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上場までの道のりを18のポイントでまとめてみました

私たちの会社・識学は、2015年3月設立です。

おかげさまでそれから4年後の2019年2月22日、東証マザーズに上場させていただきました。

なぜ設立から4年以内で上場が達成できたのか? 今回はそのポイントについてお話ししてみたいと思います。

ポイントその1:「経理・総務責任者」をすぐに採用した

立ち上がりがスムーズに行った要因のひとつに「管理側の責任者」をすぐに採用したことがあります。

管理側というのはいわゆるバックヤード。総務、経理、採用、人事といった部門です。

創業時というのは、請求書の発行や銀行まわりの手続きなどをわりと全部社長がやってしまいます。それで「忙しい、忙しい」と言ってるのですが、もうそれをやってる時点でアウト。なぜならその時間はお金を稼げていないからです。

「郵便局に行って、銀行に行って、法務局に行って……」と忙しくしていると安心感を抱きがちです。体を動かしているだけでなぜか安心する。でも、本来は稼げていないことに「恐怖」を感じなければいけないわけです。

管理部門の採用はどうしても後回しになるのですが、そうすると社長が「お金を稼がない作業」に時間をとられてしまう。

ここに気付いていないスタートアップの経営者は案外多くいます。

ポイントその2:利益を「採用」に注ぎ込んだ

2つめは「利益を採用に注ぎ込んだ」ことです。

「ビズリーチ」の契約は、創業して3ヶ月後くらいにはスタートしました。3人めからはビズリーチで見つけた社員です。そのメンバーたちは、今やうちの中枢です。

効果が出るまで時間はかかりますが、その効果の大きさは計り知れないのが「人材採用」。そこに早めに利益を注ぎ込んだのもよかったです。

ちなみにビズリーチを導入して一人目に採用した社員は大失敗しています。いわゆる「経歴詐称」をしている社員を採用してしまった。私が直接採用したのですが、見抜けませんでした。

採用した社員は案の定、あまり戦力になりませんでした。副社長には「部下の不出来はあなたのせいだから、どうすれば戦力になるかを考えて実行しなさい」と伝えました。私が採用したにもかかわらず、です(笑)。副社長は、必死で考えてマニュアルづくりに力を入れました。

どうやって社員を戦力化するか必死に考えることで、結果的に早期に「マニュアル化」して、(識学の)講師を量産できる体制がつくれました。今振り返れば、ある意味、その経歴詐称の人のおかげかもしれません。

ポイントその3:給料を下げて入ってきてもらった

採用で大切にしていたルールは2つです。

①こちらのルールに合わせてもらう
どんなに入社してほしい人でも、こちらのルールに従ってもらうようにしていました。ここがダメならあきらめました。

②給料を下げて入ってきてもらう
優秀な人ほど「給料は上がる」と思って転職してきますが、私たちはだいたい「2割減」で提示しています。他の会社だと「1割増」くらいで提示するでしょう。だから30%くらい開くわけです。ただそれでも入ってきてくれる人を採用するのです。

もちろん低くするだけではなくて「どうすれば上がるのか」という仕組みも提供します。きちんと業績を上げれば1年とか1年半後にはその給料を追い抜くことができる。

その仕組みもあわせて用意するので、当初は下がるかもしれないけれどちゃんと成果を上げれば上がります。そこを理解した人間に入ってきてもらうわけです。

なぜこんなことをしているかというと、給料を上げてしまうとその時点で利益が確定してしまうからです。それは本来おかしいことですよね。いわば「転職自体が利益」になってしまう。その時点では何も会社に貢献しているわけではないし、変な勘違いさせないためにも、給料は下げて入ってきてもらうようにしています。

私が採用した人間に大手人材会社の課長職だった人がいます。まだ5人しかいない会社なのに「どうしても入れてくれ」と言ってくる。「年収400万代まで下げるけどそれでもいいなら」ということで、1年間は期待しないで採用することにしました。すると彼はコツコツ努力して二期目のエースになり、年収は3倍以上になりました。

「鳴り物入り入社」が危険な理由

ちなみに「鳴り物入り」で高額な給料で入ってきた人がものすごく活躍することは難しい、と私たちは考えます。なぜかというと、どうしても社長が「入ってきてもらう」というスタンスになってしまうからです。評価者が逆転してしまう危険性がある。

しかも「鳴り物入り」なので、社長がその人に求めることを明確に設定しなかったりする。「自由に暴れてほしい」というように曖昧に目標設定をしてしまう。だから、うまくいかないわけです。

お客さんと話していても「すごい人が入ってくるんですよ」と言われて「何をさせるんですか?」と聞くと「うーん、経営企画とか?」という答えが返ってきたりする。これでは絶対うまくいきません。「なんですか? 経営企画って」と言うと黙ってしまいます。

ポイントその4:ライバルを設定した

短期間で成長するためには、自分たちよりもはるかに大きい会社を「ライバル」として世の中に認知してもらう必要があると考えました。ライバルにさえなれればシェアは「5対5」に近づいていくという計算があったわけです。

ターゲットとしたのは「リンクアンドモチベーション」さんでした。

そこで「モチベーションを与えるのは間違っている」というメッセージを前面に出すなどして、プロモーションを展開していきました。するとあるときから識学のことを批判してもらえるようになった。狙いどおりでした。「いよいよやり始めたか」と。これで一気に差が縮まるな、と思いました。

リンクアンドモチベーションさんとはまだ開きがありますが、比較対象になれたということは「どっちかを選択する」ということ。ライバルとして比較されるようになれば「勝ち」だと思っています。

ポイントその5:すぐに評価制度を作った

創業して半年くらいで、評価制度を作りました。かんたんに言えば、

・結果のみで評価する
・それによって給料が上下する
・半年に一回給料が変わる

ということです。

ベンチャーというのは、社員が10人とか30人くらいになるまで「なあなあ」でやりがちです。そこではじめて「仕組みをつくらないと回らない」ということに気づく。私は、その仕組み作りをいち早くやったわけです。

新米社長として「社員に給料の変更を伝える」というのは、難易度が高いもの。しかしすべて仕組みで決定されるようになってからラクになりました。今も改善しながら、同じ仕組みで動いています。

ポイントその6:目指す「旗」を掲げた

創業して10ヶ月目。まだ社員は10人未満でしたが、私はこう宣言しました。

「四期目に売上12億で上場する」

実際は12.5億で四期目に上場したので、ほぼこのときの宣言どおりになったわけです。

トップとして初めて大きな旗を掲げた日でした。

上場することにはこだわりがありました。なぜかというと「識学」と言っても別に大学の論文でもないし、よくわからない。やはり上場というのが「知名度」と「信用度」を最速で勝ち取る手段だと考えたわけです。

みんなが目指す「旗」を掲げること。そしてその道筋を作ること。それが社長である私の仕事です。

ポイントその7:早い段階で「社長室」をつくった

最初のオフィスは、渋谷の宮益坂上にあるシェアオフィスでした。

覚えてるのが、そのシェアオフィスの人に「2年契約」を打診されたんです。「2年契約だと何十パーセントオフになりますよ」と言われたのですが、私は「いや大丈夫です。早めに出ると思うんで」と言って1年契約にしてもらいました。

結局、11カ月目にオフィスを移転することになりました。もしそこで2年契約にしていたら、解約料などで無駄なお金を払っていたかもしれません。

次のオフィスは渋谷の並木橋の近く。少し雨漏りがするオフィスでした。

ポイントは「社長室」を作ったことです。これで幹部以外の社員との直接の交流はほぼなくなりました。

これにも理由があります。それは「管理職」をきちんと機能させるためです。社長が直接現場に口を出してしまうと、幹部、管理職の立場が弱くなります。社長が社員と物理的に触れないようにすることが有効なのです。

社長室をつくった時点では、社員はまだ10名もいませんでした。それでも、早い段階で社長と社員を離したことはよかったと思っています。

ポイントその8:あえて素人集団のまま進んだ

二期目。

「上場する」と宣言したものの、社内には上場経験者がゼロ。何が必要なのかもわかりません。

まわりに聞いてみると、どうやら「監査法人」と契約してから3年経たないと上場できないらしい。あわてて、期の途中で監査法人と契約しました。

多くの会社は上場するためにコンサルに入ってもらったり、上場経験者を入社させたりするといいます。ただ「やることをちゃんとやれば上場できるってことだな」と判断し、このまま素人集団で上場を目指すことを決断しました。

私たちは「組織運営のプロ」なので高速にPDCAを回すことができます。上場のように「正解」があるものに関しては、素人集団でも対応が可能なはず。結果的に上場も素人だけで実現しましたし、Webマーケ、採用、広報も、立ち上げ責任者はその道の素人でした。

組織さえちゃんと動けば、たいていのことは何とかなるものです。

ポイントその9:「基礎運動量」を増やした

つねに高い成長率を自らに課してきたので、たびたびピンチの局面がやってきました。

そこでやったことは「とにかく基礎運動量を増やす」ということ。商談数を増やすことに施策と管理を集中したのです。

営業は「確率論」なので、母数を増やすことが最重要だと考え、とにかく動くようにしていました。

失敗はたくさんしてきましたが、特に「アウトバウンド」の電話営業はほぼ効果がありませんでした。うちの商材との相性が悪いにもかかわらず「アポがとれるから」ということで一千万円以上使いました。しかし受注はたったの一件。

この失敗からWebマーケを強化して、今は月間2千件を超えるリードの獲得ができるようになりました。

ポイントその10:責任者に「採用権限」を与えた

社員が10名を超えたくらいで、私が最終面接にかかわるのはやめました。各責任者に採用権限を与えたのです。

責任者のほうがいい採用ができると思ったのと、私に採用権限があるとそれが彼らの「言い訳」になると思ったからです。つまり、うまくいかなかったときの「免責」になってしまう。

「部下を採用したのは俺じゃないから」「社長が勝手に採用したから」という言い訳をなくす。そのためにも採用まで責任をもってやってもらうようにしました。

「社長の仕事は採用だ」と言う人もいますが、それは違うと私は考えます。「入りたい」と思う会社を作ることが社長の仕事です。

採用のスタンスは「人の持つ可能性には最大限期待するが、個人には依存しない」ということ。社員は素晴らしいメンバーが集まっているし、自慢の社員です。しかし誰かに依存するような組織にはしません。

ポイントその11:「規律」をとにかく重んじた

ずっと順調だったからこそ、規律をとにかく重んじました。

部下にGoogleカレンダーをちゃんと入力させられない課長を降格させました。セミナーにヨレヨレのスーツで来た人間を即日営業から外しました。

罰をしっかり与えることで組織全体の規律をキープしたのです。ひとつの罰を躊躇なく与えることで、社員全体を救うことになります。

ポイントその12:出資を受けた

次に証券会社の選定に入りました。

とはいえ、創業2年の研修会社に興味を持ってくれる証券会社は、ほぼありませんでした。

みずほとSBIと日興証券は、いちおう話を聞いてくれました。野村證券、大和証券にいたっては呼んでも来てはくれませんでした。

しかし、彼らの態度が急変した瞬間がありました。

K&Pというファンドからの出資が決まったのです。ここが出資すると、かなり高い確率で上場すると言われていました。それを証券会社の人もよく知っていました。

「K&Pさんから出資が決まりました」と言うと、日興証券から「ぜひうちにやらせて下さい」と返事がありました。上場経験のあるパートナーを仲間にする戦略が早速、功を奏したわけです。

こうして主幹事が決まりました。

ポイントその13:「品質管理責任者」を設けた

上場準備が本格化する二期目の終わりに、いま思えば「最高の人事」をしました。営業のエースを異動させて、社長直下の「品質管理責任者」にしたのです。

副社長は絶対に選択しない人事でした。目の前の売上の責任を負っているからです。しかし、経営者である私の権限で強行しました。これによって、高いレベルでの講師の量産が可能な体制ができたのです。

三期目は二期目の3億2千万から7億5千万に急成長しました。三期目の記憶はほとんどありません。「ただ伸ばすだけ」というシンプルな状態になってたからこそ記憶がないのです。これがいちばん伸びる状態です。

組織はシンプルになってる状態がいちばん強い。複雑な社会の中で、シンプルな設定に変換するのがリーダーの重要な仕事です。

ポイントその14:総額8千万円のタクシー広告を展開した

四期目はさらに売上を5億積む必要がありました。

二期目くらいからフェイスブック広告は回していましたが「その延長線上に5億はないな」と思いました。ちょっと角度を変えないといけない。

広告宣伝費を追加しないといけないのは明らかでしたが、どうすればいいかわからない。PR会社のベクトルさんに提案を依頼すると、初回の提案に社長の西江さんが来られました。

提案されたのは、要潤さんを起用した総額8千万円のタクシー広告。確信があったわけではないですが、即決しました。なぜか不思議とビビらず決めることができました。

ポイントその15:全国に展開していった

大阪支店がうまくいっていたので、福岡支店も大丈夫だろうと踏んでいました。そこで私が出張ベースで通いながら顧客基盤を作ってから出す形式にしました。

しかし出身地である大阪とは違い、大失敗。社員を異動させて地域に根差した体制を目指すことにしました。すると苦戦してたのがウソのようにスムーズに立ち上がったのです。

拠点の開設は中途半端なことをしてはいけないと学びました。

ポイントその16:「引き抜き」のピンチを乗り越えた

上場申請をする勝負の四期目がスタート。

そんな折、顧客からの引き抜きに合いました。別々の会社から2名。予算の一割以上を担っていた戦力を失うところからのスタートでした。1人年間で5〜6千万ほどを稼いでいた人間が2人引き抜きにあった。12億分の1億は大きな打撃です。

最初は引き抜いてきた会社を憎みましたが、それは無駄だと気づきました。「この会社にいるメリット」を自分が用意できなかったことが要因だ、と考えるようにしました。

引き抜きによる戦力ダウンもありましたが、それ以上に4期目の第1クオーターは大苦戦しました。売上げがぜんぜん伸びない。大ピンチです。

そこで効率が悪くてもいいので、全国でセミナーを大量に実施して「基礎運動量」を増やすよう指示しました。

一方で自分もトップセールスで売りまくりました。思い切った提案もしました。月額数百万円、半年で数千万円で私が顧問に入る契約です。するとまさかの快諾。結果、4ヶ月後には数億円だったお客さまの月の売上を十数億と1.5倍以上に引き上げることができました。

顧問料は減額しましたが、今でもそのお客さまとは契約が続いています。足を向けて寝られません……。

思いどおりにいかないときは、理念に立ち返るようにしています。「識学を広めることで人々の可能性を最大化する」。これを必ず実現するのだから、いま目の前で起きている不調なんてちょっとした「誤差」に過ぎない。前に進むための材料に過ぎない、と。これで心を落ち着かせていました。

もがき続け、徐々に回復し始めていたときに神風が吹きました。タクシー広告の大ヒットです。タクシー広告で完全に流れが変わりました。

ただ、タクシー広告は打ち出の小槌ではありません。増えるのはあくまでも「リード」。勝手に売上が増えるものではないので注意が必要です。

リードから獲得の組織体制が整っていないうちにやると、さばけずに売上は増えていきません。このミスをした会社は案外多いのではないでしょうか。

ポイントその17:カイゼン速度が異常に早かった

上場審査では「残業時間」が問題になることが少なくありません。

うちの場合、

・明確なルールによる運営→ロスタイムが少ない
・仕事ぶりを評価しない→長く働いてるアピールは無駄

というわけで、残業はもともと少なく、問題になりませんでした。むしろ、審査が佳境に入ってるとき20時に誰も会社にいなくて、証券会社の担当に驚かれたほどです。

審査の過程では「識学」であることがプラスに働く場面が多くありました。

もともとルールに従うことにアレルギーのない組織なので、証券や東証からの新たなルールにも即座に対応できました。また、組織が機能的に動くようになっているので、指摘事項へのカイゼンも素早くできました。

私たちの会社では、個々がそれぞれの責任・役割に集中します。よって、営業責任者である副社長は、上場にまったく無関心。何がどこまで進んでるのかすらまったく知らなかったほどです。最後まで「上場できるかできないか」より「私と約束した予算を達成できるかどうか」しか興味がないようでした。これも我々の強さでしょう。

上場審査は「正解のあるテスト」だと思って進めていました。しかし、先にチャレンジしてる人たちが予期せぬ理由で止まったのを何度も見ました。

最終盤は、そういった「見えない敵」との戦いでした。緊張のためか5週間で4回点滴をうちました。胃腸炎と蕁麻疹が交互にやってきました。しかも、すべて週末。なんともわかりやすい身体です。

ポイントその18:情報漏えいの事故を乗り越えた

東証の3回目の面談を順調に終え、残すは最終の面談を残すだけとなった日、事件は起きました。

私たちが使っているWebサービスで個人情報の漏洩が発覚したのです。このタイミングで強烈な「もらい事故」がやってきたのです。

あのときは、我ながら達観していました。「やるべきことだけやろう。それでダメならまだ上場するなということだろう」と。

結局、情報漏洩事故は事なきを得ました。

・被害可能性が限定的で、特定されていること
・外部サービスの事故で、うちの責任は小さい

などもありますが、いちばんは

・すべてを隠蔽せずに開示し、即座に対応したこと

を評価いただいたことでしょう。トラブル発生時につねづね大切にしてきたことでした。

上場は「よろこび」というより「安堵」

2019年2月22日、東証マザーズ上場――。

その日はあわただしく一日が過ぎて行きました。

上場審査は「何で落とされるかわからない」という恐怖がずっとあります。だから「とにかく早く無事に終わってくれ」という思いが続いていました。

そのストレスがあったからなのか、辛かったからなのか、上場の日に全社員で食事してみんなに向けてあいさつをしたとき、ちょっと涙が出そうになりました。我慢しましたが。

ただ、そのあともずっとクオーターごとに決算は続きます。よって「上がった」といった感覚は、ほとんどありませんでした。



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