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暇なので、似非バーテンダーが家で美味しく酒を作るコツを書いておく

私は現役のバーテンダーである。つっても週2日店を任されているだけで、似非みたいなものだ。残りはフリーのグラフィックデザイナーとライターとして活動している。つまり「どの仕事でも食えてない」のだが、涙を拭いてばかりはいられない。世の中コロナコロナで仕事もない。つまり暇である。うちの店は恵比寿にあるので、営業自粛の要請を受けて閉めた。つまりつまりいってつまらねぇマクラだが、つまり、普段は書かないような文章を書くほどに暇だということだ。実際週2日なーんにも無い日があるんだから。

自粛自粛で店が開いてないんだから、酒飲みは家で飲むしかない。暇を持て余して家で飲むことを覚えてしまった人もいるだろう。フードを供する飲食店は軒並みテイクアウトをはじめているので、料理を持ち帰ってつまみにしている人も多いはずだ。

で、家で飲んでいるとき、こう思わないだろうか。

「おんなじ酒で作ってるのに、なんだか店と味が違う」

当たり前である。自分で蕎麦を打って出汁から汁を拵え食したところ「なんだかいつも行ってる蕎麦屋と味が違うなあ」と言ってるのと同じで、バーテンダーがどんなに適当に仕事しているように見えても、酒を作るのには技術がいる。バーテンダーの3割はその技術でできている。後の7割は会話や客をさばく能力だ。バーテンダーは手すりの向こうにいる番人なのだから。

ただ、彼・彼女等は何か特殊なことをしているわけではない。ちょっとしたコツさえ覚えておけば、同じ味にはできないものの(厳密には同じ味などなく、100人居れば100種類の味がある)「ああ、けっこう美味いな、自分で作ったわりには」くらいの感想を抱くまではいけるだろう。前置きが長くなったが本題に入る。

何が違うって、氷が違う。チンカチンカかどうかが違う

思うに、バーと家で何がいちばんの違いは「氷の質」である。家庭用の冷凍庫は温度が高すぎるため、氷がしっかり締まらないし、製氷皿や製氷機で作った氷はすぐに溶ける。たとえばウイスキーのソーダ割りを作るとしよう。冷凍庫で作った氷で満たしたグラスに常温のウイスキーを45ml入れる。これだけで氷は溶ける。ウイスキーを冷やすためにステアをする。また溶ける。すでに水割りである。これにソーダでアップするのだから、「炭酸が弱くて水っぽい、ウイスキーの味もぼんやりとしたハイボール」という長ったらしいメニューが爆誕する。

なので、グラスを、酒をチンカチンカに冷やすより先にできるだけ「チンカチンカなかってぇ氷」を用意することが重要だ。では、どのような氷を用意すればよいか。

まず、意外と侮れないのがコンビニなどで販売されている板氷である。一貫を三分割したスタイルで売られている場合が多いので、サイズ的にも使いやすい。アイスピックがなくても包丁でトントンと叩けば簡単に割ることができる。あまり力を入れすぎると砕かれた氷が周囲に飛散してしまうし、表面が溶けていたりするときにやってしまうと何度叩いても氷が割れないので注意したい。ちなみにアイスピックは100均でも売っているので、それを使ってもいい。別に使いにくいことはない。

また、酒屋などで売っている「かち割り氷」も品質はそれぞれだが、家庭用冷蔵庫で作った氷より数万倍マシだ。すでに割られているので使いやすい点も魅力だろう。

で、最強は氷屋の氷である。もし近所に氷屋があり、家庭用に配送してもらえるならばそれが一番良い。少々個人的な話になるが、バーや飲食店が自粛している現在、筆者の心配事は「氷屋が潰れないか」一点である。氷屋が潰れたら、かなりの数のバーテンダーが頭を抱えるはずだ。

ともかく、手に入る範囲で構わない。できるだけ高品質な氷を用意することで、酒の味は劇的に変わる。

ソーダ割りの作り方を解説するが、長い割には簡単である

よく、動画で「美味しいハイボールの作り方」を有名人起用で紹介していたりするが「あんなモン」とは言わない。あの作成方法でだいたい正解である。ただ、細かい部分を指摘するならば

・氷はギッシリ詰めない。

・ちんたらステアしない。

・ソーダを注いだあとに混ぜない

・レモンを絞るならピールにする

などの項目が挙げられる。今、当該動画を思い出して書いたのでもっとあるかもしれないが。面倒くさいので4点にしておく。

まず、氷はグラスの7分目くらいが良い。ソーダでアップしたときに、氷の頭がちょいと出るくらいにしておくべきだ。なぜかというと、3分目の空間に香りが溜まるからである。また氷をぎっしり詰めてしまうと、飲む際に鼻などに氷が当たり、香りと味がしっかりと味わえない。

次に「ちんたらステアしない」だが、ゆっくりしている間に氷は刻一刻と溶けていく。なんなら「ステアしないほうが良い」まである。事実、ステアなしで常温のウイスキーを使ってアホみたいに美味いソーダ割りを作成できるバーテンダーは実在する。

そして、ソーダを注いだならばバースプーンやマドラーでぐるぐると混ぜてはいけない。コーラのペットボトルを振ってるようなもんで、炭酸が飛ぶからである。一番下にある氷を軽く持ち上げてあげるくらいで良い。これだけで混ざる。というか、比重を持ち出すまでもなく、ソーダを注いだ段階で結構混ざってる。もし、濃いめが好きという方は、最後に数mlウイスキーをフロートさせてあげると良い。

最後に、レモンを絞るならピールくらいにしておくほうが良い。レモンの皮を包丁で切って、からあげにレモンを絞るような勢いでグラスの周囲に香りをつける。これだけでレモン感はあるし、味も濁らない。

最後といいつつもうひとつ書くが、ソーダを氷に当てないのは正解である。直に氷に当てると炭酸が飛ぶ。グラスを這わせるようにゆっくりと注ぐとよい。氷が水っぽくなってしまった2杯目でも、それなりに美味しく作れるようになる。

さらにもうひとつ書くが、分量を間違わないことだ。氷とともに重要なのが計量で、多くの場合、分量を間違うことで酒が薄い・濃い・ソーダ感がない・ソーダ感が強すぎる・水っぽいなどの何とも言えない感想が浮かぶこととなる。メジャーカップを用意すべきとまでは言わないが、何らかの手段での計量を推奨する。

店によって違いはあるが、30mlないし45mlの酒に対して、だいたいウィルキンソンソーダの瓶であれば2杯、ジントニックなどでシュウェップスを使う場合は3杯を目安にするといい。このあたりは好みもあるので、適宜調整して欲しい。というか、好きに調整できるのが家飲みの醍醐味だ。

で、分量を簡単に確認するために、ソーダは瓶で頼んだほうがいい。未だ配送を続けている酒屋への応援にもなるだろう。次に頼むときには瓶を持って帰ってくれるところもあるので、ゴミも出ない。ソーダならウィルキンソンソーダ、トニックならばシュウェップストニックウォーター、少し甘めが良いのならばウィルキンソントニック、クセが欲しいならフィーバーツリーの青が最近美味い。

氷がないなら、氷を使わなければいいじゃない。もうひとつのハイボールの作り方

これを書くと店がバレそうな気もするのだが、氷を使わないでハイボールを作る手もある。氷がなければ薄まることがないし、最後まで同じ味を楽しむことができる。作り方は簡単で

・グラスとウイスキー(角でじゅうぶん。むしろ角が良い。スコッチならブレンデッド、アイリッシュもまぁまぁ、バーボンは試したことがないので判定不可)を冷凍庫でチンカチンカに冷やしておく。

・チンカチンカに冷えたグラスに、チンカチンカに冷えたウイスキーを45ml注ぐ。

・ソーダを一気に注ぐ(念のために書くが、チンカチンカに冷やしておく)。逆さまにしてドボドボと注いでしまって構わない。

・レモンでピールをする。

これだけである。正直、ソーダ割りよりも簡単で、常に同じ味が出せる。ソーダの分量はウィルキンソンソーダの190mlを1本まるまる使う。アルコール度数はビールくらいになるので飲みやすく、どんな料理にも合う(角をベースにした場合とする)。

グラスによってかなり味が変わってくるとは思うが、手軽にできるので試してみるといい。失敗するかもしれないが、むしろ試行錯誤するのが酒の楽しみだと思うので文句は言わないで欲しい。

ソーダ割りを覚えれば、ジントニックなどにも応用できる。とにかく計量してブチ込め

ソーダ割りの作り方を覚えてしまえば、酒+炭酸(またはジュースなど)系のカクテルにはすべて応用できる。もう、身も蓋もないことを書くならば、ベースの酒を35mlないし45ml入れ、ソーダやトニック、各種ジュースなどをブチ込めばだいたい美味い。

定番モノで言えばソルクバーノのようなラム45ml→グレープフルーツジュース適量→トニックでアップといった「ちょい足し」みたいなカクテルもあるが、それとて派生みたいなもんである。自分であれこれ作ってみるのも楽しいだろう。家でやる以上はそこにルールは無い。菊正宗ポカリ割だって美味いのだ。

で、応用編として、王道中の王道でもあるジン・トニックについて少々記しておく。ちなみに、家でやたら美味いジン・トニックが作れたとしても、異性にはまったくモテない。

まず、ジン・トニックのベースを何にするかであるが、そんなもの知るか。好きな酒を好きなように使うのが一番良い。金とってるわけじゃないんだから。とはいえ、安く購入でき、美味いものを挙げるならば。

・タンカレー
・タンカレーNo10
・ゴードン
・ビーフィーター(赤)

あたりが定番だろう。

タンカレーは価格に対してのクオリティが凄まじい。No10も同様である。ゴードンは、タンカレーよりもタフな味わいが欲しい人に向いている。もしゴードンを使ってジン・トニックを作るならば、ライムは絞らずに輪切りにして添えることをおすすめする。

ビーフィーターは上記3つと違い、労務者の味がする。コンビニなどで手軽に購入できるのでナメられがちだが、焼酎好きな人にこそ推奨したい。味を複雑にしたいならアンゴスチュラ・ビターズを2ダッシュくらいすれば格段に味が上がる。

今や「美味いジン」の定番であるモンキーや、新作もめちゃくちゃ美味い辰巳も捨てがたいが、普段遣いするならば上記の品で十分すぎるだろう。というか、普通にバーで使ってるので。とまれ、クラフトジンは最近凄まじい量が登場しているので、飲み比べてみても面白いと思う。原価で買えばバーで飲む3分の1の値段で済む。養命酒のジンなんて爪楊枝の味がするぞ。

で、作り方だが、まずグラスにライムを絞る。ライムはそのまま底に落としてもいいし、捨ててしまっても構わない。次にジンを30〜45mlほど注ぐ。氷を入れる前にライム・ジンをグラスに入れる理由としては、ライムとジンを馴染ませるのと、氷にライムを絞ると香りが飛んでしまうような気がするからだ。本当に飛んでいるかは知らん。おまじないみたいなもんだが、氷の前に入れたほうが絶対に美味い。

あと、氷の上にライムを乗せると単純に飲みにくいといった理由もある。また鼻の近くにライムが颯爽と登場してくるので、ジンの香りが損なわれる。なにせカクテル名は「ジン・トニック」である。ライムのラの字も入っていないのだ。

閑話休題。ライムとジンを投入した後、氷を入れ、ソーダ割りと同じ要領でトニックを注げば完成だ。ここでも少しだけ氷を持ち上げてあげると良い。それだけで混ざる。

ほかにもいろいろあるんですが、正気に戻ったので撤退します

以上、長々と説明したものの、結局のところ「酒を炭酸で割る方法」しか書いていないことに今気付いた。ほかにも

・ロックで美味しく飲む方法

・ソーダを使わないカクテル

・カクテルを美味しくするにはどうすればよいか、そんなことは自分で考えろ

・家で作れるアホみたいに美味い漬け酒でアル中まっしぐら

・数時間で強制的に作るサングリア

など、以下100項目くらいあるのだが、今回はこのくらいにしておく。なぜなら今から酒を飲むからである。皆さんの暇つぶしの一助になれば幸いです。

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