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酒場1人飯ーその39「赤羽の鰻」

毎年、この季節になると鰻が恋しくなる。

 実はウナギを食べる文化は日本だけでなくてヨーロッパにもあったりする。テリーヌにしたり、燻製にしたり、スープにしたりと脂を活かすのではなく落とす食べ方で食されてきたようだ。

 それ故に鰻を香ばしく焼く文化は日本独特のものといってもいいだろう。

 そんな鰻が恋しくなったら何処で食べようか。鰻の店は何軒か巡ったことがあるがその中でも僕が一番好きな店が赤羽にある。手土産にもここの鰻を買って帰るほどに一番舌にピタリと馴染んだ店。

 呑兵衛の聖地、赤羽の一番街を抜け一番端にある「まるます家」の列の待ちわびている人々の様子をちらっと横目に表道路の方へ抜けていく。

この「まるます家」も大きなコの字と座席がある赤羽を代表する酒場だ。とにかく早い時間帯からやっている呑兵衛のランドマークみたいなものだ。何度か僕も訪れたか、どの料理も美味い。福島にいるのに初めて鯉を食べたのはここだったりする。鯉の煮つけ、美味かったなあ。鱗のゼラチン質がトロリとして・・・。

そんな思い出もある店の先にOK横丁があり、その丁度出口と表通りの交差する地点にその店はある。香る焼きの香ばしい匂いに誘われて「川栄」さんへと足を運ぶ。

鰻と焼鳥、洋食ではお馴染みの「ほろほろ鳥」焼き物を取りそろえた赤羽の雄。数年前に店内を改装しているが、実に佇まいは渋い。最近はお持ち帰りばかりで店内には入れていないのが残念だがその味は変わることなく、歴史を貫き通している。

店内で食するならほろほろ鳥と鰻のオムレツは是非とも外せない逸品だ。以前『泪橋』さんでの鳥刺しを食べた話をしたが、地鶏とは全く違う存在感をホロホロ鳥は示す。

たたきとモモの刺身の合わせ盛り。たたきは実に滋味深く、ホロホロ鳥の味の濃さを堪能できる。

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地鶏とは全く趣が違う、あちらが力強さならこちらは濃度が凄い。思わず感嘆の声が漏れてしまう。モモはねっとりとした肉質を感じ、パンプアップした脚が想像できる。どちらとも初めて出会う衝撃だ。

その串焼きとホロホロ鳥のスープもまた頭を揺らす美味さ。色々な部位を味わえるバラ串に、本来の力強さに圧倒されるホロスープ。どいつもこいつも身震いしてしまう。

さあて、軽く腹ごしらえをしたらメインへ移ろうか。夏の美食の帝王、鰻の登場だ。その前に前に記した鰻のオムレツを紹介しよう。

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その名前の通り、鰻の入ったオムレツだ。これがまた常識をひっくり返す。卵のふわりとした中に香ばしい鰻が閉じ込められた黄色の魔法。

真ん中から崩して食せば鰻を包み込んだ卵の調和が口の中で協奏曲を奏でる。美しい調べの中に歴史が詰まった一皿に心は高鳴るのだ。

そして本命うな重。黒い重箱を開くと中から立ち込める魅力の香り、黒に光り輝く照りと胃袋を揺さぶる鰻の脂。僕はコイツを喰いに来たんだぞ、と心の奥底から湧き上がる感情は限界値を遥かに超えた感情の極みか。

待ちわびた瞬間、山椒を散らして箸を入れる。ふわりとした身をほぐし、タレのしみ込んだ白い飯と柔らかい身と脂が重なれば、極上の瞬間が訪れる。ああ、これがウナギなんだよ。

タレはどちらかといえば甘さよりも辛味に寄ったキレのいい味わいだ。サラリと脂を際立たせてくれるのがまた良い。甘いタレよりも断然この年季の入ったシャープな味わいのほうが僕は好きなんだ。

間に挟んで奈良漬けがまた酔わせてくれる。

全てが役者、全てが魅力。赤羽の片隅で紡いだ歴史を食す。それは店で食べても、持ち帰った先でも変わらない。

だから、僕は赤羽に足を運ぶんだ。これもまた魅了された呑兵衛の一つの形。

今回のお店
川栄
住所 東京都北区赤羽1-19-16
お問い合わせ番号 050-5869-0614
定休日 水曜、日曜
営業時間 昼の部 11時30分~13時
     夜の部  17時~21時
     祝日 11時30分~17時(鰻売り切れの場合は閉店)
    テイクアウト対応時間 8時30分~21時
   
    アドバイス 店内での食事は予約を取ると楽に入れます。
          平日なら当日予約できます。
          テイクアウトもオススメします。


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