連続性を仮定するのを厭がったからである。

 さて、宇宙に初めがなかったとしたら、あなたの人生觀はどう変わるのであろうか。

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