『「幸せなお産」が日本を変える』吉村正 | 講談社+α文庫
怒り狂ったおじいちゃんが赤裸々に綴った文章が好きだ。
さらに云うならば、日本人なんだから日本に還れという方向性も好みだ。
したがって、本書はかなり贔屓にしたい一冊である。
絶版なところも尚、佳い。
著者の吉村先生は、どこか『自然農法』の福岡正信を思わせる。そういえば、あのおじいちゃんも近代日本の科学農法に怒り狂っていた。吉村先生も云うなれば、自然出産を薦めている。
吉村先生は妊婦に薪割や散歩を積極的にさせて、兎に角、身体を動かすことを推奨された方だ。賛否両論あろうが、今であったら、帝王切開一択の逆子や中絶一択の無脳症のお産もされている。昨今のお産は、近代人の多忙ぶりも重なって、大人の事情で進められていることが多い。
まず、仰向けによるお産。これは医者が動きやすいから、採用された姿勢になる。無論、自然に仰向けで赤ん坊を生む方もいらっしゃるが、四つん這いや横向き、立ちながらのお産をされる方も少なくない。要は、自然に任せれば、妊婦の出産姿勢は多様なのだ。
次に、陣痛促進剤。こちらも帝王切開と合わせれば、出産予定日が正確に決められる。しかし、自然のお産はそうはいかない。特に、初産婦は赤ちゃんの方もお母さんの股を傷つけぬよう気を遣い、頭をゆっくりと出入りさせて誕生しようとする。だから、初産婦の出産は経産婦のそれより概して、時間を要する。
そのように産まれた場合、お母さんの方はそれほど出血しないことが多い。赤ん坊が出やすいようにと、人為的に股を切るから、血が過度に出てしまう。
最後は出産直後に、赤ん坊はお母さんと離されてしまうということだ。この世に生まれてすぐに、一心同体であったお母さんと別れてしまう経験は、潜在意識に色濃く残る場合が少なくない。やはり共に生命を賭した体験をしたばかりの母子が一緒にいるのが自然であろう。
もちろん、近代科学の発展で、救われた生命は無数にあるのかもしれない。しかし、自然で産めたはずのお産が、不自然に歪められたものも無数にあるのではないか。せめて自然に産もうとする女性に寄り添える選択肢がもっとあってもよいかと思う。
吉村先生曰く、お産は人類に残された最後の自然である。
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