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03: 子どもの頃、特に困ったことは無かった

加藤隆弘(かとう・ たかひろ)
九州大学大学院医学研究院精神病態医学 准教授
(分子細胞研究室・グループ長)
九州大学病院 気分障害ひきこもり外来・主宰
医学博士・精神分析家
『みんなのひきこもり』(木立の文庫, 2020年)『メンタルヘルスファーストエイド――こころの応急処置マニュアルとその活用』(編著: 創元社, 2021年)、『北山理論の発見』(共著: 創元社, 2015年)

 《新型/現代型うつ》と聞くと、どうしても「好きなことは積極的に取り組むが、嫌なことがあるとすぐに“逃げる”人」というイメージが浮かびます。
 こうした“逃げる”生き方の途上で、外の世界で「好きなこと」ができなくなり、自分だけの世界に閉じこもり、長期化してしまう。これが、年単位で続く《社会的ひきこもり》の始まりなのかもしれません。

 《社会的ひきこもり》も《新型/現代型うつ》も、1990年代後半から今世紀初頭にかけて台頭してきたようです。なぜ、この時期だったのでしょう? 私は、この時期の「バブル崩壊」による経済危機や社会構造の変化が無視できないと思っています。
 戦後に生まれ高度経済成長の60年代70年代に結婚し、モーレツ社員として右肩上がりの会社のために長年尽くしてきた「団塊」世代の人々にとって、企業神話の崩壊は、彼らの寄る辺の喪失を招きました。中高年の自殺が急増したのも、この時期です。
 樽味さんは〈ディスチミア親和型うつ〉の好発年齢を1970年代以降に生まれた者としています。終身雇用・正社員といった生涯の安心が保証されるライフプランが描きづらくなった時代、つまり「団塊世代の親をもつ子供が、青年期を迎える時期」に大量発生したのが、ひきこもり、そして新型/現代型うつなのです。

 私も1970年代に生まれました。当時を振り返ると、モノに溢れていました。欲しいものはなんでも手に入る時代でした。ウィキペディアで調べてみると、雑誌『モノ・マガジン』が創刊されたのが1982年なのですね。
 私が臨床で出会うひきこもり青年や「新型/現代型うつ」と呼ばれるような患者さんに、幼少期の体験を尋ねると、『子どもの頃、特に困ったことは無かった』と言う方が少なくありません。

つづく


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