見出し画像

集まったもの /KDDI ART GALLERY

 多摩センターにやってきた。
 小田急線と京王線、多摩モノレールの結着点に位置し、サンリオピューロランドのお膝元として多くの家族連れでにぎわうファンシーでメルヘンでカラフルな街。その一角には東京都埋蔵文化財センターという考古学ファンにはたまらない施設もあるのだが、残念ながら本日の目的地2つのなかには入っていない。
 駅からデッキの上を10分強歩いたところに、KDDIのガラス張りのビルが立っている。新築ほやほやのそのビルの2階に開館した、KDDIの所蔵品を公開する美術館を目指してここまでやってきたのだ。12月1日開館で、来訪はその数日後。鉄は熱いうちに打て。
 同じく2階にある「KDDI MUSEUM」は企業博物館らしく、KDDIの社史や技術・製品などを紹介しているところらしい。
 紛らわしいが、美術館の名前は「KDDI ART GALLERY」。企業博物館のすぐ隣、こじんまりとしたワンフロアに60点あまりの絵画とガラス工芸が並んでいた。美術館のみの観覧希望者に対しては予約制で公開とのことで、わたしも予約をしてうかがった。
 コレクションは、ヴラマンクなどの西洋絵画、荻須高徳や梅原龍三郎、中川一政などの日本の洋画、日展三山らの日本画、ガレやドーム兄弟のガラス工芸という、デパートの美術部が扱いそうなラインナップ。
 目を引いたのは、個人的にすきな小島善三郎や牛島憲之、牧野虎男の油彩と、梅原龍三郎の横位置の薔薇、それに高山辰雄の初期作という地面をアップにした地味なものなど。東山魁夷の大作も、市場では高評価を受けるものだろう。

 このコレクションが、どのようにして形成されたか。解説に耳を傾けると……KDDIが幾度も吸収合併を重ねていくたびに、元の会社の会議室やら社長室やらに架かっていた絵画がグループの所蔵品に加わっていったそうな。西洋絵画には海景画が多かったが、これは海底にケーブルを通す事業に関連して収集されたのではないかということであった。納得。
 要するに、これは「集めた」コレクションではなく、「集まった」コレクションであるということだ。あるコレクターにより、一定のコンセプトに沿って「集めた」ものではないため統一感のある内容ではないが、ともあれこうして日の目を見るのは喜ばしいことだと思った。

 お隣の企業博物館には研修の一環で来館したとおぼしきスーツ姿の集団が多く、その一部が美術館にも流れてくる。研修終わりの解放感からか、ちょっとうるさい。サラリーマンのみなさんも、たまには静かにアートに親しんでみてはどうだろうか。この施設の存在が契機となってくれればいいのだが。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?