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塩と胡椒

関東/大学院修士課程理系/コミック志望

「最後に、味を調えるための塩と胡椒を少々」
料理の終盤で聞く台詞。
幼少期からキッチンに立って母の料理を手伝うのが好きで、高校からの約9年間を調理分野の勉強に充ててきた私の就活に塩胡椒は必須だった。何を言っているのだろうと思われるかもしれないが、私という人間が少しでもその会社に合うように、合っていると思ってもらえるように、仕上げにご愛嬌の塩胡椒を振り「貴社に好んでもらえそうな味」に調えていた。
でも講談社は最後まで味を調えられなかった。突然の緊張で俳優の名前を忘れたり、想定外の話をしたり。「私」という素材だけで、素直に、必死に言葉を繋いでいたらいつの間にか面接が終わってしまい、仕上げの塩胡椒を振れなかった。
実は2度目の採用試験。本が好き、でもやりたい事が不明確なまま受験した1度目は書類選考であっけなく幕を閉じた。高い壁を知ったからこそ今回はいくら準備をしても不安だったし、恐怖のあまり選考結果を1人で見られず先輩と友人に抱きしめられながら結果を開いたりもした。
「私には救いたい子がいる。自分を受け入れられなかったあの子。個性を消して下を向くあの子。そんなあの子を前向きにしたのは講談社の作品だった。あの子が抱いた感情や経験を、同じ悩みを持つ誰かのためになる次のコンテンツ作りに生かしたい」。1回目の受験時には曖昧だった目標は、これまでの人生を振り返って初めて見出せたと思う。
さて、ここで一つネタばらし。「あの子」は高校生の頃の私だ。エピソードが出来すぎていたのか、3次面接で「本当に? 採用試験のために作った話じゃない?」と疑われて焦り、面接で話す内容とは思えない過去の出来事を真っ赤な顔で、でも少しだけ愉快な気持ちで話した。選考の中で最も自分を曝け出したあの時間は後に「印象的だった」と言ってもらえた。塩胡椒を振って味を調えなくても、案外「そのままの味」が一番美味しいのかもしれない。

バッグに忍ばせていたお守り代わりの塩胡椒(見るだけで緊張がほぐれる優れもの)と
面接官に好評だった私の相棒イヤリング。イヤリングを購入する際、
作家のSatsukiさんから温かい言葉をいただき就活を乗り越える力に変えた。
就活中、繰り返し読んでいた私のお気に入り。
料理や本そのものに興味を持つきっかけとなった児童書、読みすぎて縦線が入っているデザート、
かつて「あの子」の心を支えてくれた岩下慶子さんといちのへ瑠美さんの最新作も。

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