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可能性を、拾い上げる

関東/四年制大学文系/グローバルビジネス志望

「あなたはどう生きてきましたか」「あなたはどう生きますか」
就活ではどうやら、そんなことを繰り返し聞かれるらしい。
それなら心配ない、私が生きた22年は厳然としてそこにあるのだからと、
私は高を括っていた。
 
「あなたはどう生きたいですか」「あなたは何をしたいですか」
講談社の問いを受けて、自分の脳みそが熱で溶けていくのを感じた。
生きるとは何か、働くとは何か、表現とは何か。
いずれの問いに対しても、私は断片的な答えしか持ち合わせていなかった。
 
たった一つ、分かっていたことがあるとすれば、全ては複雑系だということ。
生きることも、働く場所も、社会も、数多の要素が絡み合って、一つの体系を成している。
生きているうちにその全貌を俯瞰することは、一人では到底成し得ない所業だろう。
けれども、好奇心に突き動かされた一人一人が、各々の断片的な物語を持ち寄ることで、複雑系に立ち向かう知恵が、生まれてくるはずだ。
それを根底から支えるのが、出版社ではないか。講談社ではないか。
 
であるとすれば、志望部門を絞ることはひどく難しい。
海外展開も児童書も学術書も。何なら文芸も漫画も営業もライツも。
一見して全く別のジャンルに属するように思われる要素同士が、
思わぬところで繋がりあっているかもしれない。
その繋がりが、誰かの必要とする知恵に昇華されるかもしれない。
森羅万象に目を光らせて、物語の「可能性」を一番先に拾い上げることができる、そんな出版人に、私は憧れた。
 
結論、私は何も絞らなかった。すべて、自由記述のつもりで書いた。
第一志望も、実現してみたいことも、今の私に辛うじて見える可能性でしかない。
「志望以外の部門でも大丈夫?」
面接官の放つ問いは、私の持つ無限の可能性を示唆する言葉そのもの。
ESに書ききれなかった可能性が、今まさに、拾い上げられている。
どうして心躍らずにいられようか。
 
そんな私を見る彼らの表情は、心なしか穏やかだった。


最寄り駅までの道すがら出会った。泥の中に落ちていたのを誰かが見かねて拾い上げた様子。
泥より出でて泥に染まらず。うさちゃんを見るたび、背筋が伸びる思いであった。
原点回帰。自身の生を振り返る手がかりとしての語り。

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