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1人酒場飯ーその31「君達はまだ北欧を知らない、ピルスナーの誘惑」

 ビール界隈を取り巻く環境はメーカーの思惑、客のニーズに合わせるように変化している。

 発泡酒から始まったこの流れは麦芽を使用しない第3のビールや、リキュール型の第4のビールへと徐々に変化を繰り返している。

 それだけではなく缶チューハイでも度数の高いものが流行っているようにアルコール度数の高いものが市場に出て来るようになった。

 また、ニュースになったため、結局中止にはなったがコンビニでのビールサーバー設置等の話題がよく聞こえてくる。


 しかしながらだ、やはり色々と言われているが現状はビールを呑む人が少なくなってきている。付き合いのある若い子はカクテルやハイボールが好みのようだ。

 あの麦芽の苦味がなかなか受け入れられないのだろうか。人の好みは難しい。と書いてはいるが歴史の分だけビールの世界は奥が深い。

 様々な国や地域で作られているだけあって様々な味のバリエーションがある。日本だけでも日本各地に地ビールが存在しているのだから、どれだけ根付いているかが分かるだろう。

 実はビールは離れているようですっかりと日本の酒文化に取り込まれてしまったようだ。


 そんな前置きの流れからで強引ではあるが、前々から気になっていたお店を先日訪れることが出来た。

 お付き合いのある業者さんが四谷三丁目で、居酒屋を探してほしいという無茶ぶりを仕掛けてきた時のことであるが、偶然にチェコ料理のお店の情報を得ることが出来たのだ。しかもチェコのビールを売りにしているようだった。


 多国籍料理は意外に食べようと思わないと食べる機会が無いジャンルではないかと思う。最近は新しい領地の開拓の為に様々な国の料理を探して食べに行くことがあるが、なかなかチェコ料理はお目にかかれない。

 これは実際に行って確かめてみないといけないだろう、次の東京遠征の時に行くお店に決めていた。

 しかしながら、四谷三丁目に向かった遠征の日程がお盆と重なっていたため、休みだった。うん、流石にそれは予想しておかないとダメじゃないか。自分の見切り発車ぶりに落胆しながら帰ったことを思い出す。

 ここでちょっと話を変えるが、東京は多国籍料理の宝庫だ。

 それだけ人の集まる場所と言う事があるのだろうか。僕が行った中で強く印象に残っているのは代々木上原にあるブータン料理のお店「ガテモブタン」だ。とにかくインパクトが強い、トウガラシ、トウガラシ、トウガラシ…。と言うほどにトウガラシが主役の料理は是非とも味わっていただきたい。

 寄り道をしてしまった。話を元に戻そう。

 ようやく代々木上原のそのお店に行けたのはつい先日のことだ。1年越しのリベンジなる。


 四谷三丁目と曙橋の駅に伸びる外苑東通りの裏路地の呑み屋街の外れ、ビルの地下に静かにそのお店は移転していた。

 前の店舗も2Fだったため落ち着いているのは変わりないがそんな静かな場所にチェコを始めとした東欧料理を売りにしているお店『だあしゑんか』はあった。


 表に合った小さな看板が目印。その地下への階段をゆっくりと下ると木の扉が待っている。物おじせずに扉を開くとその先には不思議な世界が広がっている。


 深い青色の壁に包まれた店内は落ち着いた照明で照らされている。

 木のテーブル数席とカウンターの店内を見渡せば、多くの絵本が本棚にあり、ヨーロッパらしい小物や手書きの看板が大人のゆったりとした時間を演出している。女性客と男性客の比率が意外にも半々だったのは驚いた。


僕はカウンターに案内され、店内の雰囲気に酔いしれながらメニューを手にする。

 ちなみに店名の「だあしゑんか」はチェコの絵本に登場するキャラクターの名前から取ったとのことだ。

 メニュー越しに見ても聞いたことのないメニューが多い。しかし、親切なことに説明が乗っているのでそれを読み込んでいくうちに胃袋が訴えかけてくる。

 そしてメニューにはハーフサイズの文字も。選択肢の幅が一気に広がる事は一人客にはうれしい。


 呑み会とは断絶した中で一人メニューと格闘しつつ選んだのは『チェコ風ポテトサラダ』『ブランボラーク(プレーン)』『ヴェプショー・クネドロゼロ』『ビール煮込みのグラーシュ』の4品。

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 それに合わせるのは毎週木曜日に樽を開けるチェコのビール『ピルスナーウルケル』だ。うん、いろいろ頼めたのは嬉しい限りだ。


店内を少し眺めつつ、宴会の後ろの本棚に目をやる。あれのうち、何冊か読んでみたい。

 まあ、皆さんの楽しい時間に首を突っ込むのもどうかと思うので少し静かに過ごしていよう。

 だが、こういう雰囲気だと文庫本でも読んで時間を過ごすのも悪くない。夜の酒場で文庫を読む、なかなか乙なモノじゃないですか?


 すっかり時間の流れに身を流されていると最初に出てきたのはウルケルとポテトサラダ。

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『チェコ風ポテトサラダ』の由来はよく分からないが、形の残ったポテトが主役を張っている。まずは一口、ポテトの形が残っているため触感がいい、それに程よい酸味がある。酢のような、丸みのある酸味。爽やかな、ヨーロッパの味だ。

 それに合わせてウルケルを呑む。

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ウルケル自体もとても柔らかい印象のビールだ。苦味と麦芽の旨味に、軽やかな口当たりが調和された羽根のような軽いビールだ。この軽やかさは樽生が生きている。それに合わせてポテトサラダも生きてくる。

 前菜からいいカードを引いた、サラダを一気に食べ切りあとはチョビチョビとウルケルを呑む。呑むたびに美味い。


 気づいてみるとすっかりグラスは空いていた。

 それと時を同じくして『ブランボラーク』が到着する。

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『ブランボラーク』はいわばチェコのパンケーキと言ったところか。香ばしい香りが鼻の奥を擽る。

 まずは横に添えてあるタルタルソースを置いておき、本命のみを食する。おお、と思うほどに香ばしい焼き目とニンニク、香草のダブルのパンチが響く。

 生地にはポテトっぽいような印象もあり、カリッとした表面はじっくり焼いた証だ。小さめのパンケーキのような見た目ではあるがパンケーキとは全く別物。これはいい、絶対ビールに合う。

 が、飲み干してしまっている。まあ、置いておくとしてそこに自家製タルタルを付けてみると、ハードな味を酸味の強いタルタルがうまい具合に取り持っている。


あっという間に食してしまった僕は黒板に目を向け、新しいビールの名前を発見した。

 『ベルナルドボヘミアンエール』。名前の響きからして重厚そうなビールだ。次のメイン達に合わせて頼まないと損だ。この瓶を注文し、メインの2品をじっくり待つ。


ゆったりとした時間が流れていく、心地がいい。すっかり瞼も重くなってきたような気がする。お、カウンター越しにメインの1皿目が来た。『ヴェプショー』だ。

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どっしりとしたローストポークの下に引かれているのはタマネギのサワークラフト、添えられているのは「クネドリーキ」と言う茹でパンだ。チェコ特有の真っ白なその生地はパンと言われてもパンとは思えないようだ。


 まずはローストポーク。しっかりとした塩コショウの効いたザ・王道の肉の塊だ。だが、角煮のように柔らかく脂がとろけていく。

 このローストポーク、只者ではない。その油をさっぱりとさせてくれるのがサワークラフトの酸味だ。肉とタマネギ、合わないはずがない。それに気を取られていたが気になる「クネドリーキ」を食する。

 初めて食べた食感だ。パンでありながら非常に弾力が強くモチモチっとしている。しかも茹でただけだから生地の素朴な味がよく分かる。


と、すっかり忘れていたが『ベルナルドボヘミアンエール』が届いたのでグラスに注ぐ。

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先ほどのウルケルよりも重厚な香り。ぐいっといってみよう。呑んだ瞬間に分かる、重厚な香りの通り、このビールはずしりと麦芽とビール特有の苦みが2層に重なっているヘビー級の味わいだ。この濃厚な組み合わせ、なかなかいいじゃないか。


『ヴェプショー』を食べ終わり、最後に来る料理は煮込み料理なのでまだ時間がかかりそうだ。ふと黒板を見るとデザートがあるようだ。

 日替わりのデザートにはクネドリーキでフルーツを包んだものがある。気になるじゃないか。と言う事で追加注文『チョコプルーンのクネドリーキ』を頼む。

 と、同時に『ビール煮込みのグラーシュ』が登場した。クネドリーキもしっかりと控えている。

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牛肉がどんと陣取る見事なビーフシチューの見た目であるが、味わいはビーフシチューよりも深みのある煮込みだ。濃厚でデミグラスソースのような味だが深いところに仄かな苦味がある、これはビール煮込みか。それにクネドリーキがまたよく合う。

 ここまでゆったりとした時間を楽しんできたが、最後はデザートで締めくくる。頼んでいた『チョコプルーンのクネドリーキ』だ。

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このクネドリーキは食事に合わせたクネドリーキとは違い、少しモチモチ感が生のような生地だ。その中に生のプルーンとチョコレートという珍しい組み合わせが包まれていた。チョコの濃厚さと下のソースの甘さが〆にはいい、だが流石に重かった。食べ過ぎた。


  全てを食べ終え、店を出るとふとこんなことを思ってしまう。


 「文化を知るにはまずは胃袋から」僕ももっと色々な料理やお酒を呑んで理解を進めていこうか。と、ほろ酔いの足取りで駅まで歩いていくのだった。

今回のお店 だあしゑんか
お問い合わせ番号 050-5590-6487
住所 東京都新宿区舟町5-25TS1 舟町ビルB1F
最寄りのアクセス 東京メトロ丸の内線四谷三丁目駅から徒歩3分
定休日 火曜日
営業時間 平日 18時~24時
     土・日・祝日 17時~23時


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