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追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕

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【第一部第1話 無料公開中】 近年、採捕量の激減から取引価格が高騰するニホンウナギの稚魚、シラス。「白いダイヤ」と呼ばれ、人々の欲望を引き付ける。全国的に密漁や闇取引が横行する… もっと読む
高知新聞紙上で今年1月から全3部にわたって連載され、2021年日本新聞協会賞を受賞した「白いダイヤ… もっと詳しく
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追跡・白いダイヤ~高知の現場から~シラスウナギの光と闇

追跡・白いダイヤ~高知の現場から~シラスウナギの光と闇

【第一部第1話 無料公開中】「闇ルートで県外に流せば、1キロ400万円の時も」…。近年、採捕量の激減から取引価格が高騰するニホンウナギの稚魚、シラス。「白いダイヤ」と呼ばれ、人々の欲望を引き付ける。全国的に密漁や闇取引が横行する中、仁淀川や四万十川という全国屈指の好漁場を抱え、「日本で1番採れる」という高知から、謎の多いシラス漁と流通の実態に迫る。(高知新聞取材班)

高知新聞紙上で今年1月から全

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追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(1)シラスウナギの光と闇

追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(1)シラスウナギの光と闇

人々の欲望引き付け

シラス漁の解禁日。四万十川河口に集魚灯の光がきらめいた(昨年12月7日夕、四万十市名鹿から撮影)

 昨年12月7日の日没直後。高知県四万十市名鹿(なしし)の高台に上ると、目の前に幻想的な光景が広がっていた。

 四万十川の河口に散らばる100隻以上の小型船。それぞれが集魚灯の光をきらめかせ、暗い水面を黄緑色に照らしている。この日はニホンウナギの稚魚、シラスウナギの漁の解禁日

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追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(2)許可はおいしい権利

追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(2)許可はおいしい権利

 「あっ、こら!」

 昨年12月上旬。四万十川河口の真っ暗な岸壁で、近所の大工、石川明男さん(63)が小さく声を上げた。

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追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(3)採るもんは、静か

追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(3)採るもんは、静か

 昨年12月中旬。記者が四万十川河口に着いたのは日付が変わる直前だった。

 車の外は気温1度。真っ暗な土手を越え、未舗装の道を恐る恐る進む。ヘッドライトが照らし出した河原に、軽トラックやバンが止まっていた。

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追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(4)紅白ら見ゆう場合か

追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(4)紅白ら見ゆう場合か

 新型コロナウイルスに振り回された昨年、最後の夕日が沈んだ。大みそかの仁淀川河口。砂浜に四輪駆動車や軽四が次々と乗り入れ、両岸に並ぶ青いビニールテントに明かりが灯(とも)った。100人以上はいる。

 「シラス漁師に、正月もクリスマスもないきよ」

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追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(5)強い人間が、稼ぐ

追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(5)強い人間が、稼ぐ

 元日の夜。仁淀川河口は大きな満月に照らされ、浜砂利に自分の影がくっきり落ちていた。三脚を構え、波打ち際にカメラを向ける。すると―。

 「写真撮られゆぞ。顔をおかに向けなよ」。採捕許可を持たない密漁者だろうか。リーダー格が仲間に指示する声が聞こえた。

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追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(6)突如、ゴールドラッシュ

追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(6)突如、ゴールドラッシュ

 今では絶滅の危機にあるとされるシラスウナギだが、昔はそこかしこで採れた。

 昭和の初めごろ、四万十川では「白布を流したようなシラスの川上り」が見られた。地元の人は「そうめん」と呼んでそのまま鍋に入れて食べていた。

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追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(7)春野が全国の養鰻変える

追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(7)春野が全国の養鰻変える

 「高知の養鰻(ようまん)じゃあ、わしが一番おじいかのう」

 高知市春野町森山の自宅横にある養殖池を訪ねると、塩田暉郎(きろう)さんが「がはは」と笑って迎えてくれた。

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追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(8)他にはない仕組み

追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(8)他にはない仕組み

 高知県のシラスウナギを取り巻く状況は、1970年代の「ゴールドラッシュ」と、ハウス養鰻(ようまん)の普及で激変。大金が動く「光」と密漁が横行する「闇」が生まれ、今に続いている。

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追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(9)表と裏 生まれた二重価格

追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(9)表と裏 生まれた二重価格

 「小指のないおんちゃんとか怖い人がいっぱい来て、どうなることかと思うた」

 シラスウナギの管理に関わった高知県OBが振り返る。時は1996年。高知市の老舗ホテルは、仲買人や養鰻(ようまん)業者ら100人以上でごった返した。

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追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(11)ガサや、動くな!【動画】

追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(11)ガサや、動くな!【動画】

「トントン、トントントン」

 シラスウナギの禁漁期間だった2019年12月上旬。ナスの産地として知られる安芸市のビニールハウス群で、高知県漁業管理課と県警の捜査員計9人が、一つのハウスから漏れ聞こえる音に耳を澄ませていた。

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追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(12)万じゃない、億が動く

追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(12)万じゃない、億が動く

 シラスウナギの密漁を取り締まる高知県漁業管理課のベテラン職員が言う。
 
 「密漁者は10年ほど前まで県内の人間ばっかりやった。でも、最近は住所も名前も分からん、得体(えたい)の知れん者が増えた」

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追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(13) 用心棒、取引に触手

追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(13) 用心棒、取引に触手

 高知県内暴力団とシラスウナギの接点ができたのは半世紀ほど前。シラスの価格が急騰し、各河川に採捕人があふれた1970年前後のことだ。

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