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『次のカクテルまで』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年1月11日(再放送:2022年1月15日)オンエア分ラジオドラマ原稿)


男1「マスター、いつもの」
男2「じゃあ、俺も」

マスターはうなずき、道具を手に取り、手際よく作り始める。

僕はスマホを取り出し、アプリを立ち上げた。
その横で、画面をのぞき込んでくる同僚。

男2「マッチング?」
男1「そう」
男2「ハマってるね~」
男1「時間があると、つい見ちゃうんだよ」

男2「で、マッチングの成果は?」
男1「会ったりするよ」
男2「会ってんの?」
男1「まぁ、お茶したり、ご飯食べたり、映画見たり」
男2「映画?初対面と?」
男1「そう」
男2「まじか?」
男1「普通よ」
男2「初対面と映画に行って、何話すの?」
男1「話すっていっても、映画見てるときはお互い静かに見てるけど」
男2「まぁ、そうだな、、、映画館の中でしゃべる人、きらいやわ~」
男1「わかる」


男2「それで、肝心なのは、そのあとよ」
男1「そのあとは、ふつうに、また~って感じで」
男2「それだけ?」
男1「それだけ」
男2「映画だよ」
男1「映画だよ」
男2「目的はさぁ~」
男1「映画だよ」
男2「ふたりだけでだよ?」
男1「映画だよ」

男2「なんだよ~」
男1「映画だよ」

男2「理解できんなぁ~」


男1「別々の人と同時にメッセージ交換してると、同じ映画を見に行こう!って会話がかぶっちゃって、2度3度同じ映画見にいくこともある。いつも俺は「初めて見ます」って顔をするんだけどさぁ」
男2「映画にだよ?」
男1「そう、映画にだよ」
男2「誰得よ!」

同僚は、少しあきれ顔になりつつも、尋問は続く。
カウンターの向こうでは、きれいな丸氷が出来上がったマスターが
満足そうな顔をしている。

男2「それで、他は?」
男1「他って?」
男2「お茶したり、ご飯食べたりする目的の相手だよ」
男1「まぁ、お茶したり、ご飯食べたりして、、、解散かな」
男2「それだけ?」
男1「それだけ」
男2「なんだよ~」
男1「なんでだよ~」
男2「そんなものなのか?」
男1「そんなもんよ、納得してないなぁ~?」
男2「まぁ、そうだな」
男1「そういうなら、やってみたらいいじゃん」
男2「俺は無理」
男1「なんでだよ?」
男2「だって、スマホ音痴だから」
男1「簡単だって、(スマホの画面を見せながら)ほら、こんな感じでさぁ」

無理という割には、その目線の先は、しっかりと画面をとらえてる。

男2「めっちゃかわいいやん」
男1「ダメだよ、この子は盛ってる」
男2「わかんの?」
男1「ちょっと前に同じような感じの写真の子にあったら、ぜんぜん違う子がやってきた」
男2「まぁ、あるわな。。。じゃ、次のこの子は?温泉巡り、仲良くしてください、28歳って」
男1「どうだろ?いいんじゃない?」

男2「じゃあ次。この子は?」
男1「いいんじゃない、、、っていうか、ハマってる?簡単だよ、登録してみなよ」

男2「いやいや、俺は人見知りだから、初対面と、いろいろは無理無理」
男1「いろいろ期待するから無理なんだよ」

そのとき、ドアを開ける音がした。


フォーマルにも見えるが、カジュアルともいえるジャケットを羽織った
美しい女性が入ってきて、僕の隣に座った。


女 「遅くなり、ごめんなさい」
男1「大丈夫、何を飲みます?」
女 「じゃあ、ビールにしようかな」
男1「プロフィールにも【ビール好き】って書いてたね。マスター、ビールを1つ」

何も聞いていなかった同僚は、その一連の会話に驚きながら、小声でしゃべりかけてきた。


男2「え?マッチング?俺邪魔だよなぁ?」

小声でしゃべっていたつもりだが、彼女にはしっかり聞こえていた。

女 「あ、すいません。ぜんぜん大丈夫ですよ。むしろ、あまり慣れていない相手と1対1で会うのは恥ずかしいから、お友達がいても気にしないよって、この前メッセージ送っていましたから」


そう彼女が答えると、親指をしっかり立てたような満面の笑みで、
先ほどより前のめりで同僚は彼女に話しかけきた。


男2「じゃあさぁ、そろそろお酒もくるから、ここは乾杯ってことで」
女 「ふふ、」
男1「人見知りの積極的って、聞いたことね~よ」


白いシャツが似合うマスターの前に、色とりどりのお酒が3つ並ぶ。
次のカクテルがくるまで、俺は、つなぎに徹した。



おしまい


※こちらの小説は2022年1月11日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア https://radiko.jp/share/?sid=LOVEFM&t=20220111210000

※こちヨロは土曜日13:30~14:00でも火曜日の放送をREPEAT放送でお届け。

今回の作品は番組ディレクター執筆の作品です。

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