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発祥の味、ギリシャ料理を堪能せよ

高級でセレブなイメージが非常に強い麻布十番。港区は白金台から始まり、どうしてもお高い感じがする。

 だが、僕のイメージは少し異なる。

 このエリアを回っていると、東京タワーを中心にして各国の大使館や異国の人々が集い、文化が入り乱れている長崎出島のような文化交流の中心地としてのイメージが港区に出てくる。

 その日、用事を済ませた僕はビルと住宅地の間にポツンとある児童公園のベンチに座り、ボケっと時間を過ごしていた。もうすっかり夕暮れが近づくにつれて、温度よりも湿度がじっとりとしてくる頃だ。

 立ちあがって、マスクを付け直し緩くしていたネクタイを締め直す。どこかで異国料理を食べていこうか。

 それがいいだろう。まだ食べたことが無い国の味を求めて、表通りに続く何本目かの十字路に向かって歩を進めていく。

 表通りが近づく、と十字路の角に異国の風が吹いている一軒のお店を見つけた。外のテラス席から階段を下って店内に続くガラス張りの店内には自然光が差し込み、クラシカルな北欧風の装飾をじんわりと照らす。凄く良さそうだ。

 表の看板を覗いてみればギリシャ料理の名前が躍る。ギリシャか、チェコ料理は四谷で食べたけどギリシャ料理は食べたことが無い、ここにしよう。テラス席の真横の階段を下りてギリシャ料理『ミリュウ』さんへ入ることにした。

 ちょうどテラス越しに光が入る席に案内してもらい、異国の空間から今しがた覗いていた外の世界を傍目に見る。

 なんだろうか、店内と十字路で流れている時間が違う気がするのはチャコールの木目のシックな感じがあるからだろうか、とにかく心がすとんと落ち着いている。

 さて、ギリシャと言えば神話と西洋文化発祥の地だ。そんな古代のロマンが詰まった食文化、どんな料理と出会えるだろうか、メニューを開いて聞きなれない名前に想像を膨らませる。メニューの名前はどれも個性的だ。

 サガナキ?ドルマーデス?ムサカ?スヴラキ?スパナコピタ?バクラヴァ?下の説明分だけでは全体像がつかめないぞ。

 ギリシャ風オムレツにサラダ、どんな風…なんだ?メニューの舌の説明文と自分の直感の合わせ技でメニューを決めていく。

 メニューに関して、オーナーさんとお店のおかみさんに少し訪ねながら僕が選んだのはブドウの葉でひき肉と米を包んだ前菜『ドルマーデス』、魚のギリシャ風の串焼き『魚のスヴラキ』、ピタパンという平たい空洞のパンにギリシャのローストした肉を挟んだ『ギロピタ』、デザートに『バクラヴァ』を注文した。ギリシャの食文化全開で勝負だ。

 料理が来るまでの間、食前に頼んだハーブティを飲みながら、夕暮れが迫る通りを眺める。人通りも帰る人々がぽつぽつと交差していく。

 お、何か運ばれてきた。白い皿の上に発破で包まれた塊、オリーブオイルの黄色と緑が凄くまぶしい。これがドルマーデスだ。レモンを絞るのがおすすめらしい。

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 なんというかこの包み方を見ているとロールキャベツを思い出す。それもそのはず、ドルマはトルコ語で「詰めた」という意味があり、イスラム諸国や中央アジア等で脈々と伝わってきた料理がオスマントルコを経て、ギリシャに残ったのである。

そしてそれ以降にこの料理は海を渡り、ヨーロッパでロールキャベツという料理になったわけだ。つまり、源流だ。

 ナイフを真ん中に入れてやると、ひき肉と米が緑の間に顔を出す。一口、運んでやると香辛料が肉全体を引き締めていると同時に米とも上手く手を結びあって綺麗なまとまりになっている。スパイシーで重厚な餡をブドウの葉が後味を爽やかにしてくれる。ロールキャベツよりもこっちの方が好きかもしれない。

 レモンを絞ってまた一つ味を変えれば、これまでのスパイシーな感じからがらりと酸味とオリーブオイルが効いた味覚の奥が目覚めるような一撃が舌に刻まれる。文明開化、ここに極まれり。

 起源に少し近づいたと感じたところで次はメインともいえるギリシャの国民的ファストフード『ギロピタ』のお出ましだ。

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 ラップサンドのような感じだが全く厚みが違う。中身はスライスした紫玉ねぎやレタス系の葉、それにフライドポテト、主役の豚肉のローストであるギロがたっぷりと巻かれていて、ギリシャのヨーグルトソースであるザジキがかけられている。ド迫力だ、凄みを感じる。

 紙を巻いて、大口で齧り付く。

 これは、美味い。というか、サンド系統のなかでこれほど主張が激しい一品は初めてだ。何と言ってもギロが凄くジューシーでスパイシー、香辛料が豚の味を奥から引き出している。それにピタパンの力強さが負けじと受け止めていて、調和がとれている。

 玉ねぎもアクセントとなり、フライドポテトもしっかりとした存在感がある。どれも具材の主張があるのにしっかりとまとまっているのはこのヨーグルトソース、ザジキが指揮を執っているからだろう。深い酸味と爽やかさにニンニクのパンチがガツンと効いて、全てが完結している。これは恐れ入った。

 最後の料理は串焼きの『スヴラキ』だ。これは逆にシンプルな料理だがオリーブオイルがたっぷりかかっているのがまた地中海の香りが漂ってくる。

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 シンプルな串焼きゆえに魚の白身の香ばしさと身のフワリとした食感が効いている、たぶんスズキだと思うがシンプルな料理ほど魚は美味い。魚と魚の身の間に挟まる玉ねぎがまた甘く愛おしい。エキスの染みたオリーブオイルをパンに纏わせればもはや敵なしだ。

 ギリシャの入り口、実に堪能した。

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 そして、最後はデザートの『バクラヴァ』だ。パイ生地を重ねた菓子だが、その中には甘いシロップに漬け込まれたナッツが入っている焼き菓子だ。これが実に脳天を突き抜けるほどに甘い。

 ナッツの歯ごたえに甘いシロップが噛むごとににじみ出てくる感じ。これはもう一品苦味のあるデザートでバランスを取らねば。

そこで目を付けたのがギリシャ発祥のチーズケーキだ。

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 チーズケーキもギリシャ生まれだったのか。レシピはオーナーさんがアレンジしたものだがこれがとても大人な感じだ。

 2種類のチーズの濃厚な世界を奥行良く感じるが何と言っても王様の蜂蜜の「タイム蜂蜜」が全てのアクセントだ。滑らかな舌触りの向こう側に華のある仄かな甘みとほろ苦さが力強くチーズケーキを上のランクに押し上げている。これはもう、食べておかなければならない、幸せな一品だ。

すっかり辺りが暗くなった。ギリシャの弾丸ツアーを経て店を出ると、外のテラス席には異国のお客さんが座っていた。

文化を知る者は食文化を知るべし。異国の風が吹く、麻布の街を僕はそんな思いを抱いて去っていくのだった。

今回のお店
ギリシャ料理 tavernaミリュウ
住所 東京都港区東麻布2-23-12
お問い合わせ番号 03-3568-7850
定休日 日曜
営業時間 ランチ11時30分~15時
     ディナー 17時30分~22時


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