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【冷たく熱い感情】

北海道/大学院修士課程理系/こども・教育志望

『こりゃ敵わないな』
ビル灯に照らされる首都高を眺めながら、神田川沿いの道で僕は言葉を吐き捨てた。
2022年冬のことだ。
その日は講談社のワークショップだった。
気づいたころには全プログラムが終わり、僕は会社の外にいた。
覚えているのは、僕たちの2つ前の班が企画した漫画で爆笑を掻っ攫った一方、僕たちの発表では誰一人としてクスリともしなかったことだ。

北海道に帰り、研究室で本エントリーのESを前にしても筆が一向に進まなかった。
自分に何が足りていなかったのか。
やりたい仕事が分からなくなっていた。
気分転換に、トドの頭骨が山積みとなっている部屋へ向かった。
骨をノギスで計測していると、嫌なことも忘れられる。
トドの骨は不思議だ。
陸棲動物のように見えて、海棲動物のようにも見える。
トドは面白い。
その時、あることが頭を過った。
はたして、僕はトドが好きなのだろうか。
好きなだけなら顔を裂いて骨になんかしないだろう。
どうしてこの形なのかと一歩引いて観ることもないだろう。
骨を計測する手が止まる。
もしかして、この俯瞰した視点が自分には足りていなかったのではないか。
好きな気持ちが先行して、僕たちだけが好きなモノを発表していたのではないか。
憑き物が落ちたような気持ちになった。
研究では出来ていた俯瞰的で情熱的な気持ちが僕には足りていなかった。
今なら何か書けそうだ。
急いで研究室の席へ戻った。
しかし、再び手が止まる。
とはいっても、漫画では自分はまだ戦えない。
ふと目の前を見ると、キリンの本が目に入った。
これだ。
図鑑や児童書ならこんな本があればいいのにといつも考えている。
パソコンに向かった。
1時間後、そこには粗削りだが俯瞰的で情熱的なやりたい仕事が生まれていた。
この4ヵ月後、僕は講談社へ再び足を踏み入れることになる。
実際何がうけて内定をいただけたかは分からない。
しかし、今一度好きなモノを一歩引いて観るといいかもしれない。

自分を解剖学へと導いてくれた人生のバイブル。 子供でも大人でも楽しめるこんな本を作りたい。
研究室の先輩が、トドの頭骨を作る練習にと 自分で撃ったエゾシカをくれ、作った標本。

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