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04: 難なく育った子を... むかえる困難

加藤隆弘(かとう・ たかひろ)
九州大学大学院医学研究院精神病態医学 准教授
(分子細胞研究室・グループ長)
九州大学病院 気分障害ひきこもり外来・主宰
医学博士・精神分析家
『みんなのひきこもり』(木立の文庫, 2020年)『メンタルヘルスファーストエイド――こころの応急処置マニュアルとその活用』(編著: 創元社, 2021年)、『北山理論の発見』(共著: 創元社, 2015年)


 私も1970年代に生まれました。当時を振り返ると、モノに溢れていました。欲しいものはなんでも手に入る時代でした。ウィキペディアで調べてみると、雑誌『モノ・マガジン』が創刊されたのが1982年なのですね。
 私が臨床で出会うひきこもり青年や「新型/現代型うつ」と呼ばれるような患者さんに、幼少期の体験を尋ねると、『子どもの頃、特に困ったことは無かった』と言う方が少なくありません。

ここまで前回

 《お父さん、お母さんはどんな人?》と問いかけると、
『ん…? お父さんは、ほとんど家にいなかったから知らない。わかんない。お母さんは…ん…? まあ、勉強には厳しかったけど、欲しいものは買ってくれた』と、話してくれます。
 家族面談の折、両親に《息子さん、娘さんは、幼い頃どうでしたか? どんな子育てをしてきましたか?》と尋ねると、こういう応答がよくあります。

『精一杯、育ててきました。うちの子が学校で困らないように、いじめられないように、みんなが持っているものは買い与えていました。将来、困らないように、ちゃんといい大学に行けるように、塾とか習い事とかにも通わせました…。とても、いい子でした。あんなにしてあげたのにどうして…?』

 これが、よくあるパターンなのです。こうしたレスポンスだけからみると、子どもたちは幼少期、モノに困ることなく「難なく」よい子として生きてきたように見えます。しかし、本当にそうなのでしょうか? もし、本当にそうだとしたら、「モノ時代」のなかで難なく生きてきた(ようにみえている)ということこそが、ひきこもりや新型/現代型うつが大量発生してしまった一因かもしれない、とさえ私は考えることがあります。
 団塊世代の親たちの、その親たちは、当然ですが、戦渦を生きてきた方々です。朝ドラでときどき放映されますが、当時は、私たち現代人には想像できないくらい「モノがない時代」だったようです。それは、逃れたくても“逃げようのない”世界だったのかもしません。

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