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デザイン以外のデザイン【イベントレポート】from Designers Talk

昨年から実施しているマネーフォワードのオープンオフィス 兼 交流イベント「Money Forward Designers Talk」。2024年4月22日に各社デザイナーを集めて「デザイン以外のデザイン」をテーマにパネルディスカッションを行いました。

昨今、デザインシステムやブランドガイドラインなどに関する勉強会が多数開催され、デザインの作り方に関する情報にアクセスしやすくなりました。

しかし、このような取組みを実現するには、各社さまざまな部署との調整、社内外への浸透施策なども重要です。本イベントでは、難しいデザインを進めるために必要なデザイン以外の重要な取組みについて、各社デザイナーが大切にしている軸は何かをお話しいただきました。


登壇者の皆様

今回のイベントでは、まさに現場で活躍する各社デザイナーの皆様にお集まりいただきました。

井上 ゆい子(toB プロダクトデザイナー)
株式会社マネーフォワード

2022年6月にマネーフォワードへ入社。海外拠点で開発を行う新規プロダクトと、各プロダクトの共通基盤を作る横断プロジェクトを担当。

猪爪 雄(デザイナー)
株式会社ナレッジワーク
営業からキャリアをスタート。制作会社、事業会社でのデザイン経験を経て、2018年、株式会社マネーフォワード入社。新規プロダクトのデザイン、プロダクト開発プロセスの整備、デザイン組織のマネジメント、BXデザイン組織とDesignOps組織の立ち上げに従事。100名を超えるデザイン組織づくりを推進する。
2024年、ナレッジワーク入社。デザイン品質向上とデザイン組織づくりを推進する。

大月 雄介(プロダクトデザイナー)
エムスリー株式会社
千葉大学大学院デザイン科学卒業。メーカーにてUI/UXデザイン、インタラクション設計、ビジョン構想など幅広くデザイン業務に関わる。その後ベンチャー企業にてサービスのUI/UXデザインとフロントエンド開発を担当。2020年エムスリー入社。プロダクトデザイナーとして主に電子カルテのデザインを担当。電子カルテ本体からモバイルアプリまで、医師の使いやすさにこだわりながらデザインの大幅なアップデートを推進している。

季山 花蓮(UIデザイナー)
株式会社セブンデックス
リードデザイナーとしてECサイトのグロースや、コーポレートサイトのコンセプト設計からデザインまでを一気通貫で行うなど、様々なプロジェクトを通してデザイン業務に幅広く携わっている。ビジュアルデザインだけに留まらず、新規事業のリードデザイナーとしてUXリサーチ・情報デザイン・UXUIデザインを担当。

モデレーター
古長 克彦(デザインマネージャー)
株式会社マネーフォワード
現在はマルチプロダクトの事業全体に関するUI品質管理と横断UX向上に取り組んでいる。特にビジネスとの接続やPdMとの伴走体制構築の役割を担う。新卒で金融SIerにてシステムエンジニア/UXデザイナーを11年。前職では制作会社で業務システム全般のUI/UXデザイン事業の責任者を担当。

パネルディスカッションのトピック

本日は大きく4つのテーマで話を展開しました。

【1】関係者との合意形成
【2】長期施策の取り組み方
【3】大切にしている仕事の習慣
【4】失敗からの成長・学び

各社で活躍されているデザイナーの皆さんは、デザイン制作のスキルだけではなく、実務での動き方やマインドの持ち方を日々工夫しながらプロジェクトを前に進めています。

今回は、プロジェクトにおける具体的な行動から、実現のためのマインド、そしてなぜその行動をするに至ったのかの過去事例を交えて、楽しくディスカッションしました。

【1】関係者との合意形成

デザイナーという職種にとっては今や当たり前となった、デザインプロセス導入やデザインシステム構築。さらにはデザイン成果物に対する合意形成。一緒に仕事をする非デザイナーにとっては当たり前のことではなく、まだまだ慣れない方もいらっしゃいます。

非デザイナーを巻き込んで、デザインの価値を理解してもらいながら協働関係を築くのは簡単なことではないですが、皆さんはどのように日々取り組んでいるのでしょうか。

猪爪:そもそも関係者とのデザイン合意ってなんで難しいのでしょうか。それは認知の問題で、人って自分の興味あることしか感知できないし、デザインに触れてきてないので、知識や情報量の差もありますよね。デザイン用語ひとつとってもイメージするものが違う。そのような相手にデザイナーとして対話しても、相手に上手く伝えられません。

私ならそんな時、事前に関係者の職種の役割を把握して、相手が安心する事項を言語化しておきます。その上で、「こまめな期待値確認」→「相手の言葉を自分の言葉で確認」→「細分化してテキストに落とす」という順番で目線合わせをします。

加えて、関係者の組織の制約条件を知ることも大切です。組織で起こっているさまざまな出来事を自分の出来事として捉えて、一緒に課題を解決していきます。

季山 :私の場合、クライアントワークが中心ですが、本質的な提案をしなければ顧客に満足してもらえません。そのために、依頼事項をそのまま遂行するのではなく、本当に顧客が求めていることは何かを探ることからスタートします。

セブンデックスでは専任の営業担当がおらず、ディレクターが営業に立つので、案件提案時点で、与件・スコープ・スケジュール・アウトプットを握れるかが大事です。デザイナー自身も営業活動に積極的に参加して、そのタイミングでクライアントのニーズを深く探るようにしています。

一方で、最初から何でも話してくれるわけではないので、「建設的に議論していく場」と「思っていることをとりあえず共有する場」をうまく使い分けることを意識しています。

古長:クライアントワークの場合、「成功するための根拠」を求められることも多いと思いますが、不確実性の高いデザインの領域で、プロジェクトの最初でどのようにクライアントに説明しますか?

季山 :何度も基本に立ち戻って、クライアントにとっての成果、さらにその期待を超えるために何が必要かを考え入念にリサーチします。その結果をクライアントに共有して信頼をしていただけるように工夫しています。

大月:そのリサーチの結果を交えて、前提認識をしっかりすり合わせておくのが大事ですよね。

関係者の方々は日々その仕事に向き合っている分、基本に立ち返ることをしにくいと思うんです。だけど、デザイナーってそこに無邪気に「本来ユーザーは〜」と言いやすい職種でもあると思うので、それこそが価値であるって周囲が感じられるようにする関係作りも大事だと思います。私は、そのための1on1や食事会など、ラフな交流も積極的にしています。

これによってプロジェクト関係者と全員で成功するための空気づくりをします。ワイドオプションで必ず考えます。もしデザイナーからA, B, C案を提示した場合、その中から決めてもらうのではなく、みんなでより良いD案を生み出すイメージです。

古長:関係作り以外に工夫している点はありますか?

大月:「2割で共有」は意識してますね。細かい共有で方針をすり合わせます。デザイナーってついつい作りすぎて共有が遅くなりがちだと思うんです。そうならないよう、たとえば議論の場でデザインタスクを持ち帰らず、その場で作って共有するだけでも細かいすり合わせはできますね。

井上:そこは私も意識しています。早めに叩きを作って、ラフなアプトプットを見ながら関係者に思ったことを素直に言ってもらい意見を拾いながら認識を揃えるようにしています。

古長:関係者が複数いて、それぞれの考えが違って、意見がまとまらない時はどうしてますか?

井上:それぞれの意見の背景を深掘りして、その上でプロジェクトのゴールやスコープに立ち返ります。そうすることで建設的に議論は進みやすい印象です。

ただ、全員がはっきり意見を言えるならそれでもいいですが、デザインに対することなので言いにくい、違和感があることを言葉にしにくい人もいることにも配慮しています。

誰かひとりでも納得していなさそうだったら声かけをして、その違和感を深掘りします。表情・声色・仕草から判断しています。話を振ると喋りやすい状態にはなるので、それを受け入れる空気を作ります。

古長:みなさん、関係者の立場で寄り添いながら、プロジェクトを進めているんですね。


【2】長期施策の取り組み方

古長:そんなプロジェクトも短期的な取組みであればやりやすいですが、長期施策の場合、戦略や予算などの兼ね合いで進める難易度がぐっと上がりますよね。デザインに関わる取組みって長期化しやすいものも多く、苦労も多いかと思いますが、特に注意していることはありますか?

猪爪:まずは小さい成功体験を積み上げることでしょうか。デザイン施策をいきなり風呂敷広げて計画立てることは確かに難易度が高いので、小さく分解して短期の施策にします。そして短期で振り返り成果を実感してもらうよう工夫しています。

短期に上手く分解するには、全体のロードマップを作って、細かく刻んだ場合の途中段階の状況をイメージし切ることが大事だと思います。

さらには、その施策をデザイナーだけでやらずに周囲を巻き込むことですね。一緒にやりましょうというだけでは難しいので、必ずデザインの施策を事業の課題と接続します。それによって関係者も当事者として話に加わってくれやすくなります。

大月:私たちの場合、あえてロードマップを描かずに、その時に必要な施策を適宜見直しています。そのためには見直しタイミングを設ける必要があります。

まずは日々の取組みとして、ユーザーの一次情報をストックしておき、その情報にアクセスしやすくしてユーザーの最新情報に触れやすくします。やはり、ユーザーを見ている人に勝る情報はありません。

そして、ユーザー情報をもとに現在地の振り返りをして、ネクストカーブを描くためのチャレンジを整理する会を定期的に設けます。これが施策見直しの機会になっています。

このような施策を動かすにも、そこへの稼働の余力を残すことが必要ですが、デザイン組織として稼働の余力を作って取り組む動きを推奨しています。

季山:施策を定期的に見直す重要さを私も感じています。クライアントワークでは「UIデザインだけ」の支援では短期的な請負の仕事になりやすいので、長期的にクライアントと伴走するために戦略にまで入り込むことを意識しています。

リリース後のユーザーの利用状況、サービスのフェーズ、市況と未来予測を見据えて柔軟に対応します。リリースしたら想定と違う層に受けたのでターゲットを変更しようとか、新規顧客獲得より解約防止を優先しようとか。日頃からUIの話ではなく戦略の話をすることで身近なパートナーと感じてもらうことが大事だと思います。

井上:すごく共感します。プロダクト開発では、戦略策定はプロダクトマネージャーの仕事ではありますが、プロダクトビジョン・ロードマップ策定・プロダクト戦略立案の検討にもデザイナーとして深く関わるようにしています。

長期目線で何を実現したいかの目線が揃ってないと、手前の短期の取組みも方向性を見誤って、将来の負債になるかもしれません。そのリスクを伝えることで長期施策にデザイナーも関わったり、デザイン施策を入れ込んだりしています。

古長:各社によりアプローチは様々ですが、みなさん一貫して「事業との接続」を意識することで長期の施策を動かしていますね。そしてデザイナーだけでやらないというのも大事だということがわかりました。


【3】大切にしている仕事の習慣

古長:いままで語ってきた実プロジェクトでの動き方を実践していく上で、ご自身で大切している習慣やマインドがあれば教えてください。

井上:自分がどうしたいかも重要ですが、仕事をする上では、相手の状況と期待を常に想像しながら動くことを心がけてます。それと同時に、相手のアクションを止めないよう先回りも意識しています。こうすることで、余計なことに相手のリソースを割かずに、本来考えるべき部分に集中してもらえる環境を作っています。

さらに、自分自身のタスクのコントロールも意識してます。仕事はいくらでもできますが、いま自分が注力すべき部分に絞って、そこに全力投球できるようにしています。例えばSlackのチャンネルはセクション機能を使って整理して、セクション単位でミュートにしています。

自己成長の軸だと、デザイナーに限らず、社内にロールモデルとなる人をたくさん増やして、「いい行動」の引出しを増やすようにしています。その人の素敵な発言や行動で刺激を受けた時は、それを自分の言葉に置き直して自分ごと化しています。

古長:確かに井上さんの日報は、誰かの印象的な発言に対する考えを纏めているものが多くて、それを他の社員が読んでいるので、いい循環になっていると思います。

大月:私も井上さんと似ていて、とにかく早く動くこと、そしていい空気を作って周囲を動かすことを意識しています。そのためには、何をするにもシンプルな言葉・思考で動く、仮説を積み上げないということが大事だと思います。複雑になるほどスピードが鈍化するからです。

例えば、プロジェクトの1人目ってPMの役割になることが多いですが、プロジェクトメンバーを広く巻き込むことが難しい状況ではデザイナーが「プロジェクトの2人目」としての価値を発揮しやすい立場にあると思います。

PMを孤独にせず、周囲を巻き込んで勢いをつけて、ポジティブに伴走する役割になることを意識しています。普段もSlackの反応はテンション2割増しです。バイブスが大事です。

古長:このイベント準備に関わった弊社メンバーも、大月さんのテンションの高いコミュニケーションに助けられてモチベーションが上がっていたと思います。そして「プロジェクトの2人目」という言葉が印象的ですが、個人的にはすごくしっくりきました。

季山:私はデザイナーという職能の縛られないこと、「デザイナーができないことを決めない」というマインドを大事にしています。得意領域・専門領域が職能によって違うだけで、関係者含めて見ているゴールは「事業を伸ばすこと」で、スタンスは全員同じはずです。ここに強くコミットすることを考えて仕事をしています。

クライアントの立場から「デザイナーはビジュアルを作る人」という印象を持たれてしまうと動ける幅が小さくなって、戦略へ立ち入りにくくなってしまいますが、「何でもしてくれる人」という印象を持ってもらえれば、逆に柔軟に動きやすくもなります。

このマインドを自社チームでも育てていきたいです。プレッシャーでもありますが、前向きな言葉でチームメイトにも伝搬して全体のモチベーションアップに繋がるよう意識したいですね。

古長:チームで越境のマインドが浸透すると、どんどん組織としての成長にも加速がかかると思うので素晴らしいですね。組織への空気作りを意識している方が多い印象ですが、猪爪さんはどうですか?

猪爪:まさに空気作れる存在になるのは大事ですね。コミュニケーションをする上で「北風と太陽」でいう太陽(厳しさより優しさ)のような存在であることを意識しています。ただ優しいだけではなく、相手への理解が不可欠なので、背景の深い理解と知識の積み重ねで、熟練していくものかなと思います。

感覚的には日常のコミュニケーションでもUXリサーチをやっているようなものだなと思います。

古長:確かに、相手への深い理解とそれに対するコミュニケーションって、UXリサーチそのものですね。

猪爪:あとは、やはりストレスのない環境でデザインすることが一番だと思います。デザインを大切にする環境に身を置いて、尊敬できる人・好きな人と働いて、自身のストレッチのために安全な場所から勇気をもって飛び出すというのが大事ですね。

古長:なるほど!


【4】失敗からの成長・学び

古長:今お話しいただいたような仕事の習慣が身についたのは、過去のご自身の経験から行き着いたマインドのような気がしますが、その考えに至った過去の経験や失敗談はありますか?

季山:まさに、以前の私は自分がやりたいことを無思考でやっていた時期があり、イシューとソリューションが一致せずに上手くいかなかった経験をしていました。

この失敗の経験があって、イシューが何を常に意識したり、どこかでしっかり立ち返る癖が身につき、上手くいき始めた感覚があります。本質的な課題解決や価値創造のためには、イシューが必要だと感じています。

大月:私は一次情報の大切さを意識していますが、以前はそれを取りにいかずに受け身の姿勢になっていた時期がありました。そうすると何を語るにも自分の言葉で語れず、相手にも伝わりにくかったです。一次情報へのアクセス性を高めたことで、多次元的にデザインの需要を理解したうえで自分の言葉で語れるようになりました。

あとは、周囲への巻き込みが足りなかった時期の失敗もあります。その時は説得になっている提案ばかりしていました。その結果、関係者との間に壁を作り、手戻りも増えて時間を浪費していました。現在は、一緒につくり一緒に学ぶようにしたことで、チームの一体感も増し、スムーズな開発ができるようになりました。

井上:私はいつも小さな失敗を繰り返していますね。反省することばかりです。何事も内省して、最近はもっといい方法がなかったのかを常に考えるようにしています。さきほどロールモデルの話をしましたが、「あの人だったらどうしてただろう?」とイメージを膨らませて自分のやり方をアップデートしています。

こうしていくうちに自分の引き出しも増えて、色んな性質のプロジェクトも複雑な課題も、徐々に最適な手段を選択できるようになっている気がします。さらに、その手段をとる場合の影響範囲もイメージがつくようになって、よりスピードが高まったように感じます。

猪爪:自分はデザイナーになったこと自体が失敗ですかね(笑)。営業からジョブチェンジしてデザイナーになりましたが、最初7年くらいは、ずっと向いてないなと思う苦しい日々でした。

ただ、その時必死にもがいていた中で、少しずつ自分をハックして遊ぼうとする感覚が芽生えて、そから視野も、取れる手段も広がったと思います。苦しくても続けていれば、どこかで突き抜けることができます。仕事はマラソンみたいなものです。

あとは繰り返しになりますが、自分にあった仲間、自分にあった環境でスキルを高めていくことが大事です。

さいごに

今回のイベントでは、デザインの第一線で活躍するみなさんの日々の苦労やマインドを知ることができ、デザイナーとして突き抜けるためのヒントをたくさん得られた素晴らしいディスカッションの場になりました。

共通して言えることは、みなさん組織や事業全体を俯瞰して、適切なコミュニケーションをとることを大切にしており、相手の立場で寄り添うこと、ポジティブでいることで周囲を鼓舞する役割を担っているのだと思いました。

デザイナーにとって制作スキルも大切ではありますが、そのデザインの価値を最大化するために、今回みなさんが語ってくださった「デザイン以外のデザイン」の力も身につけていきたいですね。

今後も「Money Forward Designers Talk」では、密に深くデザイナー同士が語り合える場を作っていきます。次回をお楽しみに。

撮影協力:エムスリー様
素敵な写真の数々、ありがとうございました!

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