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深川から掛川へ コレクションを巻き戻す /東京都現代美術館

 東京都現代美術館の常設展「コレクションを巻き戻す」は、館蔵品を明治の初めから製作年ごとに1点ずつ選び、時系列に並べるものだった。このなかに、オノサトトシノブが飛び飛びで4点。
 オノサトといえば、図形で細かい区画をつくり、その内側をサイケな色調で几帳面に塗りこめる作品のイメージが強い。4点あったうちの最後の一点、最も寸法の大きい戦後の作がそうだった。
 残る3点は、若い順から暗めの色調の《洋館》(1935年)、ラフな筆触の《人と黄の円》(1940年)、色彩のコンポジション《人々》(1950年)という、いずれも小品。
 この4点からは、オノサトという作家の抽象表現への傾倒が容易にみてとれる。色調も明るくなっていくし、筆触は荒々しいものから、最終的には筆の動きすら見せないほど静かとなる。
 もちろん展示のうえでは、その間に複数の別の作家の作品が挟まれている。ジャンルでいえば日本画あり金工あり、戦争画は多数あり。そのなかであえて、ある作家が段階を踏んで作風を変えていくさまをこっそり見せていく仕掛けは、なかなかに心にくい。
 3点は三者三様であったが、いずれも目に愉しく、やさしく、ぜひ自室に掛けてみたいと思わせる好もしさを感じた。ついでにいうとサイズも大きすぎず、わが家の住宅事情に沿う。もともといだいていたオノサト像とのギャップ、反動もあるが、純粋に好みで〝いい絵〟だと思えたのである。
 この3点には共通点があった。「福原義春氏寄贈」。あの資生堂の福原さんである。
 じつは、掛川の「資生堂アートハウス」で開催中の所蔵品展「美術館で、過ごす時間」が気になっていたのだ。出品作家の顔触れを見て魅かれるものがあった。もっと、福原さんの感覚に触れてみたい。遠出をする価値は、あるはず。
 展示に出かける動機として、この「合いそうだな」というなんとなしの感覚は案外、大事なものである。 
 現美の常設を出る頃には、もう肚は決まっていた。掛川に行こうじゃないか。



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