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虚像の私、等身大の俺、坊主頭の俺

関東/四年制大学文系/コミック志望

 5年前、私は絶望していた。世の高校生は青春を謳歌しているのに、どうして私は男子校の汚い野球部の部室にいるのだろうか、と。だから私はよりいっそう漫画に沼った。ギコギコと自転車を漕いで書店に通っては、部室にラブコメを持ち込む。週刊少年マガジンの編集者を夢見たのは、この時期だった。

 ただ私は、この原点をなかなかESに書けなかった。当たり前のことすぎて、書こうとさえ思えなかったのだ。「出版社に受かるのは個性的な人ばかり」。そんなネット上の声に惑わされ、自分の無個性を嘆いては、出版社に受かる学生像(虚像)に自分を当て嵌めようとしていた気がする。

 私は悩み、遠回りもした。出版就活を見据えて東京の大学を選んだのに、大学のマスコミ研究室とマスコミ就職支援組織に落ちた。講談社の仕事体験イベントの選考にも落ちた。「周囲と差別化しなくては」という一心で、漫画への愛よりも拙いガクチカを押し出した結果だった。

 直感と客観的事実の両方が、私に訴えかけた。

「このままじゃ、本選考も落ちるぞ」

 もしもどの出版社にも受からなかったら、私の大学生活から意味が消える気がして、冷や汗が止まらなくて。だから考えて考えて、本選考ESとにらめっこをした。そして積年の思考の果てで、ふと、気づいた。

「高校の頃に培った愛を、そのまま書けばいいんじゃね?」

 根拠はなかった。でも「いける」と思った。

 今思えば当然だ。突き抜けた個性がないなら、背伸びなんかせずに自分の漫画愛で勝負すればいい。憑き物が落ちた私は、ESに俺を込めた。少し飾ったし、武装もしたけど、正真正銘の俺を込めた。さらば虚像の私。
 
 5年前、私は絶望していた。世の高校生は青春を謳歌しているのに、どうして私は男子校の汚い野球部の部室にいるのだろうか、と。こう書き出したESは、恋焦がれた出版社へ私を導いてくれた。遠回りの末に、結局辿り着いたのは原点。また道に迷ったら、学ランを着た坊主頭の俺に会いに行こうかな。

大好きなポケモンは、発売日に買った上で就活終了まで封印していた。こういうクソ真面目さも出版社の内定者っぽくないなぁと思ったり。もちろんこれも出版社の内定者像(虚像)なんですけどね。
大学の部活動で作った新聞を面接に持参していた。本文で「出版社に入ることが学生生活の意味」みたいな書き方をしているけど、大学生活も楽しんでます!

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