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オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル『初めての男』(2021年4月20日オンエア)

「待ち合わせなんです」

彼女はキールを頼んだあと、白ワインとカシスをステアしていた私にそういった。

「バーで待ち合わせして、一杯飲んだあとその人と一緒にお食事に行くんです」
「お相手の方を待たなくても大丈夫ですか?」
「少し遅れるって、だから飲んでて言われたんです」

ルビー色のキールを差し出すと彼女はすぐに一口飲んでこう言った。

「マスター、私その人のことが好きなんです」
「それはすばらしいですね」

そう言うと彼女はすぐにこう返した。

「すばらしいのはその人も私のことを好きだったら、ですよね」

少し酔ったような口調で彼女はそう答える。
どうやら彼女はそれほどお酒が強くないようだ。

「そうとも言えますね。でもバーで待ち合わせをしてから食事に行くお誘いだったら、お相手の方も好意を抱いてるんじゃないですか?」
「そうとも言えるのかしら」

不安げに彼女は答える。

「ヴァレンタインの日にチョコレートを作ったんです。手作りチョコを。でも渡せなくて、自分で食べちゃいました」

そう言って彼女は自嘲気味に笑ってまたキールをひと口飲んだ。

「私、今まで一度も告白したことないんです。人に好きだって言ったことないんです。どうせ私なんかとか、絶対フラれるしとか思っちゃうと、自分の気持ちを相手に伝えるのが怖くなって」
「わかります」

「中学の時初めて手作りチョコを作ったんです。ヴァレンタインで告白するんだって決心して。でもいざ当日になったら怖くなって渡せなかった。もらってくれないんじゃないかとか、私にチョコをもらうのなんて迷惑なんじゃないかとか。それで、渡せないまま翌日になって、もったいないから自分で食べちゃいました。あとお父さんにあげたり」
「お父さまはうれしかったでしょうね」

「お前からのチョコはいつも一日遅れだな、って嬉しそうに笑ってましたね」
「お父さま、わかってらっしゃったんですかね」
「だと思います。どう見ても本命のハート型のチョコとか毎年食べてたから笑」

そういって笑った彼女の顔はとても綺麗だ。

彼女からチョコをもらい損ねた男たちの中には、その彼女の綺麗な笑顔に気づいていた男もいたのではないだろうか。
そう思うと、少し彼らがかわいそうに思えてきた。


「子供の頃からずっとです。二十歳を過ぎても、私はヴァレンタインの日に自分で作ったチョコを、渡すはずだったチョコを、自分で食べるんです」

また彼女はキールを飲んだ。


そこへ、チョコレートをもらい損ねた男が入ってきた。


「ごめん、遅くなって」
「全然、もう飲んでました」

「あの、いきなりだけど、これ」
「え、なんですかこれ?」

「今日は、3月14日だから、いや、ヴァレンタインに何ももらってないけど、せっかくホワイトデーだし、マカロンを作ってみたんだ、そしてら思いのほか時間かかっちゃって、それで遅れて、ごめん。よかったら、食べてみてよ」


「…好きです」


「あ、マカロン?あ、よかった」
「マカロンも、あなたのことも。チョコレート渡せなくてごめんなさい。もう一回作ります」


どうやら彼は、彼女の作ったチョコレートを食べられる初めての男になりそうだ。


おしまい


※こちらの小説は2021年4月20日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア

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