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【積読紹介】おもしれー男in江戸時代


以前、谷崎源氏が積読になっている話を書きましたが、実はまだあるんです、積読。
今回の記事は、私の思う江戸時代の「おもしれー男」による著作を積読しているんです、というお話です。

以前の記事はこちら↓


さて、読者さまにおかれましては、「おもしれー女」という言葉を聞いたことはありますでしょうか?
平たく言うと、「モテる男性キャラになびかない女性キャラ」を指します。
「ありとあらゆる女性の心を奪ってきたこの俺様になびかないだとッ…?!フッ、おもしれー女だな」みたいなかんじですかね。


一方、「おもしれー女」よりはマイナーだと思いますが、「おもしれー男」という言葉もあるようで、一応定義があるみたいです。ざっくりいうと、「観察していて面白みがある男性、または男性キャラクター」だそう。


そんな「おもしれー男」ですが、私には「こやつ、おもしれー男やな」と思った人物がいます。

それは、畏れ多くも将軍家の血を引く江戸時代の老中・松平定信公。


歴史の授業で必ず登場する人物ですので、聞き覚えのある方もいらっしゃるでしょう。彼は江戸時代に寛政の改革を実行した人物です。

定信の前老中・田沼意次の時代には、イケイケ重商主義な政策がとられて経済が活性化した反面、賄賂が横行するなど、かなり世相も緩んでしまっていたようです。そんな状況を変えんがため、白河藩主として実績もあるクリーンな若者・定信が老中に抜擢されました。

彼が行った寛政の改革では、経済政策はもちろんですが、風紀の引き締め政策もとられました。この時代、読み物でも絵画でも発禁処分がよく出されたのです。処分を食らった版元が、財産を半分取られてしまったとか恐ろしい話も残っています。

そんなボッシュート連発などのストイック政策に、一般庶民はついていけないよう〜と不平不満が溜まっていました。
有名なのがこの狂歌ですね。見たことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

「白河の 清きに魚も 棲みかねて もとの濁りの 田沼恋しき」

人々の期待を背負って老中に就任した、白河藩出身の定信による寛政の改革は、あまりに清廉潔白な風紀に厳しいものであったから、民衆も息苦しく、賄賂など汚いことはあったけれど、前の田沼時代が恋しいなぁ(意訳)
という風刺の歌になっております。

以上の話から想像はつきやすいかと思いますが、定信は現代人の感覚からすれば潔癖といってもよいくらい、男女の別にもうるさい人間だったようです。
定信は自叙伝の中に、

私は女と同衾しても手は出さなかった。色欲なんてわいてこなかった。(意訳)

みたいなことをわざわざ書き残しています。しかもそれを相手の女性に伝えたという……。
※『修行録』より。原文は以下の通り。

こよひはかのもの(引用者註・女性の使用人)里へもさがらねば、いかがせんと老女のいひしを、このところもひとつの修業なるべしと思ひて、こよひはこゝにとまらすべし。一とせものもいはず、ことにこの比にわかれかへるなればとて、その夜はひとつ床に入れて、さまざま行先のこと、かたづくについての心得など、かたりつゝねにけれども、いさゝか凡情はおこらず。そのことも女のしらざることなれば、しばし情かけしが不便さに、ともにはぬれども凡情なき事などもかたりぬ。

松平定信著・松平定光校訂『宇下人言・修行録』岩波書店、1942年、185頁


はじめてこのエピソードを知ったのは、江戸時代研究者の本に出てきたほんの一節でしたが、サラッと書かれていたその一文だけで「定信って結構強烈な人だなぁ…」と長く私の記憶に残っていました。

そして最近になって、これってもしかして、昨今よく聞かれた「おもしれー女」の男性版なのでは?!と思い至り、このエピソードの出典が気になって、結局岩波文庫の松平定信著『宇下人言うげのひとこと・修行録』を購入しちゃったという話です。

女性に目がない老中ってのもなんだかなぁですが、理性の勝利を語るために引き合いに出された女性のことを思いやると、「オマエには性的魅力はない」と言われているみたいで、それはそれでなんだかかわいそうな気もします。定信は自身の修行のためにその女性と同衾したらしいんですが、そんな修行なんかせずに同衾自体を回避したらいいのに!と私は思ってしまいました。

子孫のために書いた自叙伝の中に、そんなエピソードを書き残してしまうところも含めて、この人はおもしれー男だなぁと思ったのでした。
※念のための補足ですが、定信は女嫌いではなく、正妻、後妻、側室がおり、立派に子孫もいます。あくまで性の乱れに厳しかった人のようです。


そんな定信に、嫌悪感よりむしろ好感を抱いてしまうんです。なぜなら私も結構カタブツだから。親近感とでもいったら良いのか、自分よりも振り切ってる‘やばい奴‘の存在は、カタブツを治したくても治せない人間にとっては慰みでもあるのです。

こんなことを書いてしまったので、たぶん私があの世に行ったら、定信に「‘やばい奴’とは何だ!オマエ如きが私を慰みモノになんかしていいわけがあるか!」と怒られる気もします。でも違うんだ定信様、あなたは私の希望でもあるのです…!
カタブツでも歴史に名を残すくらいの立派なはたらきができるってね…!新一万円札の渋沢栄一氏もあなたを敬愛していたらしいし、私はカタブツ万歳やと思ってますよ?!と必死の弁明をするつもりです。
おそらく側近あたりに「何言ってるんですか、そもそも頭の出来が違いますよ。」と冷静に言われるんでしょうけど……。

変な妄想はやめにして、そんな定信への親近感から、先述の通り彼が残した『宇下人言・修行録』と『花月草紙』を読んでみようと思いまして。岩波文庫版を買ったはいいものの、古文演習のテキストの進みが遅いのと、別の新書を優先してしまって見事に積読になってしまいました。
(ちなみに宇下人言は、「定信」の字を分解して、定=宇+下、信=人+言になっているので、洒落を解する心もあった人物なんです。ますますおもしれーですよね?!)


こうやって読みたい本リストを作るのだけはわたくし得意なんですね。
ちょっとずつ消化していきたいものです。


⚠️以上は、松平定信へのリスペクトある上での戯言です!

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