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大和路の青き野の上に:1

 東京から新幹線を乗り継いで京都経由で奈良へと向かうとき、JRに乗るか、近鉄に乗るか。
 ふたつの路線は何度か交わりながら南へ並走しており、双方の奈良駅も徒歩にして10分強という近さ。乗換案内で調べると早さも安さも近鉄に軍配が上がるので、基本的には近鉄を利用して奈良に向かうことになるが、青春18きっぷの使用中や目的地が沿線にある場合はJRを利用する。
 そうでもないかぎりは、もっぱら近鉄に乗ることになる。早さ・安さのみならず、車窓からの風景においても近鉄に一日の長があると踏んでいるからだ。

 東大寺や奈良公園は、県庁所在地の奈良市にある。この奈良市は、なにげに広大な奈良県の最北端に位置し、京都府に面している。そのため京都から奈良へと向かう鉄道が走るのは、行政区分上はほとんどが京都府内である。
 東寺の五重塔を見送って、しばらくのあいだは市街地、ついで見通しのよい平坦な田園風景のなかを電車はひた走る。
 木津川を越す頃には京都盆地が終わり、山に入っていく。この山が府県の境、旧国名でいえば山城国と大和国の境をなす峠であり、短いトンネルをいくつか越していけば奈良県になる。
 峠に差し掛かってからというもの、視界は一転して狭まり、人家もまばらな山あいの集落・耕作地のなかをのろのろと進んでいく。近鉄の高の原駅、JRの平城山(これで「ならやま」と読む)駅のあたりだ。このあたりに達してはじめて、旅情と感慨が深まってくる。「ああ、いよいよ奈良に着くのだなあ」と。

 奈良に近づくにつれて、沿線のところどころにこんもりとした丘、すなわち古墳が認められるようになる。ここは不退寺、あのあたりには秋篠寺。頭のなかの地図と古寺で過ごした時間が、眼前の風景と交差する。
 ここまでは、JRと近鉄の車窓風景を比べてもそう大差はない。
 近鉄で京都から奈良へ向かう際のハイライトはなんといっても、この先にある風景――平城宮跡を突っ切り、駆け抜けていく瞬間であろう。
 通過時間にしてわずか数分の話だが、これこそが、京都駅から奈良へ向かうにあたって近鉄を優先したくなる所以である。(つづく)


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