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カラーフィールド 色の海を泳ぐ:3 /DIC川村記念美術館

承前

 「カラーフィールド」のかわいさを示す筆頭的な存在——“かわいい番長” と思われたのが、カナダのジャック・ブッシュ(1909~77)。
 じつのところ、作家の名前すら聞いたことがなかったのだけれど、同じ壁面にでんでんでんと並んだ4つの大作に接して、反射的にすきになってしまった。
 ブッシュの作は作品番号1~4で、第1会場の冒頭にあった。こんな感じ。

 左端の作品番号1の、タイトルはなんだろうか……?
 つい先ほど接した「色の海を泳ぐ」という展覧会のサブタイトルに引っ張られて、「ああ、魚の絵だな」と思ってしまうのが自然だろう。おおかたの人がそうであろうし、わたしもそうだったのだが――正解は《裂け目》とのこと。おお、そうか、これは裂け目なのね……(井伏鱒二の『山椒魚』が思い浮かぶ)

 純粋な形態、色と色の組み合わせ。色面は広く、色のなかにグラデーションはなくて、色どうしの境界も画然としている。なるほど、こういった傾向の作を「カラーフィールド」というのだなと、これらの作でまずは学びとることができる。
 ブッシュの絵には人肌の温かみや愛嬌が感じられて、民藝の作を観ている感触に近いものがある。少なくとも、観る側の好みの傾向としては、じっさいに重なるところが多いのではないか。

 《裂け目》に続く3つの絵には、それぞれ、どんなタイトルがついているのだろう?
 わたしは、左から2番めは工具かなにか、3番めは突き当たりのドアに向かって続く赤い壁の廊下、4番めはガチャピンの亜種かなにか(の腹部)ではないかと想像した。
 こちらの正解は順に、《赤い柱》《締め付けられたオレンジ》《はためく旗》とのこと……
 絵から正解を導き出すのは、ちょっとむずかしい。答えを聞けば、理解を示すことは可能でありつつも、やっぱり意外だ。
 けれども、それが本来的になにを表そうとしたものであろうと、目の前にあるこの色、このかたち、この絵が心地のよいものだということは揺るぎがない。
 いやはや、しょっぱなからいい作家に出合えた。ジャック・ブッシューーしっかり覚えた。これから、追っかけてみよう。

 ちなみに、ブッシュの作は、これまたかわいいミュージアムグッズになっている。
 トートバッグと靴下(!)が秀逸。
 トートバッグ、とくに《裂け目》の大きめトートがよほど欲しかったものの、川村までやってくるみなさんはさすがに感度の高い方が多いとみえ、あえなく売り切れ……会期終了直前ではなくもっと早いうちに来ておけば、こんなことにはならなかったものを!
 展覧会が終わったらショップのページからも消えてしまうだろうから、失礼ながら備忘録代わりとして、ここにスクショを上げさせていただくことにしたい。ああ口惜しい……
 (つづく


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