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05: 春よ来い? 冬眠していたい...?

加藤隆弘(かとう・ たかひろ)
九州大学大学院医学研究院精神病態医学 准教授
(分子細胞研究室・グループ長)
九州大学病院 気分障害ひきこもり外来・主宰
医学博士・精神分析家

『みんなのひきこもり』(木立の文庫, 2020年)
『メンタルヘルスファーストエイド』(編著: 創元社, 2021年)
『北山理論の発見』(共著: 創元社, 2015年)


 

――2022年4月2日: 土曜――

 

今週、福岡は桜が満開でした。「今年の桜はいつの間にか到来した」というのが私の主観的体験です。例年であれば「はやく桜が咲かないかな~」と春の到来を待ち望むのですが、何故かこの冬は「待ち望む」気持が、こころのなかに意識されなかったのです。

 

他責的な私はこんな風に考えたりしました――「今年はコロナ禍で蔓延防止のために、報道機関はあえて桜の報道を控えたのだろう」と。実際にはテレビを観ない私なので、私の仮説は単なる私の妄想かもしれません。

もう少し内省モードになった私は、「最近、締切に追われていて桜のことなど考える余裕がなかったなあ」と、もの思います。冬の寒さ以上に重く私のこころにのしかかっている「締切」から「のがれたい・逃げたい」という内なる声をキャッチしたのです。

この“もの想い”“気づき”があったからこそ、ようやく重い腰をあげて、このエッセイの執筆にとりかかることができたのです。数ヵ月も冬眠していて、読者のみなさんには申し訳なく思っていました。

 

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蕾(つぼみ)ふくらむ時

 

さて、桜をめぐる私の頭のなかの対話を、どうして、このエッセイの冒頭に記したのでしょう。何を伝えたかったのでしょうか。

それは、「“逃げる”というのは、じつに主観的な体験だ」ということです。「春を待ち望む」というポジティブな響きを伴う気持というのは、「寒い冬からのがれたい・逃げたい」という(若干の)ネガティブにも響く気持と裏腹なのです。

 

私自身は勝手に「連載を待ち望んでいる人のために書かなくては!」と追い詰められた心境にいたのです。これは単なる思い込みかもしれないのですが、「待っている読者の期待にこたえねば!」みたいな声が私のこころに入ってくると、「逃げたい」という気持が発動されるわけです。逆に、「だれも私のエッセイなんで待ち望んでいないから、気楽に書けばいいんだよ!」という声が到来することで、私はようやく動けるようになったのでした。

 

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さくら見物に!?

 

春は卒業と入学のシーズンですね。2022年4月から18歳が成人の年となりました。「早く大人になりたい!」と、未来に夢と希望を抱く子ども達にとっても、大人の世界が怖くてまだまだ大人になりたくない子ども達にとっても、大きなインパクトを与える法律改正がなされたのです。

昨日まで子どもとしての心持ちで生きてきた18歳の若者にとって、今年の桜は特別な桜になったのではないかと思いを馳せています。「え、まだまだ先だと思っていたのに、もう桜咲いたの?!」という私の気持とも若干シンクロしています。

 

成人になる春を待ちわびていた18歳だけでなく、「大人の世界に入りたくない・逃げたい」という気持を抱いている18歳にも、なんらかのエールを送りたいなと思っています。


「大人になるってどうなること? 人間は大変ね!」

 

 

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