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【読書記録】明け方の若者たち(カツセマサヒコ)

Apple Storeが話題図書と薦めてくるのでサンプルを読んでみると、仄暗い書き出しに先が気になってしまいそのまま購入。たぶん私は鬱々とした小説が好きなのだと思う。「こころ」や「人間失格」にいつまでも惹かれてしまうのも暗さ故だ。この本でも“僕“は冒頭から絶望した様子をチラつかせていて、好物の類に見えた。

読み進めると独特の言い回しが目につく。「彼女には彼女の中で確立されたものがいくつもあって…」とか、詩のような印象。“彼女”について書かれるときは、そんな言い回しも不思議と大袈裟には思えない。そういう経験が自分にもあるからなんだろうか。年が近そうだなと思えば1986年生まれだそう。同世代と聞くとなおさら気になってしまう。

「共感」はこの本の軸のひとつなのだと思う。「こんな経験したな」とか「あったかもしれない」と思わせる場面がたびたび出てくる。見たことのない世界に連れて行ってくれるというよりは、読み手を「あのころ」に立ち戻らせてくれる本。フレーズを聞いて情景が浮かぶという意味では、槇原敬之や志村正彦の歌詞みたいだとも感じた。

仕事パートでは「イチローにも本田圭佑にもなれなかった僕たち」なんて表現が出てくるが、これはもう大袈裟だと感じてしまう。それとも自分もこんな風に思っていた時期があったのか。うまく思い出せない。

中盤になって“彼女”の事情が明かされる。そこから語られる“僕“の想いや足踏みがこの本のハイライト…なのだろうけど、読み進めながら頭にチラつき続けたのは前半のエピソード。

例えば彼女が下北沢でやけに眠そうだった、前の晩に眠れなかったと言っていたのはなぜか。“彼女“側の沼の深さまで考えてしまうのは想像しすぎか。下北沢での唐突な行動も、素の彼女なら取らなかったのではないか、などと空想してしまう。

総じて面白く読んだ。次回作も読んでみたい。

★★★

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