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カルダー そよぐ、感じる、日本 /麻布台ヒルズ ギャラリー

 昨年11月にオープンした「麻布台ヒルズ」の地下には、ギャラリーが併設されている。ギャラリーといっても作品の販売を目的とした店舗ではなく、美術館に近い展示スペースである。
 オープニングの展覧会はオラファー・エリアソン(1967~)で、現代美術専門でやっていくのかなと思いきや、続く第2弾はアレキサンダー・カルダー(1898〜1976)。そうきたか!
 カルダーが考案した「動く彫刻」こと「モビール」の作品は、日本各地の美術館に収蔵されている。
 ゆえに、出合える機会は比較的多いけれども、カルダーだけの展示というのは、そういえば聞いたことがない。本展の公式ページによると「東京での約35年ぶりとなる個展」とのこと。次は、また30数年後かも……というわけで、行ってきた。


 本展に関して、他の展示といささか勝手が異なるのは、モビールというものが性質上「動いてこそ」の作品である反面、みだりに「動かす」ことには、安全や保存上の観点から危険がともなうという点。
 たとえば、展示冒頭のこの作品。赤の頂点、モビールの支点となる箇所が高さ2メートルほどにもなる大きな作だ。

 近寄ってまわりを歩くこともできるが、むろん手では触れられないため、モビールが動くさまは、ほとんど観ることができない。歩くときのかすかな風圧や、天井から出る空調の微風によって、ほんとうにわずかに揺らぐのみ。
 外は酷暑であるから、持ち合わせの扇子やハンディファンを使ってみてはとも思われるけれど、持ち物はスマホを除きすべてロッカーに預けて入場することになっており、「扇ぐ、息を吹きかけるなどの行為」を厳しく禁ずる旨が申し渡されていた。
  「動いてこそ」の作品の「動く」姿が観られない……というのは、本展がかかえる非常に大きなジレンマであり、宿命にして構造的な欠陥ともいえようが、むやみやたらにグワングワンと波打つ姿が観たいわけでもなし。加減を知らない来館者も出てしまうことだろう。これはこれで、奥ゆかしくて、いいじゃないか。

  「動く」姿は、上のような「スタンディング・モビール」と呼ばれるタイプではなく、天井から吊るされる「ハンギング・モビール」によって、より楽しむことができた。空調の風がより近いために、こちらはしっかり動き、ゆっくりと変容。そのさまを目で追っていると、時を忘れた。

少しずつ、かたちを変えていく
映す影もまた美しく、そのことを意識したレイアウトや照明となっていた

 壁には、絵画作品が展示されていた。カルダーに平面のイメージはまったくなかったが、そこは同じ作者で、立体と同じ世界が表現されている。ジョアン・ミロやカジミール・マレーヴィチを思わせる色彩・形態の、勢いだったりボリュームを感じさせる作が多く、みな、画面の枠を飛び出したがっているかのように錯覚してしまった。
 カルダーが立体作品、しかも「動く」ものを手掛けるにいたったのは、必然だったのかもしれないと、絵を観ていて思われたのだった。

じつは、カルダー自身は来日したことがなく、日本とのゆかりはあまりない。展示では、木や和紙(下の写真)などの和を感じさせる素材とカルダー作品をコラボ
昔は「コールダー」と呼んだりもしたが、いまは「カルダー」で統一されているらしい

  「風」がカギを握るとあって、酷暑にはまことに似つかわしい展示といえよう。
 麻布台ヒルズは六本木駅のお隣・神谷町駅直結で、地下で虎ノ門ヒルズ駅ともつながっているから、外に出る必要がないのもいい(もちろん、冷房がきいている)。
 9月6日まで開催中。その頃には、暑さが落ち着いているといいけれど……


大阪の国立国際美術館吹き抜けにぶら下がる大作のマケット、つまり構想段階の模型とのこと。どうりで見覚えがあるのだった



 ※泉屋博古館東京、大倉集古館、菊池寛実記念 智美術館あたり、さらには六本木界隈の各館とハシゴすることが可能な立地。今回は「智美術館→麻布台ヒルズ→サントリー美術館」というルートを、炎天下のなか歩いて巡った。
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