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TAKEUCHI COLLECTION「心のレンズ」 /WHAT MUSEUM

  「近現代美術×ミッドセンチュリーの名作家具」の展示を観に、天王洲アイルの寺田倉庫「WHAT MUSEUM」へ行ってきた。
 蒐めた人・竹内真さんは、次のようにおっしゃっている。

アートは部屋を飾り、毎日のように視界の端で感じながら、時にゆっくり覗いて物思いに耽ってみるようなもので良いのではないか

(「コレクターメッセージ」より)

 たいへんうらやましくもあるこの言葉を、会場では具現化。絵画や立体作品のかたわらに、モダン・デザインの巨匠たちによる名作家具を取り合わせていた。
 さらに、数点の椅子に関しては、腰掛けることが可能。竹内さんの日常の一端を擬似体験できる。
 たとえば、コレクションのきっかけともなった本展最初の一作・ピカソのエッチングが掛かる壁の裏面には、応接スペースのようにさりげなく、こんな一角が設けられていた。

アルベルト・ジャコメッティ《スタジオの椅子》(額装  1961〜62年)、シャルロット・ペリアン《レ・ザルク用パイン・スツール、丸テーブル》

 ペリアンのスツールはどっしりとしていて、座ると背筋が自然にスッと伸び、骨盤が立つ気がした。そうしないと、ジャコメッティのペン画デッサンがよくみえないということもあったが、なんというか、安心して任せられる感触。
 反対に、ジャコメッティを背にして座ると、この光景である。

ピエール・ジャンヌレ《バックチェア》21脚によるインスタレーション

 1950年代、ル・コルビュジエが進めた北インド・チャンディガールの都市計画。その一環として、ピエール・ジャンヌレによってデザインされた籐張りの椅子が、ワイヤーを使って、たくさん吊り下げられている。
 市内の各施設で使用する家具を、現地の素材を用い、現地の職人が量産する。土地の風土を重視した、地産地消のはしりともいえる製作手法である。職人の裁量も多分に残されており、見比べると、少しずつ違っていた。そんな「味」も、コレクターを魅了するのだろう。
 竹内さんはこの椅子がよほどお気に入りらしく、書斎をイメージしたこちらのしつらえでも使用。

デスクはピエール・ジャンヌレの従兄弟でもあるル・コルビュジエのデザイン。チェアの脇には、三島喜美代の陶による空き缶のオブジェが
ジャン・プルーヴェのベッドに、ペリアンのウォールランプなどを取り合わせ
メインビジュアルになった場所。ピエール・ジャンヌレ《Xレッグアームチェア》《トライアングル ローテーブル》に、ゲルハルト・リヒターとイヴ・クライン。こんな空間で、思索に耽っていたい(この椅子には座れなかった)
イヴ・クライン《Untitled Blue Monochrome (IKB 317)》(1958年)。個人宅には適したサイズの小品で、正直、欲しい

 こういったショールーム風の展示のほかに、竹内さんが最近力を入れているという、コンテンポラリーの抽象絵画を集めた部屋も。写真は、岡﨑乾二郎の作。抽象画はどれも大画面だった。

いつもの長いタイトル。《上方、二つの岩の列の間に、常緑の木立がある森の風景が現れる。下には洞窟があり、苔むした座で、ネレイスが暑さを避け休んでいる。壁の隙間から清流がせせらぎを奏で流れ落ちてくる。そこに牛が通ったって何が面白いもんですか。
火打石がカチンとぶつかり火が飛び跳ねた。死へとしていた者も空へ向いはじめる。陽気な炎の周りの冷たい地面の上で、乾したトウモロコシを挽き、わたしたちは食事の支度をした。奥さんは牛をこわがるかしら?
「あなたが誰だろうと天はあなたをじるだろう」きちんと並んで飛ぶ白鳥。羽を閉じ身を屈め地表そばを飛び、着水する小川を探す。帰還した喜びで羽を打ち鳴らす。予言の技法を捨てよう。道に牛がいなかったかい?
芝を横切り森に迷い込んだのは誰?オオヤマネコの毛皮をまとい叫びながら、猪を追いかける、人間以上に美しい人!あなたの振舞いは天を裏切る。平和の時は無作法で戦争の時は荒れ狂う。あなた、牛をこわいと思ったことはないの?》(2022年)


 ——現役のコレクター、進行中のコレクションによる本展は、コレクターの嗜好や傾向のみならず、作品に対する向き合い方・接し方までも表す内容となっており、それがまたユニークで、惹かれるところが多かった。
 竹内さんのように、少しずつでも、生活空間のなかに美を取り入れていきたいものだ。


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