2024年上半期は、ジェネラリスト向け医学書大豊作でした!
2024年、上半期。
3月から5月にかけて、ジェネラリスト向けの医学書が大豊作の季節でした。
医学書好き専攻医の筆者にとっては、嬉しい悲鳴をあげながら、書籍に費やした金額から目を背けたくなることもしばしば・・・。
それでも、良書は良書、それも大豊作なのはワクワクするものです。
ちょっと時間はかかりましたが、2024年上半期に発売されたジェネラリスト向けの医学書7冊を読んでみて、ぜひおすすめしたいポイントをこのnoteにまとめました。
気になっている本があれば、ぜひご参考に!
<注意>
純然たる個人のおすすめという趣旨での投稿であり、献本を含め、開示すべきCOIはありません。
<診断編>
ジェネラリストのための内科診断リファレンス 第2版
⭐️日本におけるジェネラリスト向けEBM診断学書の最高峰!
⭐️診断学におけるbackground knowledgeがこの一冊に!
発売日:2024年4月8日
監修:酒見英太、著:上田剛士
ジャンル:診断
対象:臨床推論に興味のある医学生から、ベテラン内科医まで
こんな時に:
・診断に悩んだ時や、診断の際に見落としを無くしたい時
・どの所見がどのくらい診断に役立つか知りたい時
改訂ポイント:
・エビデンス最新化
・全編フルカラー化
・教育リソースのQRコード掲載
・前版からの追加項目⇨多数
まずその厚さに圧倒され、次に帯の文言に圧倒され、そしてフルカラーかつ進化した中身に圧倒されます。なぜなら、症候・疾患別に、診断に有用な病歴や所見の感度・特異度・尤度比が網羅されているからです。もちろん、ベテラン総合診療医による診断ポイントも、エビデンスに基づき豊富に記載されています。また、本書のQRコードを読み込めば、信頼できる教育リソース(動画など)にすぐアクセスできるという充実ぶり。眺めているだけでもかなり勉強になりますし、凄く楽しいとさえ思えます。その守備範囲は、ジェネラリストが対応する整形外科、皮膚科、耳鼻科、産婦人科領域にまで及び、類書の追随を許しません。
これをお一人で書き上げたなんて、もう凄すぎます。ジェネラリスト人生の中で、大切に読んでいきたい名著、と呼んでも過言ではなさそうです。ジェネラリストとしての知的好奇心を、これでもかと刺激する一冊です。
NEJM Clinical Problem-Solving Taroの“別解”
⭐️トップジャーナルケース×日本のトップ診断医による最強コラボ!
発売日:2024年4月15日
著者:志水太郎
ジャンル:診断
対象:臨床推論に興味のある医学生から、ベテラン内科医まで
こんな時に:診断力をブラッシュアップしたい時
ポイント:
・「診断戦略」で学んだStrategyの実践に最適
・QRコードで、元のケース記事に飛べる
・明日からすぐに使える診断Clinical Pearlも豊富
”The New England Journal of Medicine(NEJM)”は、医師なら知らない者はまずいないであろう、世界で最も権威ある医学ジャーナル。その中でも屈指の人気のコンテンツ”Clinical Problem Solving(CPS)”は、診療過程が段階的に提示され、臨床医的側面で診断に迫る、まさにリアルドクターG。「診断戦略」でお馴染みの総合診療医・志水太郎先生が、NEJMのCPSを独自の思考プロセスで解く解説書が本書。実は筆者は志水先生率いる獨協医科大学総合診療科を見学したことがあるのですが、朝からこのNEJMのCPSで朝カンファをされていて、ものすごい教育体制だと思ったのを覚えています。NEJMのケースを自分で解くのだけでも勉強になりますが、日本の診断学のトップをいく志水先生の臨床医目線の解説と随所に収められたClinical Pearlにより、実践力が飛躍的に上がりそうな一冊となっています。ちなみに、医学書院による「診断戦略」と、南江堂による「NEJM Clinical Problem-Solving Taroの“別解”」、出版社の垣根を超えて相似的な装丁。「赤い診断戦略と、緑のTaroの”別解”」、診断学を勉強するのにマストな2冊と言えそうです。
出典:The New England Journal of Medicine 日本国内版ホームページ
<病棟診療編>
ホスピタリストのための内科診療フローチャート 第3版
⭐️日本におけるジェネラリスト向け内科疾患マニュアルの最高峰!
⭐️ホスピタリストによる標準マネジメントがフローチャートでわかる!
発売日:2024年3月16日
監修:上田剛士、著:高岸勝繁
ジャンル:病棟診療(診断から治療まで)
対象:病棟診療に携わる研修医から、ベテラン内科医まで
こんな時に:内科疾患の標準的なマネジメントを知りたい時
改訂ポイント:
・エビデンス最新化
・前版からの追加項目⇨「抗凝固薬の使用法」(心血管)、「CTにおける肺結節の評価、フォロー」(呼吸器)、「一過性脳虚血発作、軽症脳梗塞」(神経)、「全身性のMGCS」(血液)など
ベテランホスピタリストの思考過程が、フローチャートと豊富な図式によって学べる一冊です。フローチャートに対応している番号の本文記載を読めば、エビデンスに基づいた詳細なマネジメントを学ぶことができるように構成されています。循環器ならば本態性高血圧症から心不全まで、代謝・内分泌では入院患者の血糖コントロールから高血糖緊急症はもちろん、腎・電解質では低Na血症から急性腎障害に至るまで、臓器別専門医でなくても内科医として求められる診療知識が詰まっています。ホスピタリストの仕事である、よく診る内科疾患の診断から治療までが網羅的にまとまっているので、まさに病棟診療におけるゴールデンマニュアル的存在。出会う疾患ごとにフローチャートと本文を読み込めば、自信を持って内科診療ができそうです。何より、厚みは2版とほぼ変わらないのに、3版では約20%増頁・合計約1100頁という衝撃。こちらもお一人で書き上げたなんて凄すぎます。
総合内科流 一歩上を行くための内科病棟診療の極意
⭐️「病院家庭医」による、ゴールを見据えた内科病棟診療指南書!
発売日:2024年3月24日
著者:森川暢
ジャンル:病棟診療
対象:病棟診療に携わる研修医から、ベテラン内科医まで
こんな時に:慢性期を見据えたシームレスな病棟診療へレベルアップしたい時
研修医の時の病棟診療研修では、診断と急性期治療を主眼においたものが多いと思います。でも実際は、治療して終わり、とはなりません。高齢社会真っ只中の日本で、入院患者は高齢者の方が多く、どうしても入院でADL低下は必発。そこで、いかに入院前のADLに近い形で退院できるか、が病棟診療におけるとりあえずのゴールとなります。本書は「病院家庭医」である森川暢先生が、上記の視点から病棟診療の極意をまとめたものになります。第1章と第2章が、高齢者の患者さんの入院において、入院前と入院時に考えておくべき総論的内容となっています。入院時にやっておくべき病歴聴取や身体診察、血液検査、入院サマリの書き方、入院指示・輸液・食事・薬剤オーダーの考え方は、ぜひ初期研修医も読んでおきたいところです。第3章は治療各論として、誤嚥性肺炎や尿路感染症など、高齢患者さんの入院におけるcommon diseaseのマネジメントがまとまっています。そして第4章が「退院後を見据えたケア」。医学ではありませんが、患者さんの退院後の生活を考えたら決して避けては通れない大事なポイント、これが「医療」です。ぜひ本書を研修医・専攻医のうちに一読して、地域医療へ進みたいところです。
<外来診療編>
疾患軌道図で学ぶ継続外来
⭐️「専門医の先生に聞きたい!」ポイントを押さえた、慢性疾患外来をうまくこなすための「航海図」!
発売日:2024年5月1日
編集:寺沢佳洋、山中克郎
ジャンル:外来診療(継続外来)
対象:慢性疾患外来を担当するすべての医師
こんな時に:外来での慢性疾患管理をブラッシュアップしたい時
心不全、脳梗塞後のフォロー、甲状腺機能低下症など、急性期は臓器別専門医が治療しても、安定慢性期は近医内科で、となることが多いと思います。さて、いざ専門医から治療をバトンタッチした時、「この薬って、いつまで続ければいいのかな?」「なんか検査の値悪くなってきたけど、どのタイミングで紹介したらいいんだろう?」と悩むこともしばしば・・・。ましてや、忙しい外来で一人あたりに費やせる時間は長く見積もって10-15分程度。そんな短い時間で、患者さんの病状を評価し、方針を決め、薬を処方する。継続外来ってかなり高度なスキルだと、家庭医専攻医である筆者は常々思っています。そんな専攻医をはじめ、継続外来をもつ内科医にとって痒い所に手が届くのがこの一冊。この疾患軌道図が非常にわかりやすい!慢性疾患別に予想される経過や、そのタイミングごとにやるべき検査や処方すべき薬、専門医コンサルトのタイミングが一目でわかりやすく掲載されています。外来前に見ておけば、質の高い予習になること間違いなしの一冊です。
<プライマリ・ケア編>
総合診療・家庭医療のエッセンス第2版
⭐️ポートフォリオ作成に際して押さえておきたい、家庭医療学の基本理論が詰まった一冊!
発売日:2024年5月17日
監修:草場鉄周
編集:加藤光樹、佐藤弘太郎、宮地純一郎
ジャンル:プライマリ・ケア(総合診療・家庭医療)
対象:プライマリ・ケアに興味のある医療系学生から、プライマリ・ケアに従事する全ての職種
こんな時に:家庭医療の基本理論を学びたい時
2012年に発刊された「家庭医療のエッセンス」が大幅に改訂され、「総合診療・家庭医療のエッセンス」に生まれ変わりました。日本プライマリ・ケア連合学会現理事長の草場鉄周先生が監修をされていて、日本の家庭医療を学ぶ上でまずベースとなる一冊となりそうです。日本の総合診療・家庭医療の歴史から始まっており、総合診療専攻医及び、新・家庭医療専攻医は、一度これまでの歴史を最低限でも知っておいた方がいいでしょう。そして、新・家庭医療専攻医にとって、避けては通れないポートフォリオ。書くにはまず、ルーブリックの領域ごとのフレームワークの理解が必要です。例えば、「複雑困難事例のケア」では、クネビンフレームワークを使うことが、ルーブリックで求められています(出典:https://www.primary-care.or.jp/nintei_fp/case_sk.php)。そんなフレームワークの解説書でもある本書、新・家庭医療専攻医にとっての教科書的立ち位置として、ぜひ持っておきたい本と言えるでしょう。
ちなみに、表紙は綺麗なブルーに雪の結晶の舞う美しいハンドブック(私ならジャケ買いです)。それも北海道家庭医療学センターの先生方による一冊だからこそですね。
「卓越したジェネラリスト診療」入門―複雑困難な時代を生き抜く臨床医のメソッド
⭐️総合診療・家庭医療の醍醐味がこの1冊に詰まった、レジェンド家庭医による「ベストアルバム」!
発売日:2024年5月27日
著者:藤沼康樹
ジャンル:プライマリ・ケア(総合診療・家庭医療)
対象:プライマリ・ケアに興味のある医療系学生から、プライマリ・ケアに従事する全ての職種まで
こんな時に:「総合診療・家庭医療とは何か」を、とことん深めたくなった時
藤沼康樹先生による、ジェネラリストとは何か、プライマリ・ケアに求められるものは何か、という問いに対する、現時点での集大成。
藤沼先生曰く、「『卓越したジェネラリスト」は、医療のサイエンス(科学)とアート(技芸)を同等の価値を持つものとして取り扱う」医師のこと(出典:同書「序」より)。今まで学術的に語るのが難しいとされていた「医療のアート」の部分を、これまでにないほど掘り下げているのが、本書の最大の特徴といえます。
第Ⅰ章「プライマリ・ケア外来の一般要件」は、藤沼先生直伝の、家庭医外来におけるパール集。プライマリ・ケア・セッティングだからこそ必要な診断戦略や診断エラー集、身体診察やパーソナルドラッグのまとめなど、明日から使える家庭医外来Tipsの宝庫です。こちらのパートは、ジェネラリストの扱う「医療のサイエンス」に通じる部分といえます。
第Ⅱ章「卓越したジェネラリスト診療の実践」から雰囲気がガラッと変わります。いよいよジェネラリストの扱う「医療のアート」を掘り下げながら、「ジェネラリストの卓越性=専門性」、そして「総合診療とは何か」に迫っていきます。キーワードはunlearning(学びほぐし)です。「病へのアプローチ」、「患者中心の医療」、「複雑困難事例」、「マルチモビディティ」、「下降期慢性疾患」、「社会的処方」などの家庭医にはお馴染みのテーマでunlearning(学びほぐし)を進めていきます。
第Ⅲ章「卓越性を支える『チーム』と『教育』」では、ジェネラリストが、卓越したジェネラリストであり続けるために必要な生涯教育について語られています。特筆すべきは、なんといっても「サブカルも教材になる」(p240)。
「家庭医療やプライマリ・ケアには、本質的にフィクションやサブカルチャーとの接続が有効である側面がある」(p241)なぜなら、「マンガやアニメ、映画や音楽などは、”日常生活を普通に過ごしているだけでは見えない領域”を可視化する重要な表現様式」(p242)と考えられるからです。フィクションでしか描けない、人の命の重みや、人生の大切さ。フィクションは楽しむものでありながら、ジェネラリストにとってはそこでしか学べない大事なことに気づく有用なツールなのかもしれません。
医療のアートの部分は、他ならぬ医学以外の領域(哲学、人類学、心理学、社会学、そしてサブカルも)と密接に関連しています。
人生に伴走する卓越したジェネラリストには、医学も、医学以外の全ても、重要な要素です。なぜなら人生とはそういうものだからではないでしょうか。
この本を通して、サイエンス偏重でもない、アート一辺倒でもない、それらを両輪とする真のプライマリ・ケアの姿が見えるようでした。
プライマリ・ケア従事者必携の書です。
以上、合計7冊のおすすめジェネラリスト向け医学書の紹介でした!
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