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秘密結社 コウダンシャ

関東/四年制大学文系/校閲志望

 「講談社」は知らなくても、「コウダンシャ」は知っていた。中学1年生の頃だ。中学の最寄り駅から地上に出ると、大きな道路の向こうにたたずむ荘厳な建物だ。となりにあるガラス窓の目立つ建物は警察署らしい。それならば、「コウダンシャ」は、なにか重大な作戦をたくさんの大人が集まって話し合う、「秘密結社」に違いない。ワクワクと、憧れと、ちょっとした怖さ。毎日上書きされていく「コウダンシャ」のイメージは、「コウダンシャ」が、出版社の「講談社」であることを知ってからも、そう簡単には消えなかった。
 大学3年生になって、ちゃんと「講談社」を知った。言葉が好きで、言葉とともに過ごせる毎日を探していた私が、出版社で働きたいと思うのは自然なことだった。そんな中、就活で「講談社」の文字を見つけた。「コウダンシャ」、あの秘密結社! 新卒採用サイトを開くと、大切に紡がれた言葉の数々が並んでいた。何年分もの採用サイトをさかのぼって、その全てのキャッチコピーに心が踊った。秘密結社・コウダンシャで、練り上げていた「作戦」は「言葉」だったのだと、はっきりと見えるようになった。
 面接が進んでも、講談社は「コウダンシャ」のままだった。いろいろな服を着た人がせわしなく行き来するロビー、高い建物ではないはずなのに案内された26階(私が警察署と反対側の高層ビルも講談社だと知ったのは26階に上がってからだ)、まるで秘密基地のように狭いブースに区切られた二次面接の会場。そんな場所での面接は、面接というより「作戦会議」だった。単に私の力量を試されているのではなく、一緒に働いたら何ができるか、期待を少しずつ言葉にし、共に働く「作戦」が練られているように感じた。それぞれの役割を担う方々と重ねる作戦会議は、どの時間もあっという間で、心から楽しかった。そして気づけば「秘密結社」に温かく迎えられていた。
昔の私も、今の私も、「コウダンシャ」にときめいている。

護国寺駅から出る人々を出迎える講談社の建物。垂れ幕が変わるのを見つけるのが好きだった。
三次面接は予定があった魚津駅から直行。集合時間までにたどり着けるかが一番不安だった。
地方から受けていたみなさんはすごいなと実感した。

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