チーズティーにやられた
関東/四年制大学文系/文芸・ライトノベル志望
私は自他共に認める準備魔だ。就職活動となると、血が騒いでしようがない。特に、面接の対策に燃えた。想定問答の作成、話し方の研究のほか、お風呂で面接の練習に励んだり、自室のぬいぐるみを面接官に見立てたり。あらゆる手立てを尽くした。
しかし、実際の選考が始まると、徹底的な準備が裏目に出るようになった。私は想定外の質問に対して、かなり動揺してしまうのだ。滑らかに受け答えできる質問とあまりにも対照的で、ちぐはぐになってしまっていた。
ちなみに、自覚したのは講談社の二次面接の直前。対策を講じる余裕はなく、ほの暗い気持ちで挑んだ。
それでも、序盤はスムーズだった。大体想定通りの質問で、少しくらいなら変化球が来ても大丈夫かも、とほっとした矢先に、
「この、チーズティーっていうやつ、美味しいの?」
「え゛?」
この、「え゛?」と発声した瞬間の私の思考回路は以下の通り。
想定外想定外想定外。確かに海外で飲んだチーズティーをふざけてESに忍び込ませたのは私でございます。いやでも、それ聞く? 準備してない、何と答えるべき? いや準備してないし、でも……。
まあいっか。
極限状態に置かれたその瞬間、私は準備魔を一旦封印した。
「それが、甘じょっぱいのが意外にいけるんですよ。お茶文化の国なので――」
私は即興の食レポと渡航先のあらゆる知識を雑に合体させてなんとか答えた。その後、急激に増加したシビアな質問に対して「どうなんでしょうねぇ」と悩みながらも、今の時点の私はこう思う、というスタンスで素直に答えた。そんな方向転換が功を奏したのかはわからないが、なぜか面接は通過。嬉しさと困惑で号泣した。
というわけで、清らかなお茶とふわふわのチーズの組み合わせのように、意外な方針がぴったりはまることもある。これが私が就活から得た教訓だ。それでも、このエッセイも数パターン想定してからそれぞれ書いているくらいだ。相変わらず、準備魔の血には抗えない。