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自身への眼差し 自画像展:1 /中村屋サロン美術館

 岸田劉生は、家族や友人・知人を次々と肖像画のモデルにし「首狩り」「千人斬り」とあだ名された。
 そんな劉生による肖像画だけを集めた挑戦的な展覧会「没後80年 岸田劉生 -肖像画をこえて-」が、かつて新宿の損保ジャパン東郷青児美術館(現・SOMPO美術館)で開催された。2009年のことだ。
 劉生の肖像画だけで展覧会が成立する時点で驚嘆に値するが、最も身近なモデルを使った自画像だけでも、3章構成の1章分ができてしまっていた。
 自画像のなかの劉生はどれも「短髪・眼鏡・面長」の同じ男性なのに、それぞれの絵には異なった心映えがたしかに認められる。そのありさまが、非常におもしろかったと記憶している。

 奇しくも同じ新宿、中村屋サロン美術館で現在開催中の「自身への眼差し  自画像展」は、日本近代洋画の作家1名につき1点の自画像を集めたもの。女性画家は含まれておらず、会場ではおじさん(一部、青年)の顔がずらりと並んでいる。異様といえば異様な空間であった。
 いずれも名の知れた画家たち。あの劉生の自画像も含まれているけれど、多くの画家は作品は知っていても顔にはピンとこないものだ。「この画家はこんな顔をしていたのか」といったちょっとした発見も相まって、なかなかに愉しいひとときを過ごすことができた。

 これらの自画像は、制作年代、制作時の年齢こそばらけているが、どれも画家が自己をひたすらに見つめ、描出しようとした苦闘の跡であることには変わりがない。
 自画像の魅力は、まさにそういったところにあるものと思っている。
 鏡を介して最もよく会い、最も時間と回数をかけて見つめてきたのは自分の顔だ。それを改めて絵として表すことは、わたしたちが想像する以上にハードな行為ではないかと思うのである……(つづく)


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