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闇トン、とんかつの隠し球現る

ここ数年で一気に市民権を得た肉の調理法。生ではないが火をじっくり通すことでジューシーな味わいを残す低温調理。


『レア』ブームが起こっているので1番わかりやすいのがローストビーフ。


今や新しい丼物として定着した『ローストビーフ』丼、あの登場時のインパクトはとてもすごいものだった。


 また全面的に拘っています、感にあふれたラーメン屋ではチャーシューを低温調理とか、鳥だってレアで食べられるんです、という形で焼き鳥とか料理を出すところも見かける。その極めつけは牛カツか。レア肉ブームで一気に揚げ物界にのし上がってきた。

だが、そんな中でも「とんかつ」というジャンルは別格感がある。

レアに火が通った肉と金色の衣のコントラストを生み出すには「安全性」という大きなハードルを越えなければならない。それでも試行錯誤をくり返しそのハードルを乗り越えて、衝撃をくれる店も多数存在するのは間違いない。

そんなとんかつと出会ったのは有名な商店街である武蔵小山から少し離れた場所にある西小山で、だ。

駅から目黒方面に続くにこま通り商店街を進むと、ゆらりと「とんかつ」の文字が浮かぶ提灯が見える。店構えはどことなく和食屋さんのような和風の佇まい、ちょっとごちゃちている感のあるメニューなどの飾りがアクセントとなっていて、暖簾の「とんかつ 波止場」を際立たせる。

店の扉を開ければ1Fは狭めのカウンター席のみで、奥に2Fのテーブル席への階段がある。厨房がすぐに目に入るが何と言っても揚げ鍋が2台あり、段階で2度揚げするという拘りが見て取れる。そして、目の前のチルドケースに鎮座する、赤と白が際立つ豚肉が輝いている。


ご店主さんもいい顔をしている、相当拘りのある肉を届けたいのだろう、その思いが分かる。店を仕切っているのは女将さんとご店主さんの2人で切り盛りしている。


メニューはと、トンカツはロース、ヒレに、限定のリブロースがメインか。酒場使いも出来るようでビールや日本酒も完備か。夜限定メニューのしょうがメンチも気になるが、最も気になったのはそこではなかった。鍋のメニューにある、しゃぶしゃぶの上に書いてある二文字。


 やみ、豚???おいおい、聞き捨てならない言葉だ。実にいけない用語が好奇心を擽る。どうやら所謂、無菌豚の育て方をした肉なのだが特別に仕入れさせてもらっているという激レアな肉の様だ。これは楽しみだ。


 ならば、その特別な肉は限定のリブロース定食で齧り付くことにしよう。すんなりとリブロースのとんかつを選び、地に足を付ける注文に息を吐く。

 しかし、良い豚は低温で脂が溶けるという話をよく聞く、このやみ豚も口内温度で脂が溶けるらしい、ますます食べたことが無い領域になってきた。


 お茶をすすり、パン粉を纏った極上の肉が上がる様子に目を凝らす。まずは温度が低めの方にじっくりと火を通す。中がレアになるのはじっくりと火を通すことによってか、低温調理と同じ原理だろう。そして、一度休ませて馴染ませた後に一気に高温で2度揚げ。レアとカラッと感の両立か。


 カツが供され、豚汁と白飯が目の前のカウンターから手渡される。カウンター越しなのでこぼさないように慎重に受け取って、ようやっと定食が出そろった。

 厚めの肉の中心がほのかな桜色に染まった絶妙な日の入り下限のとんかつがお目見えだ。リブロースのとんかつの断面をしっかりと魅せてくる構図が憎らしい。真ん中を持ち上げ、とりあえずシンプルに塩で試してみる。


何で食べるか悩むのも、とんかつの醍醐味だが、やはりここは一番シンプルな食べ方で味わいたい。柔らかく、じんわりと火が通った絶妙な肉が舌に驚きを与える。

さくっとした衣の下からじんわりと肉のエキスがにじみ出てくる、一口で旨味の奥底の甘味が波のように引いていく。やみ豚、恐るべし。いい肉は軽いというがこれはもれなく軽い、魔法の様だ。


 恐ろしい、一切れがあっという間に消えてしまった。食べ応えがなんだ、ボリュームがなんだ。一切れ一切れが舌の記憶に深く刻まれていく。肉のエキスがもっともっとと煽るような感覚が脳を支配している。


白米、そのあとに豚汁を啜る。濃いめの味がとんかつとは対照的で嬉しい。そう言えば最近はとんかつに豚汁がセットになっていることが多いが、わざとダブらせているのだろうか?


このセットを繰り返したところでキャベツだ。キャベツ、助かる。さて、一通りルーティンを回したらとんかつにここでようやくソースだ。おう、これもいい。やみ豚の甘味が強くなる気がする、とんかつを食う事、それは生きているという証であり、幸せであると言っても過言でないだろう。


やみ豚を思い出しながら暖簾をくぐる。次来たときはロースとヒレ、ダブルで行ってしまおうか。何気なく力が湧いてくるような気がしているのは気のせいではないだろう。揚げ物は力の源、だ。


今回のお店

とんかつ 波止場

住所 東京都目黒区原町1-3-15

お問い合わせ番号 03-3714-6922

定休日 不定休

営業時間 平日 

11時30分~14時15分

       17時30分~21時30分

     土・日・祝

       11時~15時

       17時~20時30分


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