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わたしの本棚

私が棚に並べるのは、古風な日本人からたまたま譲りうけた古書ばかりで、元の持ち主が亡くなった方も少なくない。要は私の本棚で一時期お預かりしているだけに過ぎない。そのような絶版ばかり…
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記事一覧

『日本語原學』林甕臣著  | 講談社

 親の偉業を子が編集した本は少なからずあるが、群を抜いて絶品なのが本書であろう。古書店でであったなら、ぜひお持ち帰りしていただきたい一冊である。なぜなら、ほんのアジールに入れたい最たる本であり、日本を読み解く上で、必須の名著になるからだ。  父の名は甕臣と書いて、「みかふみ」と読む。甕は水や酒を貯蔵した大きなかめを指す。今、「読む」と書いたが、昔は「呼び見(む)る」と云った。「読む」を身につけるのに、旧字体は「讀」で、それを白川靜がどう視たなどとやっていても、一生わからない

『枕頭問題集』ルイス•キャロル著 | 朝日出版社

 『枕頭問題集』は文字通り、ルイス•キャロルが枕頭で解いた数學の問題ばかりを集めた一冊になる。原書は本名で書かれている。  アリスのキャロルが数學?と思われるかもしれないが、彼は数學から言語學まで視えてたひとであった。そのキャロルの鬼才ぶりも極めて魅力的なものの、本書に限っては訳者の才能が凄まじく、キャロルが霞んで映る。個人的には、これまで読んできた中でダントツの訳者あとがきなのだ。このようなわけで、表題をキャロルの本にした。  さて、パスカル、キャロル、津田一郎と時を経

『パースの哲学について本当のことを知りたい人のために』コーネリス・ドヴァ―ル著 | 勁草書房

 出版業界は連日、お通夜の情態であるが、過日は珍しく書店に足を運んで、心が明るくなった。懐かしい良書が幾冊も復刊されており、「書物復権」の帯とともに平積みされていたからである。十の出版社が読者からのリクエストを基に、共同復刊する。このような姿勢を眺めていると、まだまだ日本も棄てたものではないと感じる。私は以下の三冊を求めた。 『パンセ』 パスカル著 白水社 『虚構世界の存在論』 三浦俊彦著 勁草書房 『パースの哲学について本当のことを知りたい人のために』 コーネリス・ドヴァ

『偶然と必然』J・モノ― | みすず書房

『数学する身体』森田真生 | 新潮社

 森田真生は海外に行ける力がありながら、あえて日本で暮らす日本人のひとりになる。私の周辺のおもしろい日本人は等しく海外で暮らしているが、今あえて日本で暮らす日本人の方がもっとおもしろいと近年は感じている。  さて、今朝は「Thank you」と靜かにつぶやきたい氣持ちもするので、この本の39頁から引用する。  この身体化はインドーアラビア数字だからできる部分が多い。  例えば、39×33を「ひ、ふ、み、よ、い、む、な、や、こ、と」と筆算することはなかなか難しい。ところが、

『禅という名の日本丸』山田奨治著 | 弘文堂

 昔、作務衣で或る航空会社に乗った際、空の景色を窓から眺めていると、客室乗務員が手紙を渡してきた。他の客にバレぬよう、靜かに最後尾まで来て欲しいとのことであった。暇だったので、足を運ぶと、客室乗務員たちがお茶をしており、その輪に加われという。茶や禅の話を尋ねられ、適当に答えていたら、紅茶とケーキにありつけた。似非和尚ぶりも、ここに極まれりだ。  ところで今、第三の哲學が西欧では流行っており、日本の禅も人類の存亡を握る叡智としてさらに注目されている。西欧が東洋にようやく追いつ

『ハレとケの超民俗学』高橋秀元・松岡正剛 | 工作舎

 プラネタリーブックスは私が生まれる半年前、『存在から存在学へ』(松岡正剛)が出版され、今回の『ハレとケの超民俗学』はシリーズ2冊目になる。もちろん生まれたばかりで読書はまだできないから、それから三十年後、古書店に足を運んでは、宇宙の欠片を集めてきた。おそらく異様なプレミアがついている本以外は、ほぼ凡て集まったのではないか。せっかくだから、欠けたまま私の宇宙はとっておくことにする。  ちなみに、現在はプラネタリーブックスのうえに、或る動物の頭骨がのっている。「或る」などと氣

『タフティー•ザ•プリーステス』ヴィジム•ぜランド | SBクリエイティブ

 この手の「引き寄せの法則」を私のような中年男性が讀んでいると、或る種の恥ずかしさを感じるので、この本は珍しく電子書籍で購入し、表紙を隱した。購買理由は、表紙の赤面した女性に惹かれたのもあるが、マトリックスからの脱却には「身体性」が必要であろうという視点が書かれてあったからだ。久方ぶりに世間の流行本を確認しておきたかった。ちなみに、本書ではそびらの「三つ編」が願望を実現できると表現されている。  三つ編の話をするまえに、「身体」を文字通り「身」と「体」に分けておく必要がある

『ジャッケンドフの思想』米山三明 | 開拓社

1、駅へ走った。 2、駅へ走っていった。  あなたにとって、上の1と2はどちらが違和感がないだろうか。海外の方には説明しにくい微妙な言語感覺ではあるものの、大概は2の方がホッとする。それは、日本語の「走る」に「移動」の概念が含まれていないからと視たのが米山三明先生になる。  ちなみに私は博士後期課程まで約十年、指導教授をしていただいている。今も成長はないが、当時はより変わった院生であった。よく永いこと破門もせずに、色々とご指導くださったと思う。初めて米山先生の授業「言語學

『日本の色辞典』吉岡幸雄 | 紫紅社

 本書は横須賀の古書店で家人が見つけた一冊で、店主があまりに愛した辞典ということで、新本という形で売られていた。吉岡は日本に生まれてきてよかったと感じさせる数少ない先人のおひとりであるが、この本もまた我が國で育てていただいてよかったと素直におもえる一冊になる。  ところで、出版社の紫紅社は昭和48年に吉岡が設立された美術工芸図書出版で、その名からもわかる通り、色のなかで紫を吉岡は最も愛した。そのドキュメンタリーは映画になっており、そのタイトルもずばり『紫』である。  こち

『人は自然の一部である』渋沢寿一 | 地湧の杜

 過日、或る珈琲屋で家人が「その本、『何が自然の一部である』と書いてあるの」と訊ねてきたから、私は「人だね」と無愛想にこたえて、店の本棚からそれをとって渡した。個人的には『AIは自然の一部である』くらいのタイトルがよかった。  注文したアイス珈琲の氷はよく工夫されており、味もたしかであった。しばらくすると、家人が「ねえ、ここから少し讀んでよ」と云ってきたので一讀すると、内容も珈琲と同様、濃いものがあり、私は奥付まで一氣に頁をめくった。  著者は渋沢栄一の曾孫で、以前どなた

『科学と生命と言語の秘密』松岡正剛×津田一郎 | 春秋文庫

 私は松岡正剛が校長をされているISIS編集学校の卒業生になる。十年目の「離」なるコースを卒業(編集学校では退院という)したから、共読仲間とともに「十離」と呼ばれることもある。たまに老舗の居酒屋にて本で乾杯する仲だ。本書との出逢いはそんな十離仲間の「半分もわかっていなかった」というメッセージからはじまった。  思い起こせば、離に入院してからの数ヶ月はひどかった。幼い頃、病弱だった私は医者に幾度も「今夜が峠です」と云われてきたが、そんな私でも離の入院中は厳しいものがあった。極

『神の革命』福岡正信 │ 春秋社

 福岡はFUKUOKAとした方が今なお話が通る。要は海外の方が一目を置いているのだ。近代の我が國にありがちな話で、隣人に世界が求めてやまない人物がいるのに、一瞥もせず、妄想の西欧を追い求める癖は未だに抜けていない。「君は日本人のくせにFUKUOKAを識らないのか」と云われて久しい。  さて本書は「無」三部作のひとつで宗教篇にあたる。まずは最初の頁を引用させていただこうか。  FUKUOKAと云えば自然農法(Natural Farming)だが、実際は宗教人や哲學家といった

『古神道秘訣』荒深道齊 | 八幡書店

 鎖國主義の私のまわりには所謂、靈能力者が妙に居る。おそらく偏見がないのが佳いのであろう。中には親交が深まる方もおいでる。鎖國主義なのに。書道をしているせいか、ついでに靈符を頼まれる機会も少なくない。彼ら曰く、私は「わかっていないけれど、なぜかできる」性質の男らしく、時にはブラック企業も青ざめる数の除靈案件も舞い込んでくる。無論、こちらは商売ではないから無償だ。  別に関心がないので、除靈も必要以上にはしないけれども、現時点では自分の周囲に舞い込んできたものに関しては、仕方